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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第60回 農業教育のすすめ

産業法務の視点から

平川 博氏

1.衰退する農業の振興策

人類の生存に必要な食料を生産する農業が、江戸時代には工業や商業よりも重視されていました。ところが、封建時代の身分制度が崩壊して、産業構造が変化するに連れ、商工業が隆盛したのに対して、農業は衰退しました。年々農地と農業従事者は減少し、自給率は低迷を続け、わが国の農業は今や危機的状況に瀕しています。しかも少子高齢化減少が進んでおり、後継者不在による廃業が相次いでいます。

このような状況の打開策として、農業と工業と商業を一体化した第6次産業や、無人化栽培、植物工場が実用化され、最近はロボット技術やICTを活用したスマート農業が脚光を浴びています。

しかしどんなにスマート農業が進歩して、生産性の向上や需給調整が図られるようになっても、全面的に機械に任せることはできないでしょう。人間が目的や目標を定めなければ、機械は迷走や暴走をすることになりかねません。人間が操作はしなくても、指示や監督をすることは必要であり、それを怠ると人類は滅亡するでしょう。

このように、農業の振興には農業従事者の育成が不可欠であり、そのために農業教育を推進する政策が必要でしょう。

2.学校教育の変貌

(1)耳学問から体験学習へ
ひと昔前まで小中学校における義務教育では、農業は理科や社会科で取り上げられて来ましたが、いわゆる耳学問で、知識として学ぶだけでした。ところが、平成17年に制定された「食育基本法」の第6条(食に関する体験活動と食育推進活動の実践)により、「食育は、広く国民が家庭、学校、保育所、地域その他のあらゆる機会とあらゆる場所を利用して、食料の生産から消費等に至るまでの食に関する様々な体験活動を行うとともに、自ら食育の推進のための活動を実践することにより、食に関する理解を深めることを旨として、行われなければならない」と定められています。

因みに、平成24年6月に関東農政局が作成した「小学校における農業体験活動の実施に向けて(平成23年度関東ブロック教育ファーム意見交換会報告)」と題する文書の冒頭(「はじめに」)では、「小学校における農業体験については、平成23年度から実施されている新学習指導要領(平成20年3月改訂)に「食育の推進」が位置づけられたことから、農業体験活動が学校教育の中で取り組まれつつある状況にあります」と記載されています。
(http://www.maff.go.jp/kanto/syo_an/seikatsu/shokuiku/pdf/23kyouikufamuzen2.pdf)

(2)進路指導が偏差値重視から個性重視へ
団塊世代が高校や大学に進学した昭和40年頃から十数年間、中学校と高校の進路指導は、「業者テスト」と呼ばれる出版社等の民間業者が行う学力テストや模擬試験の結果(当初は得点のみ、後に偏差値併記)に応じて行われていました。その当時の高校の偏差値は、一般的に大学進学率の高い普通高校が最も高く、工業高校、商業高校が中間で、農業高校は最下位でした。大学の学部も、理系では医学部が最も高く、理学部や工学部が中間で、農学部は最下位でした。

ところが、昭和50年代に入ると、「学校における業者テストの取扱い等について」(昭和51年9月7日文初職第396号)と題する文部省初等中等教育局長通達では、「学習の評価は、学校の指導計画に基づき教師自らが適切に行うべきものであり、また、進路の選択に関する指導は、この評価とともに教師が行う観察、調査、相談等を通じて的確に把握した個々の生徒の能力・適性、進路希望等を基にして行うべきものであるので、安易に業者テストに依存することがあってはならない」と記載されています。

(http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19760907001/t19760907001.html)

そして元号が昭和から平成に変わると、「高等学校入学者選抜について(通知)」(平成5年2月22日)と題する文部事務次官では、「4 中学校における進路指導の充実について」という見出しの下に、以下のように記載されています。


(1)生徒の進路の選択や学校の選択に関する指導は、偏差値に頼って行われるのではなく、学校の教育活動全体を通じて的確に把握した生徒の能力・適性、興味・関心や将来の進路希望等に基づき、また、進学しようとする高等学校や学科の特色や状況を生徒が十分理解した上でなされるべきであること。

