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第72回クレーマーへの組織的対応について

リスク政策

千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 教授 村上徹 著

クレーム対応するのは、誰でも億劫であったり、嫌なものです。なかでも不当な要求や謝罪を求めて延々と話し続けたり、大声を出す、暴力団の影をちらつかせる等のクレーマーの対応は、嫌なものを通り越して大きなストレスとなり、人によっては、追い詰められて心の均衡を失ってしまうこともあります。
クレームとはいかなるものか、どう対応すべきか。個々人としてではなく、組織としてどう対応すべきか、危機管理の観点からその手法を述べてみます。

1 クレーム対応とは?

本来クレームとは、会社や機関・団体が真摯に耳を傾けなければならないものです。
民間の会社や公的団体等どのような組織であっても、クレームはその殆どが正当なクレームであり、見逃してきた、あるいは気付かずにいた業務の不具合を指摘してくれるものであり、大変ありがたいものです。また、クレームは住民や顧客からの貴重な情報であり、真摯な対応つまり、話を良く聴き、記録を取って誠実に処理(説明と謝罪)する。さらに同様のクレームが発生しないよう職(社)員にクレームの原因と対処方法を徹底させる。つまり、再発防止策の策定と全職員(社員)への浸透ということです。
こちらから謝礼を出して感想や意見を聴く「モニター」は、まさしく積極的なクレーム集めといえるでしょう。
この有難いクレームを対応せずに放っておく、あるいは不適切な対応をするといったことがあれば、クレームを寄せた人の不満は高まり、民間会社であれば顧客を失い、公的機関であれば、市民の協力を失うことになり、その存在意義は大きく損なわれることになります。
しかし、これら正当なクレームを大事にすることと、反社会勢力による不当要求、民事介入暴力に組織で毅然と対応することとは、全く異なります。
また、クレームの中には反社会勢力による不当要求、民事介入暴力に至らないものでも、理不尽な金銭要求、担当者に対する執拗な要求、攻撃等がなされることがあります。私は、これらを「ハードクレーマー」と呼んでいますが、
実務上は、このハードクレーマーの対応が多くの方を悩ませていると考えています。今回は、「ミンボー」と呼ばれる民事介入暴力やハードクレーマーの不当要求に対し、いかなる危機管理が必要か、つまり、何を準備し、どのように対処していくべきかを考えて行きます。

2 具体的な対応

(1) クレームの受付
クレームを受け付けたときは、まず、相手方の感情を沈めるためにお詫びの挨拶をすることです。お詫びの言葉の意味は、相手方に不快な思いをさせたこと、わざわざ、来所したり、電話をかけてきてくれてるのですから、そのことに対する挨拶であり、クレームの責任を認めたこととは異なります。
その上で、クレーム内容の特定と相手方の特定をすることです。
ア クレーム内容の特定
商品やサービスとクレーム内容を5W1Hにより特定することで、事実確定を行うことが今後の対応の基礎になることを、全職員の共通認識にしておくことが指導に当たる者の重要な役割です。

イ 相手方の特定
相手の氏名、住所、電話番号(連絡先)は落とさず聴きましょう。同時に、クレームの当事者かどうかの判断をすることが大切です。本人か本人に頼まれて(自ら買って出てきたか。)きたかの確認は欠かせません。

(2) 原因の究明、調査と対応方針の策定
ア クレーム内容と現場の対応を調査し、サービスの不足な点、商品の欠陥等、こちら側の落ち度の有無、程度等を確定する必要があります。この調査は、再発防止の出発点になりますし、その後の対応を決定付けるものになりますから、部内の論理でやることは厳禁です。私情を挟まず、厳正な調査が必要です。
この時点で重要なのは、すべて調べ切るということです。後になって「実は、・・・・」と新たな問題点が出てくることは、最悪の事態を招くことと認識し、すべて出し切った、これ以上はない、ということを組織全体、特にトップが確認することが求められます。

イ 対応案の策定
対応案は、これまでの同種のクレームと均衡を欠かないことに留意する必要があります。公平性が保たれているかがポイントになります。公平性は現在の他の事案と、過去の事案とを照らし合わせていくことが必要です。会社であれば約款、公共団体等では関係規則に則った対応が求められます。そこまでいかないまでも部内(社内)基準に適合した対応でなければいけません。例外的な対応が必要である場合は、以後の対応に悪い影響をもたらすことが考えられますので、その妥当性、必要性について、しっかりと詰めておく必要があります。声の大きな住民(顧客)と物言わぬ住民(顧客)、ややもすると声の大きな者に甘い(特別な)対応をしがちです。つねに平等、公平に留意した対応となっているか。複数の眼でのチェックが必要です。「早く解決したい」、「クレーマーとの折衝はしたくない」、ひどいのは「どうせ自分の金ではない」等の無責任な考えで、勝手な和解案を提示することは決して行ってはいけません。
このような大甘で迎合的な対応は、短期的にも長期的にも組織に弊害をもたらす結果にしかなりません。百害あって一利なしです。そういう意味でも対応策の策定は組織全体が関わり、トップが承知しておくことが重要なのです。

