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  1. 普遍的リスク対策 乙守栄一
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第120回 いよいよ分岐点に入った生成AIリスク対策

近年、生成AIを巡る議論の中で「ガードレール機能」や「ロバスト性」といった言葉が、専門家だけでなく一般のビジネスパーソンにも浸透し始めている。ガードレール機能とは、自動車が走行車線から外れないようにする仕組みに由来する言葉である。AIにおいては、ユーザーやシステムが危険な方向へ逸脱するのを未然に抑止する仕組みとして使われる。例えば、不適切な表現や誤った指示があった場合にAIが自動的に出力を抑制する機能がそれにあたる。

一方、ロバスト性とは「強靭さ」「耐性の高さ」を意味する。たとえば異なる環境で使っても誤作動しない、悪意ある攻撃を受けても出力が揺らがない、といったAIの性質を指す。これはAIを安全かつ安定的に活用するうえで欠かせない条件である。こうした概念は、AIを安心して使える技術に近づけるために、セキュリティ分野から少しずつ導入され始めている。

しかし、いくらガードレールやロバスト性を整えても、根本的な課題は残っている。それが「ハルシネーション(幻覚)」である。AIが事実に基づかない内容を、もっともらしい文章に仕立てて回答してしまう現象だ。しかも利用者の多くは、その回答が誤っていることに気づきにくい。業務の中でこれを無批判に用いれば、誤情報が組織全体に広まり、信頼を大きく損ねるリスクが生まれる。特に行政や金融など「信頼」を基盤とする分野では、その影響は甚大である。

生成AIは、膨大な情報を組み合わせて「最もらしい答え」を導き出す能力に長けている。しかし、それが「真実かどうか」を保証するものではない。時に根拠が不十分でも、説得力のある表現で提示してしまう。そのため、利用者側に「常に検証する姿勢」がなければ、AIは便利さと同時に大きな落とし穴を提供することになってしまう。

私自身もAIを日常的に使うなかで、誤りや矛盾を見つけたことは数多い。その際に質問を投げ返すと、AIは理由や根拠を示そうとするが、時に論理が破綻し、同じ誤りを繰り返すこともある。AIは万能ではなく、むしろ「人間が問いかけ方や利用の仕方を誤れば、容易に暴走する」存在である。

ただし、この現象はAI固有のものではない。人は昔からメディアや時の権力の発言を鵜呑みにし、それを事実として広めてきた。AIのハルシネーションは、人間社会の情報伝達の弱点を拡張したものにすぎないとも言える。つまり、AIの幻覚を信じてしまうことは「今に始まった新しいリスク」ではなく、人間古来の習性がAIを通じて再び可視化されたにすぎない。

問題は、その誤情報を検証せずに使ってしまう人々の存在である。利便性に慣れ切った現代人は、ついAIを疑わずに使ってしまう。その結果、「情報の入口も出口もAIに依存する」という危険な構造が生まれる。思考の回路そのものがAIに支配される未来は、決して空想ではなく、すでに始まりつつある。

●提案:分岐点に立つ我々の行動指針
この分岐点で、我々が取るべき行動は明確だ。

  1. 検証を習慣化する
    AIの回答を必ず裏付ける。複数のソースに当たり、事実と突き合わせることを怠らない。小さな疑問でも「これは本当か?」と問い直す習慣を持つことが重要である。
  2. 利用ルールを定める
    組織としてはAI利用ポリシーを整備し、誰が、どのような問いをAIに投げかけたのかを記録・管理する必要がある。近い将来、AIのやり取りを記録する「MLBOM」が当たり前の仕組みになるであろう。
  3. 判断を人間に残す
    どれほど優れたAIでも、最終判断は人間が行うべきだ。AIは補助であり、意思決定を肩代わりさせてはならない。
  4. 教育と意識づけを強化する
    社員や職員に「AIは便利だが誤る」という事実を繰り返し伝える。特に若手世代には、AIを「考える代わり」ではなく「考えるきっかけ」として利用するよう教育することが不可欠である。
  5. リスクと利便性のバランスを意識する
    AIを使う目的が「効率化」なのか「正確性」なのかを明確にし、その目的に応じて利用レベルを調整する必要がある。

我々は今、AIが社会の隅々に浸透する時代に生きている。その便利さに魅了される一方で、人間の思考や判断力を手放す危険にもさらされている。未来は「AIに支配されるか」「AIを使いこなすか」の二者択一ではなく、AIとどう共生するかにかかっている。

「AIを活かし切る未来」を選ぶかどうか――それは他ならぬ我々自身の選択である。

㈱シー・クレド
代表取締役 乙守 栄一

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