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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第39回冠婚葬祭のビジネス

はじめに

冠婚葬祭の4文字の内、最初の「冠」は、元服という日本古来の儀式において、男子(文字通り男の子)が大人になる通過儀礼として初めて冠をつけたことに由来します。時代が経つ内に、女子の成人を祝う儀式も元服と呼ばれるようになりました。因みに、「元服」の原意を紐解くと、初めて大人の服を着るということのようです。尚、現代では「冠」に属する行事として、七五三や還暦、更に就職祝いも含まれるようになっています。
2番目の「婚」と3番目の「葬」は、申し上げるまでもなく、結婚と葬式のことです。最後の「祭」は、法事やお盆、お彼岸での墓参や供養等の先祖を祭る行事に由来しますが、現代では正月や節分、ひな祭り、端午の節句、七夕等の年中行事も含まれます。

1.成人式

(1) 晴れ着
成人式は一生に一度だけ参加することができる記念行事であることから、よそ行きの中でも特に「晴れ着」と呼ばれる服を着るのが一般的であり、「スタジオマリオ」というサイトの「やっぱり気になる!みんな成人式は何を着ていく?」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。

成人式の服装マナーは?
「成人式は和服でなければいけない」、「スーツでなければダメ」、という決まりはありません。何を着て出席するかはあなたの自由。…(中略)…
ただし成人式は公式の場。新成人を祝福する式典ですから、少なくとも周りを不快にしない清潔感ある格好を心がけたいものです。 「私服【編集部註:的確には普段着】で行ったら入場できなかった」という話もあるようですが、それは常識で認められる範囲を超えてしまったのかもしれません。式典を催す側の方たちは、礼服で列席します。TPOに合わせることは、大人のマナーの1つです。
女性に人気はやっぱり振袖
成人式と言えばやっぱり振袖! 成人式に参加する女性の9割以上は振袖、着物を着るようです。

最近では着物をレンタルする人が多く、着物レンタル予約のピークは、なんと成人式の1年前の1月~3月が普通なのだそうです。
直前の予約では、好みの着物が予約できない場合もあるので、着物のレンタルを考えている人は、できるだけ早めに予約するようにしましょう。
(http://www.studio-mario.jp/event/comingofage/fashion/choose.html)

(2)晴れ着業者雲隠れ事件
新年早々の1月8日「成人の日」当日になって、「はれのひ」という振袖の販売・レンタル業者が突然営業を取り止め、社長が行方をくらませていることが判明し、この日のために振袖のレンタルや購入の予約をしていた数百人の女性の手元に届かないことから大騒動が起きました。余りにも大きいショックを受けて、参加を取りやめた被害者も少なくないようです。その一方で、一生に一度の楽しみを奪われた被害者を救済しようという同業者の厚意により、無償で振袖を借りて成人式に参加することができた被害者もいました。また、成人式を欠席した被害者のために振袖を無償で貸し出して、改めて成人式の日程を組んで祝福したり、記念撮影をすることが企画されています。
ところが、被害者は今年よりも、来年又は再来年の成人式に参加する人の方が多い模様です。このことから、予約は1年前どころか、2~3年前から受け付けることがビジネス慣行になっていることが窺われます。被害総額は数億円に上ると見られますが、呉服業界では被害者全員の救済に向けて動き出しており、実現することを期待したいものです。
(3)成人年齢の引き下げ
朝日新聞デジタルの「成人式は制服で出席? 18歳成人、呉服業界に危機感」(2018年1月7日04時00分配信)という見出しの記事によれば、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられると、成人式の参加者は大半が高校3年生ということになり、現行通り1月に開催すれば受験シーズンと重なって参加者は減少し、しかも制服を着用することが想定されることから、呉服業界では振袖の需要が激減することに危機感を募らせているとのことです。
また、文科省の担当者は「より多くの人が参加できるよう、各自治体で判断して欲しい」と話しているとのことですが、成人式を全国一斉に開催することを止めるのであれば、「成人の日」を国民の祝日から外して、各自治体が随意に日取りを決める制度に改めるべきだと思われます。
いずれにしても、成人年齢の引き下げを機に、成人式の在り方(特に参加マナーや開催日)を検討することが望まれます。

