噛む力(咀嚼力)は、食べることへの意欲につながり、食べる意欲(食欲)は、生きる力にもつながります。口の健康と体の健康の深いつながりは、いろいろな研究がされていますように、咀嚼力が低下することは、体全身への悪影響をも及ぼします。6月4日(むし歯の日)から1週間は「口と歯の健康週間」です。コロナ感染の予防にも関係がありますので、噛むことの大切さを改めて考えて、口と歯の健康について意識をしてみましょう。
咀嚼力とは
単に歯で「かむ」だけのことではありません。食べ物をかみ砕き、すりつぶし、だ液と混ぜ合わせてのみ込める状態までまとめる、一連の工程があります。歯、舌、あごなどが無意識のうちに協調し合うからこそできる複雑な動きでもあります。
また、噛む力は歯を食いしばる力と同様に働き、握力や足腰の踏ん張る力など全身の力にも関係します。
「よく噛むこと」が大切なわけ
①唾液や胃液の分泌を促し、消化吸収を助ける
②脳の血液量を増加させ老化の予防
③五感を刺激し食欲増進、心理的満足感が得られる
④満腹中枢を刺激し、食べすぎの防止
噛んで食べる時の状態
2018年度より、歯科と体の健康の関係性とメタボ対策の重要性が認められ、特定健診の問診に歯の状態(食事を噛んでいるときの状態)の質問項目が追加されました。(*)
某会社データ(3499人)の結果をみますと、年代別に徐々に何でも噛んで食べられる人の割合が減っていることがわかります。また60代以上では約2割の人が「なんでも噛んで食べられる状態ではない」ということが分かります。
厚労省が公表した国民健康・栄養調査結果(2017年度)によると60代は76.2%でありますので、この数字は一般的な値であることが分かります。では、皆さんご自分の年代と比べていかがでしょうか。
なんでも噛んで食べられていますか?
咀嚼力を低下させないために
噛む力は幼児期から年齢とともに成人するまで強くなり、40代をピークに年齢とともに低下することが分かっています。また虫歯や歯周病の進行に伴い、喪失歯があると、噛み合わせも不安定になり、力も入らなくなるため、顕著に硬いものが噛みにくくなります。
咀嚼力の低下のサイン
✓ 生野菜やおひたしなどが「食べにくい」と感じる
✓ 肉や野菜はこまかくしてから口に入れている
✓ 「この食べ物は硬い」と感じることが増えた
✓ パンやサンドイッチを手でちぎって食べている
✓ 昔より軟らかめのご飯を好むようになった
✓ あまりかまずに丸のみすることがある
歯科受診控えにより、症状悪化が7割
コロナ禍に入り、歯科医師協会の調査によると「受診控えにより病状悪化と思う事例があったか」という
質問に対し、「あった」と回答したのは歯科では68%であり、医科よりも多い数字であったとのことです。
病状の悪化の程度も医科よりも歯科の方が病状悪化してから受診する傾向があるようです。
中でも「歯周病の悪化」という報告が最も多く、コロナ禍による受診の中断により進行してしまい、抜歯、歯の神経を抜くまでに至ったケースも少なくはない、とのことです。
コロナに負けない歯と口の健康づくり
歯周病の人が新型コロナウイルスに感染すると、重症化や死亡するリスクが高くなるという研究が注目されています。
歯の周りに細菌が増殖し炎症を起こす歯周病菌は、ウイルスの感染を促進させるといわれています。口腔ケアは感染予防に欠かせません。
・歯垢(プラーク)の除去
歯垢は歯の表面に付着して増殖する細菌の塊です。1mgの歯垢には
約2~3億個もの細菌がいるといわれ、ムシ歯や歯周病、口臭などの原因となり、ウイルスの温存地帯を招きかねません。
歯と歯の間の歯垢は、歯磨きでは60%しか磨き切れていないといわれています。
歯ブラシに加えデンタルフロスを使用することが勧められます。さらに自分では落とせない歯垢・歯石の除去には定期的なプロケア(歯科医・歯科衛生士などによる)をしてもらうことが、歯周病やむし歯の早期発見・早期治療につながります。
・ダラダラ食い
自宅にいるとつい飲んだり食べたり、間食の頻度が増えがち。また自炊の回数も増えるので、インスタント食品やスナック菓子など、不規則な食生活はむし歯を増加させます。また歯と歯の間の食べカスは歯周病の発生や重症化もきたします。飲み物は水かお茶、食べたら磨く、歯磨きの意識を忘れずに。
・ドライマウス
唾液に含まれる抗菌物質は、外界から入ってくるウイルスや細菌から体を守っています。つまり、
唾液が減ってしまうと、感染症にかかりやすくなります。「緊張すると口の中がカラカラ」というように、唾液はストレスがかかると減少する傾向があるので、リラックスと気分転換を心がけましょう。
・噛むものをチョイス
ラーメン、ハンバーグや餃子、クッキーやアイスクリームなど、流行りものは口当たりがなめらか、のど越しが良いものなど、よく噛まなくても食べられるものが多いようです。間食にはおせんべいいやスルメ、ナッツ類など、噛み応えのあるものを意識してチョイスしてみましょう。