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  1. 負債相続-最前線 椎葉基史
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第2回 そもそも「相続」って何?

■「負債相続」が相続の落とし穴になっている

そもそも「相続」とは何なのでしょうか。相続というのは法律上、人が亡くなったときに必ず発生するものです。年間の死亡者 数を表した統計資料では、平成26年の段階で127万人のかたが亡くなっていらっしゃいます。つまり、年間127万件の相続が発生しているということになります。 厚生労働省の人口統計によると、これから20年先に掛けて、年間の死亡者数は増加するといわれています。20年後にはおよそ年間 160万人を超えるという予測を立てています。

したがって、私は司法書士ですが、ほかには行政書士や弁護士、税理士、会計士などの専門家の間で、そして金融機関や保険業界、さらには不動産業界においても「相続対策」というものを声高にうたっており、 相続対策が非常に盛り上がっているのが現状です。ただし、基本的にはプラスの財産に対してどうするかという対策がメーンなのですが、果たして資産だけが相続の対象になるのでしょうか?

そもそも法律では、相続が発生するとプラスの財産も下りてきますが、借金も必ず下りてきま す。これが日本の法制度です。負債もまた相続されるということです。この「負債相続」が相続問題の落とし穴になっているのです。

現状では、相続対策といわれているもののほとんどが、全てを引き継いだ上での遺産分割や遺言の対策が取られています。故人の残した財産を引き継ぐのか(当然この遺産には借金も含まれています)、放棄するのかを決めなければならないというのが相続者における法律の立場です。

次に、負債相続に関わる具体的な数字を見ていきま しょう。
グラフ A は、平成元年から平成25年までの相続税を納付している人数と、相続放棄の件数を比較しているグラフです。

平成元年当初は相続税の納付者がおよそ12万件、 相続放棄がおよそ4万件でした。その後バブル経済が崩壊、最新の統計では平成25年の段階で相続放棄はおよそ4倍越えの17万件です。相続税の納付者に関しては、ほぼ同じ数をたどっているという状況です。 相続税に関しては昨年法律が改正されましたので、増加が予想されています。相続放棄に関しては何ら制度改正もない状況ですが、4倍以上も増えているという状況です。このことから相続放棄がいかに多いかということが分かります。

グラフ B は、公証役場で取られている公正証書遺言の年間件数と相続放棄の件数を比較したものです。平成元年当初は遺言書の作成件数と相続放棄の件数はおよそ4万件であり、数字はほぼ同じでした。その後は相続放棄のほうが圧倒的に多くなっています。平成26年のデータでは18万件の相続放棄の手続きが取られています。

最近は、「遺言」が相続対策として声高に叫ばれていますが、それでも年間10万件程度しか手続きは取られていないのが現状です。このことは、表に現れていないにもかかわらず、陰で相続放棄の手続きを取っていらっしゃるかたが多くいらっしゃるということを示しているのです。

グラフ C は、家庭裁判所に申し立てられている年間の件数をジャンル別に割合で表したものです。驚くべきことは、家庭裁判所で取られている手続きの中におけるおよそ4分の1が相続放棄の手続きであるという事実です。これを見てもいかに相続放棄の手続きが多く取られているかということが分かります。

私は日々、「負債相続」の現場でご相談を受けている立場ですが、このような現状に対して、専門家がいかに関わっていないかということを実感しています。本来ならば、相続放棄を取るべきなのに、取らずにそのままにしているというかたがたくさんいらっしゃると私は感じています。

※『相続救急110番 第1号』(2016年5月20日発行、司法書士法人ABC)より転載(一部編集)

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