2.結婚式

(1)様式
 最近の結婚式の様式は大別すると、神前式とキリスト教式と人前式の3通りです。以前は菩提寺や自宅で行う仏前式も広く行われていましたが、現在はマイナーになっています。
①神前式
伝統的な神前式は、基本的に両家の結びつきという儀式という色合いが濃く、一般的には親族だけ参加して、由緒ある神社で行います。時にはホテルの仮神殿で、友人や知人も参加することもあります。服装は通常、新郎が紋付羽織袴であるのに対して、新婦は日本古来の白無垢ですが、好みによって色打ち掛けや黒引き振袖を選ぶことができます。新婦の髪型は文金高島田で、その上に綿帽子(または角隠し)を被せます。
儀式は「三々九度の盃」や「玉串拝礼」で構成されている式次第に従って、厳かに執り行われます。
②キリスト教式
一般的にカップルの両方または何れか一方がキリスト教の信者(クリスチャン)であれば教会で、両方ともクリスチャンでなければ結婚式場やホテルのチャペルで、結婚式を挙げます。
宗派は大別すると、カトリックとプロテスタントに二分されますが、結婚式場やホテルのチャペルでは、通常、アルバイトで派遣されたプロテスタントの牧師が司式を行います。
③人前式
宗教的な色彩や伝統的な形式とは全く無関係に、列席者(ゲスト)へ結婚を誓い、証人になって貰うという目的で、新郎新婦が自由に企画することができます。しかし幾ら自由と言っても、儀式として「婚姻届」または「結婚証明書」に新郎新婦と証人の署名・押印は欠かすことができず、それに先立って新郎新婦の誓いの言葉や指輪交換が行われます。
(2)結婚披露宴
結婚式の終了後、通常は引き続き披露宴が催されます。費用と時間という観点から見れば、式よりも披露宴の方がメインであると言って良いでしょう。
ところで、披露宴がビジネスとして行われるようになったのは、昭和30年代の後半のことです。互助会直営の総合結婚式場が続々と登場したことが契機となり、次第に式次第が定型化され、お色直しのほかに、キャンドルサービスやケーキ入刀、両親への花束贈呈等が定番になりました。極めつけは、新郎新婦がスモークやレーザービームの中をゴンドラに乗って空中から登場する演出で、いわゆる「派手婚」が隆盛期を迎えました。

