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第23回トップが事件に巻き込まれたら何を守るのか方針を明確にする

あの記者会見はこう見えた!
~クライシスコミュニケーションの視点から~

組織の危機管理で最も大きなダメージとなるリスクがトップに関わることです。外からの攻撃など事前予防が難しい場合には、起きた後の対応がその後の結果を決めるといっても過言ではありません。少子高齢化で国内での売上が頭打ちになる中、海外進出をする日系企業は今後も増えることが予想されます。そこで今回は、海外でトップが事件に巻き込まれたケースを事例に取り上げることにしました。5年前の2013年1月、アルジェリアで日本人がテロリストの人質になり10名が死亡するという痛ましい事件が発生しました。この時の日揮、政府の対応は適切でした。どのような対応をしたのか振り返ってみましょう。

発言しない方針を公表する

事件概要を振り返ってみましょう。2013年1月16日、アルカイダ系の武装勢力がアルジェリア東部に位置する天然ガス精製プラントを襲撃しました。警備していたアルジェリア軍の兵士が応戦したものの、日本人10名を含む外国人41名とアルジェリア人150名が人質として拘束されました。この時拘束された日本人は全員が日揮の幹部を含む社員、協力会社社員でした。日揮本社の対応は迅速でした。翌17日には、アルジェリアにおける建設現場駐在社員拘束の報道について」と題するニュースリリースを掲載し、「拘束された場所および人数などの詳細については、拘束された現場駐在員の安全を確保するため、発言を差し控えさせていただきます」と明記しました。

この対応について私にも広報仲間から質問が来ました。「石川さん、日揮が会見しないと言ってます。こんな対応でいいんですか」。私は毎回同じ回答していました。「いいんですよ、適切な対応です。人質の命を守ることが優先です」。しばらくするとおやっと思うことが起きました。IR担当者がぶらさがり取材に応じた様子が報道されたのです。またまた質問。「石川さん、いいんですか。正式な会見せずにぶらさがりですよ。社長が出てこないし」。「うーん、おそらくメディアからの猛烈な取材攻勢にスタッフが対応しきれなくなり、担当者が顔出しをしてスタッフの負担を軽減する方針にしたのでしょう」と私は解説しました。

叩かれても守るべきものを守る

事件発生時にはとっさの判断ができず、報道各社からの問い合わせが相次ぐ中、どんどん回答してしまいがちです。「コメントしない方針を理由を加えて公式見解として発信する」ことが最も大切なポイントになります。最初に「安全確保のために発言しない」と言い切れないケースが多々あります。1996年に起きた在ペルー日本大使公邸占拠事件と比較するとわかりやすいでしょう。この時には、人質になった駐在員の名前を公表した企業と公表しなかった企業に分かれました。結果はどのようになったと思いますか。人質の名前を公表しなかった企業の幹部は最初に解放され、公表してしまった企業の幹部は最後まで解放されませんでした。

人質の名前を公表しなかった企業の広報責任者、故山中塁氏は当協会の理事を務めていたことがあり、私の広報・リスクマネジメント師匠でもあります。彼は当時の判断を次のように説明しました。「何を守るかだよ。そこを明確にして取り組まないといけない。この時は企業ブランドやマスコミとの良好な関係、知る権利よりも駐在員の命を守ることを最優先にした。全てを守ることはできないからね。企業ブランドや評判が落ちることよりも命を救うことだよ。さんざん叩かれたけど、守るべきものは守った」

日揮の場合には、人質の名前を公表しなかったにも関わらず残念ながら命を守ることはできませんでした。しかしながら、記者会見のタイミングを適切な時期に行うことで遺体を持ち帰るという大事なミッションは果たしたと言えます。

<参考情報>
日揮ニュースリリースより
http://www.jgc.com/jp/04_media/01_news/2013/release/20130117.html

著者:石川慶子氏

有限会社シン 取締役社長
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事
公共コミュニケーション学会 理事
日本広報学会 理事
公式ページ:http://ishikawakeiko.net/
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