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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第42回 老人福祉の貧困

産業法務の視点から

平川 博氏

1.高齢者の経済状況

内閣府が作成した『高齢社会白書』(平成29年版)の「第1章 高齢化の状況」「第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向」「2 高齢者の経済状況」では、以下のように記載されています。

(1)経済的な暮らし向きに心配ないと感じる高齢者は64.6%
60歳以上の高齢者の経済的な暮らし向きについてみると、「心配ない」(「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」の計)と感じている人の割合は全体で64.6%であり、年齢階級別にみると、「80歳以上」は71.5%と高い割合となっている(図1-2-2-1)。

(2)高齢者世帯の所得は、その他の世帯平均と比べて低い
高齢者世帯(65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯)の平均所得(平成26(2014)年の一年間の所得)は297.3万円で、全世帯から高齢者世帯と母子世帯を除いたその他の世帯(644.7万円)の5割弱となっている。
なお、平均所得金額で見るとその他の世帯と高齢者世帯の差は大きいが、世帯人員数が少ない方が生活コストが割高になるといった影響を調整し、世帯人員数の平方根で割った平均等価可処分所得金額でみると、高齢者世帯は211.6万円となっており、その他の世帯(307.7万円)と比べて、96.1万円低い(表1-2-2-2)。

表1-2-2-2 高齢者世帯の所得

区 分 平均所得金額(平均世帯人員) 平均等価可処分所得金額
高齢者世帯 297.3万円(1.53人) 211.6万円
その他の世帯 644.7万円(2.98人) 307.7万円
全世帯 541.9万円 (2.57人) 286.0万円
資料:厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成27年)(同調査における平成26(2014)年1年間の所得)
(注1)高齢者世帯とは、65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯をいう。
(注2)平均等価可処分所得とは、世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整したものをいう。
(注3)その他の世帯とは、全世帯から高齢者世帯と母子世帯を除いた世帯をいう。

さらに、公的年金・恩給を受給している高齢者世帯における公的年金・恩給の総所得に占める割合別世帯数の構成割合をみると、68.0%の世帯において公的年金・恩給の総所得に占める割合が80%以上となっている。…(中略)…

(5)65歳以上の生活保護受給者(被保護人員)は増加傾向
生活保護受給者の推移をみると、平成27(2015)年における65歳以上の生活保護受給者は97万人で、前年(92万人)より増加している。また、65歳以上人口に占める生活保護受給者の割合は2.86%であり、全人口に占める生活保護受給者の割合(1.67%)より高くなっている(図1-2-2-8)。

(http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_2.html)

2.老後破産の原因

泉総合法律事務所HPの「他人事ではない!悲惨な老後破産の現実と実態・今からできる対策」(2017年10月03日掲示)と題するウェブページでは、「1.老後破産とは」「(2) 老後破産の原因」という見出しの下に、以下のように記載されています。

①住宅ローン返済…(中略)…
定年後は、高額な住宅ローンをいつまでも支払うことはできません。住宅ローンの支払いのために貴重な老後の生活資金を費消し、老後破産に陥ったケースがあります。

②高額医療費
高齢になれば、重い病気にかかる可能性が高くなります。…(中略)…重い疾病にかかった場合には保険治療では助かりません。その時に備えて医療保険をかけておくべきなのですが、これを怠り、高額医療費のために貴重な老後の生活資金を費消し、老後破産に陥ったケースがあります。

③高齢出産…(中略)…
単純に考えて、子どもが大学を卒業するまで22~23年かかります。そこから逆算すると、37、38歳までの子どもでないと定年までに教育費を払い終えることは厳しいと言えます。子供の教育費のために自らの貴重な資金を浪費してしまい、自己破産に追い込まれる者は跡を絶ちません。

④成人した子供との同居…(中略)…
成年した子どもがいつまでも親もとで生活している場合があります。それぞれの家庭には様々な事情があり、一概には言えないのですが、少なくとも収支という点からすると、定年までは就業している親の給料から子どもの分を含む生活費を支出することになりますが、親の定年後は親が老後のために貯蓄している資金から支出せざるを得ません。このような場合に老後破産となるケースは跡を絶ちません。