ところが、余りにも演出が派手になり、ショー化が進み過ぎたことに対する批判と、バブル崩壊による景気低迷が重なり、「派手婚」が影を潜め、金をかけない「地味婚」へ移行するようになりました。
しかも最近は少子高齢化と晩婚化が進行しているために、結婚式専門業が激減し、ホテルやゲストハウス、貸しホール、レストラン等で行われるようになり、費用も形式も多様化しています。まだ一部には両家の縁結びや、派手な演出も残っていますが、新郎新婦にとって「一生に一度の記念行事」という観点から、形式に拘らず、門出を祝う気持ちを重視する傾向が強くなっているようです。
3.葬儀
葬儀という言葉には広狭があり、狭義では「葬式」と同義で用いられますが、広義では通夜から始まって、葬式、告別式、火葬を経て、納骨に至るまでの一連の死者を弔う儀式をいいます。尚.葬儀と葬式の広狭について逆の解釈や説明も見受けられますが、一連の死者を弔う儀式を行う専門業者を自他ともに「葬儀屋」と呼んでいることから、本稿では、葬式は葬儀で用いるのに対して、葬儀を広義で用いることにします。
いずれにしても、葬儀は宗派によって異なり、大別すると仏教や神道、キリスト教がありますが、我が国では仏教が一般的であることから、仏式を取り上げることにします。
(1)進行
①通夜
元々は親族や知人が死者を偲んで夜明かしをすることが慣例になっていましたが、近年は日が変わらない内に終了する「半通夜」が一般化しています。それでも親族の一部が残って、夜明けまで蝋燭や線香の火を守る(寝ずの番をする)ことが多いようです。
また、通夜の読経や焼香の終了後に、弔問客に食事や酒がふるまわれる「通夜ぶるまい」が催されますが、親族に限られる場合もあります。
②葬式
葬式は故人の成仏を祈るための儀式です。導師と呼ばれる僧侶が引導を渡すために読経を上げている間に、親族が焼香をします。引き続き知人や友人等(会葬者)が焼香して、告別式を兼ねる場合もあります。
③告別式(お別れ会)
告別式は出棺の前に会葬者が最後の別れを告げるための儀式で、会葬者が読経の間に焼香します。
家族葬や密葬の場合は、日を改めて「お別れ会」を催すことになります。
(2)葬儀ビジネス
一昨年(平成28年)の年間出生者数は約100万人であるのに対して、年間死亡者数は約130万人で、総人口(概算で1億2692万人)は約30万人減少しています。平均寿命の伸長と出生率の低下が相俟って少子高齢化現象が進んでおり、年間死者数は今後十数年間も増加することが想定されます。
また、総務省統計局によれば、「65歳以上の高齢者(以下「高齢者」といいます)人口は3186万人(平成25年9月15日現在推計)で、総人口に占める割合は25.0%となり、人口、割合共に過去最高となりました。前年(3074万人、24.1%)と比べると、112万人、0.9ポイント増と大きく増加しており、これはいわゆる「団塊の世代」(昭和22年~24年の第1次ベビーブーム期に出生した世代)のうち、昭和23年生まれが、新たに65歳に達したことによるものと考えられます」。
(http://www.stat.go.jp/data/topics/topi721.htm:「I 高齢者の人口」)
このような社会的状況を反映して、ブライダルビジネスが逆風を受けているのに対して、葬儀市場は追い風を受けて拡張しており、2兆円超とも言われています。
ところで、長年の社会的風潮として、陽気なブライダルビジネスとは対照的に、陰気な葬儀ビジネスは忌み嫌われていました。ところが、10年程前(2008年)に「おくりびと」という映画が大ヒットしたことから窺われるように、世間の見る目が変わって来ました。
しかも葬儀事業者の中には、ブライダル業界から転身して、結婚式のようなサプライズや感動演出により、従来のしめやかな雰囲気や暗いイメージを一掃する業者も登場しました。
それが行き過ぎだという批判や、バブル崩壊による景気低迷が重なり、近年は金をかけない葬儀(地味葬)が普及しています。
4.七五三
(1)由来
元々は11月15日に子どもの成長と幸福を祝う武家の儀式でしたが、次第に一般社会に広まりました。語源は、3歳に「髪置(かみおき)の儀」(男女が剃っていた髪を伸ばし始めるための儀式)、5歳に「袴(はかま)着(ぎ)の儀」(男児が初めて袴を着る儀式)、7歳に「帯解(おびとき)の儀」(女児が始めて帯をしめる儀式)を行ったことに由来します。このような経緯から、男児は3歳と5歳、女児は3歳と7歳に行うのが一般的ですが、男児は5歳だけ祝う場合もあります。
ところで11月15日に行うようになった理由に関しては、収穫期の満月や「鬼宿日」(鬼が出歩かない日等の諸説があって定かでありません。この日は混雑が予想されることから、近年は時期をずらして都合の良い日にお参りすることが定着しているようです。
(2)七五三ビジネス
①記念撮影
写真館(スタジオ)で貸衣装の着付けやヘアメイクをして、記念撮影をすることが社会的慣行になっています。
ところで、こども専門写真館の「スタジオアイリス」では、「Happy Birthday 七五三」という企画があり、お誕生日に七五三の記念撮影を行い、様々な特典が与えられます。繁忙期を分散する効果が期待されます。
②千歳飴
「千歳飴」という名前の由来に関しては、江戸時代に浅草の浅草寺で紅白の棒状の飴を「千歳飴」と名付けて売られていたという説と、大阪の商人が江戸へ来て千年の長寿という意味合いを込めて細長い飴を「千歳飴」と名付けて売り出したという説があります。
いずれにしても、江戸時時代に子供の健康と長寿を祈る親心を籠めて、七五三につきものとなったようです。
規格は何時の頃か分かりませんが、直径は15㎜位で、長さは1ⅿ以内と定まっています。
5.結語
冠婚葬祭は元々、長い人生の節目節目に、本人及び家族や親族、友人、知人、隣人等が喜怒哀楽を分かち合う集いとして始まりました。それが社会的慣行となり、やがて儀式として定着したものですが、往々にして形骸化して、本来の目的が見失われる傾向が見られます。特に商魂たくましい業者が企画するサプライズや過度な演出は、感動や感激の押し付けという印象を受けます。そのような行き過ぎたビジネスは影が薄くなっていますが、相場がはっきりしない業界であり、法外な料金を請求する業者もいます。
いずれにしても、冠婚葬祭の本来の目的や適正な費用という観点から、産官学が連携して、冠婚葬祭の在り方を検討することが望まれます。

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