(3) クレーマーとの交渉
ア 窓口(担当者)の指定
折衝に当たる者を2人以上指定し、担当者の体調不良等の場合以外は最後まで同じメンバーで行くこととします。この際、クレームの原因となった者、つまりクレームの当事者を交渉に当たらせることはやめましょう。交渉担当者からは、その都度報告を求め、組織として状況の認識をしておくことは、交渉を正しい方向に進めるとともに、担当者のストレスを軽減するため必要不可欠なことです。

イ この段階でトラブルが予想されるときは、事前に警察に相談してお くことがその後の対応に大きく関わってきます。警察が事前にトラブルの内容を把握している状況で具体的な違法行為(脅迫や暴行事案)が発生した場合、速い対応が期待できます。

ウ 交渉に当たっての心構え
住民(顧客)と職員(社員)との関係は、本来対等であるはずです。しかし、サービスを提供する側と提供を受ける側では、提供を受ける側の立場が上になりがちです。商売であればなおさらです。これを勘違いしているクレーマーが土下座を強要して逮捕されるといった事件が相次ぎました。
この事例を待つまでもなく、社会通念としてサービスを提供する側と提供を受ける側は対等であることは自明ですが、怖いのは、職(社)員側に「お客様は神様」という意識が根強く残っているということです。少なくとも、交渉に当たる者には、対等な関係をしっかりと認識させ、その確認をしておくのは上司としての義務です。これは、横柄でぞんざいな態度で交渉に当たれということではありません。このような態度は新たなクレームを発生させます。懇切、丁寧、正確にかつ誠実な態度で臨むこと言うまでもありません。

エ 交渉の場所
クレーマーとの交渉はホームが原則です。相手方の指定した場所に行くのは、交渉がクレーマーのペースで進むばかりか、酷い例としてその場に監禁状態になったこともあります。こちらの事業所(会社)で面会することが基本原則です。

オ 原則の確認と実践
担当者の説明に納得しないケースでは、納得しないのではなく、最初から納得するつもりがない、金銭等の譲歩を引き出すまで引き下がらないと決めていることがあります。また、自分のストレスをクレームによって晴らそうとしているケース等多様ですが、いずれもハードクレーマーです。このような者は、大事な顧客でも善良な市民でもありません。要望に沿えないことを明確に伝え、あとは繰り返し拒否の意思表示をすることになります。
ここで譲歩すると、歯止めが利きません。最悪なのは担当者が規則を枉げたことを逆手に取られて、さらなる要求をされることです。反社会勢力の常套手段です。
クレーマーは納得しない、担当者は譲歩しない、では解決できないのではないか?その通りです。譲歩しての解決はあり得ません。時間を区切って交渉を切り上げることを告知して終了とします。例えば、「もう十分説明いたしましたので、私どもといたしましてはこれ以上ご説明いたしかねます。」等打ち切りを宣言して、実際に席を立ちましょう。交渉は、内容にもよりますが、一つの目安としては、説明を終えてから30分以上は必要ありません。この際、担当者側から後日の面会を持ち出す必要もありません。そのような提示は、クレーマーに譲歩の期待を持たせるだけです。ただ、以後の交渉をすべて拒否するのではなく、クレーマーから再度の面会申し出があれば、2回目以降は時間を区切っての交渉(面会)とすることが肝要です。

カ 効果的な対応策
○ 録音の実施
クレーマーとの交渉状況を録音しておくことは、事後の対応に大 変役立つものですが、さらに期待できる効果として、クレーマーに対する大きなけん制になり、言いたい放題、好き勝手な暴言をしにくい環境になります。
多くの会社で電話相談の窓口にサービス向上のため録音していることを相手に通知してから相談を受けています。電話録音に関しては、通信の秘密の侵害になるのではないかと心配される方がいますが、電話当事者間の録音については、相手方に断ることなく録音した事例で、通信の秘密を犯したことにならない旨の判例(最判H12、7,12)があります。
しかし、録音効果を考えると事前に録音していることを通知することが有効です。また、面会時も可能な限り録音することが、クレーマーに対しては大きなけん制になり、担当者には心強い味方になります。
反社会勢力の者から録音することに難癖をつけられたらどう対応すべきでしょうか。私が勧めている対応は、「当方(社)の規則で録音することになっています。警察にも録音するよう指導されております。」というものです。つまり、相談を受けるときは正確を期し、後日の紛議を避けるため例外なく録音していること、本件クレームは、警察に相談済みということを明示して、交渉に入るということです。

今回は、基本的な対応策について記述しましたが、クレーマーは多種多様で、画一的な対応では状況を悪化させることになりかねません。以後、個別の対応は稿を改めて述べていくことにします。

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