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  1. 弁護士が見る現代リスク 内田智宏
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第1回 企業の高齢者取引について、今、そして今後どのような方向になるか。

弁護士が見る現代リスク!

日本では、平成19年に超高齢社会(総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合が21%を超えた社会)に突入したと言われています。その後、現在ではおよそ4人に1人が65歳以上という人口構成になっており、内閣府の『平成28年版高齢社会白書』によりますと、今後も高齢者人口は増加するものと推計されています。
このような高齢者人口の増加に伴い、近時は『高齢者の消費者トラブル』が社会問題の一つとして強い関心を示されるようになっています。
企業にとっては、今後も増加が見込まれる高齢者を対象とした商品・サービスの提供は極めて魅力的なマーケットであると思われますが、他方では、企業側において高齢者との取引が抱える問題に対して適切な配慮を欠かしてしまうと、大きな不利益・損失を被る危険もあります。
そこで、今回は、高齢者との取引が抱える法的リスク、及び高齢者との法的トラブルの発生を回避するために企業が取るべき対応について、簡単ではありますが整理してみたいと思います。

1 高齢者との取引が抱える法的リスクについて

高齢者の中には、身体機能や理解力・判断能力が低下している方が少なからず存在するほか、高齢者だけの世帯や、一人暮らし世帯の増加などのために十分な情報収集を行うことができないという方も増えています。
そのため、高齢者は、企業が提供する商品やサービスについて適切に判断するための能力や資料が不十分であることも多く、それゆえに高齢者との取引はトラブルが発生しやすい類型というように考えられています。
高齢者との取引においては、個別の法律(例えば、特定商取引に関する法律・消費者契約法・金融商品取引法など)による規制がされているほか、民法においても、例えば制限行為能力者制度(成年被後見人・被保佐人・被補助人)が用意され、制限行為能力者の法律行為の全部ないし一部について取り消すことができるものとされていたり(民法9条・13条・17条)、いわゆる要素の錯誤があった場合における取引の無効主張が認められていたり(民法95条)します(これらの法律・条文は、必ずしも高齢者のみを対象としたものではありませんが、高齢者保護に資するものであることは間違いありません。)。
このように、高齢者との取引においては、高齢者の判断能力等の不十分さを利用したと評価され得る場合には契約が無効・取消しとなるリスクがありますし、取引の効力自体には問題がなかったとしても、内容によっては高齢者の判断能力等の不十分さにつけ込んだものとして企業側が社会的非難を受けるというリスクも想定されます。

2高齢者とのトラブルを回避するために考えられる方法

以上のとおり、高齢者との取引に関しては、取引の有効性や取引内容の妥当性などについてトラブルが発生する可能性が多く潜んでいるため、企業としては、高齢者に十分配慮した商品・サービスを提供すること、及び取引方法を実践することが求められています。そして、前述したとおり将来において高齢者人口の増加が見込まれていることからしますと、今後は、社会全体として高齢者保護の機運が一段と高まっていくことが推測されますので、例えば取引の有効性や妥当性などの判断に際して企業側に求められる高齢者取引への配慮の程度も、より大きなものとなることが予想されます。
トラブルを可能な限り回避し、高齢者に満足いただける取引を実現するために、そして仮にトラブルが発生した場合であっても企業側が責任を問われないようにするためには、企業側において、

  1. 高齢者の現状などに対する調査を怠らず、現実の需要に合致した安全で利用しやすい商品・サービスを開発・提供すること
  2. 商品表示や取扱説明書の記載を工夫するなどの方法により、公正で分かりやすい情報を提供すること
  3. 個々の取引において、高齢者ごとの知識・経験・情報に十分に配慮したうえで手続を進めること

などを実践し、社会規範に則った適正な取引を徹底すること、間違っても高齢者の判断能力等の不足に付け入ったものと評価されることのないような取引体制を整備することが求められるのではないでしょうか。

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