⑤生活設計が甘い…(中略)…
自分のライフスタイルを現在の収入に照らして調整できなかったために、浪費してしまい、老後破産に陥ったケースもあります。

⑥「宵越しの金は持たない」主義の人…(中略)…
定年前と同じ生活を老後も続けられると考えて浪費を積み重ね、やがて老後破産してしまうケースです。

(https://izumi-saimu.jp/column/jikohasan/rougohasan)

3.高齢者犯罪

法務省が作成した『犯罪白書』(平成29年版)の「第4編 各種犯罪の動向と各種犯罪者の処遇」 「第8章 高齢者犯罪」 「第1節 犯罪の動向」では、以下のように記載されています。

4-8-1-1図は、刑法犯について、年齢層別の成人検挙人員の推移(最近20年間)を見たものである。高齢者の検挙人員は、平成20年まで著しく増加していたが、その後はおおむね横ばいで推移しており、他の年齢層と異なり、高止まりの状況にある。28年は他の年齢層と比較して最も多い4万6,977人(前年比1.4%減)であり、9年の検挙人員の約3.7倍となっている。

4-8-1-2図は、刑法犯の成人検挙人員の人口比の推移(最近20年間)を年齢層別に見たものである。平成28年における高齢者の検挙人員の人口比は、9年の約2.1倍であるが、他の年齢層よりは相対的に低く、20歳代と比べると半分以下である。

4-8-1-3図は、平成28年における高齢者の刑法犯検挙人員の罪名別構成比を男女別に見たものである。全年齢層と比べて、高齢者では窃盗の割合が高いが、特に女性では、約9割が窃盗であり、しかも万引きによる者の割合が約8割と際立って高い。

4-8-1-4図は、高齢者の検挙人員の推移(最近20年間)を罪名別に見たものである。高齢者の刑法犯検挙人員の約7割を占める窃盗は,平成24年まで著しく増加していたが,その後はおおむね横ばいで推移しており,28年は3万3,979人(前年比1.3%減)と,9年の約3.6倍であった。傷害及び暴行の検挙人員も著しく増加しており,28年は両罪で5,823人(同5.4%増)であり,9年の約17.4倍であった。重大事犯である強盗の検挙人員も増加傾向にある。

(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/n64_2_4_8_1_0.html)

4.孤独死

ラストクリーニングというサイトの「特殊清掃」というカテ中、「【画像あり】孤独死とは?急増する孤独死の原因と事前の対策」と題するウェブページでは、「2. 孤独死が増えている原因」という見出しの下に、以下のように記載されています。

▮2-1. 未婚者が多くなっているから

出典 http://directorblog.jp/archives/51689035.html

近年は、若い人も高齢者も未婚率が以前と比べて高くなっているので、一人暮らしが多くなり、その結果、万が一の際に遺体発見が遅れて孤独死に至るケースが増えています。

▮2-2. 頻繁に家族と連絡を取り合っていないから

出典 http://www.minnanokaigo.com/news/N23198352/

▮2-3. 近所付き合いの希薄だから

出典 http://www.minnanokaigo.com/news/N23198352/

最近の日本では、プライバシー意識が高まり過ぎて地域コミュニティーが崩壊寸前になり、近所付き合いがほとんどない地域が多くなっています。その結果 いろいろと相談できる人もいなくなって孤独死が増えているようです。

▮2-4. 貧困者が増えたから

出典 http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/gaiyou/s1_2_2.html

体力に衰えを感じている高齢者は、老人ホームなどの介護施設に入居すれば孤独死を防ぐことができるのですが、入居には入居時の一時金や毎月の費用が掛かります。そのお金を捻出できない貧困層の人たちは、当然孤独死の可能性が高くなっています。

【ちなみ情報】

孤独死の直接的な死因に次のものがあります。心筋梗塞・脳溢血・肝硬変・ヒートショック・オーバーシュート・肺炎による体力消耗・骨折による不動で衰弱など

(https://last-cleaning.com/lonely-death-7271)

同ページでは、「4. 東京都での孤独死データ」という見出しの下に、以下のように記載されています。

▮4-1. 年間孤独死数の推移

出典 http://www.minnanokaigo.com/news/N23198352/

人間関係が希薄だといわれる都会における、「高齢者の孤独死」も増えています。東京都監察医務院が公表している統計データによると、2003年には1441名だった東京23区内の孤立死が2012年には2727名に。10年間で約2倍にまで到達しており、いわゆる“独居老人”が増加した結果、孤独に亡くなる方の数が倍増した事実が実感できるのではないでしょうか。

(前同)

5.下流老人

ホンシェルジュ(/honcierge)というサイトの「本棚ストーリー」というカテ中、「10人中9人が『下流老人』に?恐れる前に知っておきたい社会の歪み」(2017.04.15掲示)と題する記事では、以下のように記載されています。

■下流老人の定義
下流老人について、老人の貧困問題を扱った本『下流老人』の著者で、「下流老人」という言葉の生みの親である藤田孝典は、以下のように定義します。
・「年金や貯蓄が少ないうえ、病気や事故、家族問題や介護トラブルなどの事情により貧困生活に陥っている高齢者」(「月刊ガバナンス 2017年2月号」より引用)。
・収入面では、生活保護基準相当の暮らしを送る高齢者と、その懸念がある高齢者(=単身高齢者の場合、低い年金か無年金で月6万~12万円程で暮らしている高齢者)
また藤田は、下流老人の特徴を「3ない」状態にあるとしています。
①「収入が少ない」…(中略)…
②「貯蓄がない」…(中略)…
③「頼れる人がいない」…(中略)…

■高齢者の貧困率
2015年のOECDの調査で、日本の高齢者(65歳以上)の相対的貧困率が19.4%という結果が出ました(Forbes JAPANを参考)。…(中略)…
そのうち、単身男性のみの世帯貧困率は38.3%、単身女性のみの世帯の貧困率は52.3%となっており、単身高齢者世帯の貧困は相対的に高いと言えます。

■下流老人が生まれる原因
団塊の世代が高齢者となり、高齢者の数が増え、認識されやすくなってきたという高齢者の貧困問題。主な原因には「病気や事故、家族問題や介護トラブルなどの事情」があるといいます(「月刊ガバナンス 2017年2月号」より引用)。
また前述の藤田は、複数の問題を同時に抱えているという「多問題家族」の増加も指摘。多問題家族とは、家庭内にて同時に複数の問題を抱える家族のことです。例えば、家庭の貧困問題と両親間の不仲などが挙げられます。
多問題家族は、社会福祉のサポートを拒否し、地域社会からも孤立する傾向にあるそうです。またそれらの家族は、自己責任や個人の努力といった範囲を超えている状態にあるといいます。

■『下流老人』著者が迫る背景
さらに、下流老人の原因を深掘りしてみましょう。
『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』では、以下の3点を下流老人の原因として挙げています。
①年金制度の機能不全
②年金受給額の減額が生み出す、可処分所得(個人が自由に使える所得の総額)と貯蓄額の減少
③現役中に培われなかった職場以外での繋がり生み出す、老後の孤立化

ここでは①について、さらに詳しく見ていきましょう。
著者は、年金制度の機能不全が、下流老人急増の最大の原因だといいます。
そもそも国民年金は、家族の扶養を前提として組み立てられたもの。しかし現在では、家族の形は変化し、子どもと一緒に住んでいる高齢者は少数派です。
このような、家族を含む様々なセーフティネットから抜け落ちている高齢者が病気や怪我をすれば、即下流老人となる可能性があるというワケです。

(https://honcierge.jp/articles/shelf_story/2339)

6.無(未)届け老人ホーム

(1)老人福祉法違反
高齢者住宅財団が平成29年3月に発行した「未届け有料老人ホームの実態に関する調査研究事業報告書」の「第1章 調査の目的と概要」では、「1.調査の背景と目的」という見出しの下に、以下のように記載されています。
後期高齢者の増加、単身高齢者世帯の増加等を背景に、有料老人ホーム(※)の実態があるにも関わらず、老人福祉法で義務付けられた届出をしていない、いわゆる「未届の有料老人ホーム」という、行政や地域が把握しにくい高齢者向けの居住施設が増えつつある。これまで、閉鎖的な運営で潜在化している未届の有料老人ホームが、虐待事案等を契機に顕在化したことも問題になっている。
(※)老人福祉法第29条第1項に基づき、高齢者を入居させ、食事の提供、介護の提供、家事の供与、健康管理のいずれかのサービスを提供している施設
…(中略)…
未届の有料老人ホームの中には、老人福祉法に基づく届出義務を遵守していないだけでなく、不適切・不十分な人員配置・住環境の面で入居者の処遇等に課題がある状態で運営されているものがあることが懸念されている。特に急速に高齢化が進む都市部では、新たな未届の有料老人ホームが生じる状況と潜在する未届の有料老人ホームを都道府県等が捕捉して届出を促すための指導業務が拡大する状況があり、本来都道府県等は入居者の適切な処遇確保のための指導に注力することが求められる中において、届出促進の対策を講じることは急務である。

(http://www.koujuuzai.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/05/h28_jigyo3.pdf)

(2)社会問題

①虐待事件
「認知症ねっと」というサイトの「名古屋『ケアホームひまわり』職員3名、93歳の認知症入所者に対し暴行の疑いで逮捕」(2015年4月9日掲載)と題する記事では、以下のように報じられています。
■無届けの有料老人ホーム
名古屋市名東区にある無届けの有料老人ホーム「ケアホームひまわり」で、男性職員3名が、入所する93歳の女性に暴行を加えた疑いで愛知県警守山署に逮捕された。
女性は3年前から入所しており、要介護度5で、少し前のことも覚えていないほどの認知症高齢者。

■スマートフォンに暴行の様子を撮影
3人の容疑者は30代と20代。4人部屋に入居していた認知症の女性に対し、口に指を入れたり、指で鼻をふさいだり、持ち上げたりする暴行を加えた疑い。
事件は、容疑者にしつこく声をかけられたという女子高校生から相談を受けた守山署が、事情を聞いた際、スマートフォンに暴行の様子を撮影した動画が保存されていたことから発覚した。動画には、いやがる高齢女性の声と、容疑者の笑い声も記録されていた。

(https://info.ninchisho.net/archives/3594)

②火災
朝日新聞デジタルの「無届けホームの疑いで市が調査 札幌11人死亡火災」(2018年2月3日12時21分配信)と題する記事では、以下のように報じられています。
札幌市東区の木造2階建て共同住宅が全焼し11人が死亡した火災。全焼したそしあるハイムは消防法上、スプリンクラーの設置が不要な「下宿」とされるが、設置が必要な有料老人ホームだった疑いがあるとして、札幌市は2日、運営会社から事情を聴いた。さらに市消防局は、同社が運営するハイムを含む41施設を対象に、避難経路や防火設備などを調べる立ち入り検査を始めた。…(中略)…
厚生労働省によると、無届けの有料老人ホームは16年6月の時点で全国1207施設。北海道内は409施設で、うち231施設が札幌市内に集中している。また一般財団法人「高齢者住宅財団」の16年度の調査では、道内で回答した122施設のうちスプリンクラーを設置しているのは約36%だった。
スプリンクラーの設置には多額の費用がかかる。入居者の多くは生活保護の受給者や高齢者ら。運営側も資金難にあえぐ所が多く、負担は重荷だ。…(中略)…
秋元克広市長も2日の会見で「スプリンクラーを設置しなさいと言っても『費用をどうするんだ。事業をやめてしまいますよ』となれば、今入っている方の行き場がなくなる。単純に規制を厳しくしていけばいいとはならない」との考えを示した。

(https://www.asahi.com/articles/ASL2254NTL22UTIL01N.html)

7.結語
高齢者の社会保障として、公的年金と医療・介護保険がありますが、十分に機能しているとは言えず、生活保護を受給する高齢者が増加しています。また、低所得者層は高齢者向き住宅に入居することができず、無届け老人ホームしか行き場が無い状況です。格差社会を是正するために、産官学が連携して、税制の抜本的改革に取り組み、ベーシックインカムを実現することが望まれます。

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