(2)中学校においては,平素から一人一人の生徒が自らの進路を主体的に考え選択する能力や態度を育成し、それが進路決定に生かされることが重要であり、進路指導に当たっては、教師の適切な指導のもとに、このような生徒の主体的な選択を生かしていくことが必要であること。

(3)中学校においては、進路指導主事等が中心となって生徒や保護者に専門的な指導助言を行ったり、相談に応じられる体制を整備すること。

なお,進路指導主事等の研修の充実等について一層の配慮を行うこと。

(4)高等学校の教育上の特色や入学者選抜方法について,生徒や保護者が十分な認識をもって判断できるよう、中学校は情報の収集と提供に努めるとともに、高等学校は、広報活動や体験入学の実施などに積極的に取り組むこと。


(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/04120702/001.htm)

このように文部行政が率先して、進路指導が偏差値重視から個性重視へ転換することは、青少年一人一人の為であると同時に、産業社会を支える人材育成という面でも高く評価したいと思います。

3.体験学習の取り組み

(1)幼児

「YACYBER」(「感性を伸ばす食育で先生も子供も保護者喜ぶカリキュラムに」)HPの「導入事例」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。


大阪府松原市 Mことも園様
栽培した野菜 さつまいも
参加した子供たち 2歳〜5歳  

[先生の感想] 今回YACYBERさんに作付け体験〜販売体験までをお願いしました。
作付けや収穫で子供たちは畑を自由に動き回り、虫やカエルなどを見つけては捕まえたり触ろうとしたりと楽しそうにしていました。…(中略)…園で農家さんと一緒に焼き芋や販売体験をした時は、保護者の方たちからも大絶賛でしたね。最終的に保護者の方と地域の生産者さんと顔見知りになり、農産物を喜んで買っていく姿も印象的でした。
普段子供たちの収穫体験には観光農園を利用していたのですが、収穫だけでなく作付けから一緒に作り上げていく体験は格別で、観光農園の味覚狩りとは一味も二味も違った体験をすることができました。
子供達の感性を育む取り組みとしても、野菜の最初から最後までを体験できる食育としても、非常に有効的なカリキュラムだと思いました。


(https://yacyber.co.jp/inst/#3)

(2)小学生

相模原市役所HPの「農業体験学習について」と題するウェブページでは、「小学校5・6年生約100名(希望者多数の場合は抽選)」に実施している農業体験学習について、以下のように記載されています。


相模原市農業体験学習推進協議会では、市内在住の小学校5、6年生の児童を対象に、田植えから稲刈りまで一連のお米作り体験を中心とした農業体験学習事業を行っています。

10アールもの広さの水田に裸足で入り、1株1株丁寧に苗を植え、雑草を抜き、実った稲を一束ずつ鎌で刈り取ることにより、農作業の大変さや食べ物の大切さを、実体験をとおして学ぶことができます。そして、収穫したお米を使用して、「餅つき」や「親子で料理体験」を行い、自分たちで育て収穫したものを食べる喜びを感じることができます。


(http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/sangyo/sangyo/1003399/1003425.html)

(3)中学生

聖徳大学附属女子中学校・高等学校HPの「【農作業体験学習】北蓼科高原体験学習〔中学3年 第2日〕」と題するウェブページでは、「聖徳大附女中高の『農作業体験学習』」という見出しの下に、以下のように記載されています。


北蓼科高原体験学習は、長野県佐久市望月春日温泉の本学園セミナーハウス「かすがの森」で全校生徒が毎年3泊4日で実施している校外学習で、クラスの仲間や先生方と寝食を共にし、助け合う心を学ぶ体験学習メニューです。

この行事に参加するすべての生徒が滞在期間中に行うのが「農作業体験の学習」です。「農作業体験学習」では、5月に訪れた学年では「田植え」や「農作物の植え付け」を、初夏に訪れた学年では田畑の雑草取りなどの手入れを、秋に訪問する学年では春に植え付けた「農作物の収穫」を行います。

毎年、作物の植えつけから収穫などを各学年が担当し、収穫した農作物は「学校での毎日の一斉会食」の際に、会食委員の生徒から収穫の報告のお知らせとともにお献立に上がります。

北蓼科高原での農業体験学習では次の二点に学びの視点をおき、取り組んでいます。

  • 自然と触れ合うことの喜びを知ろう…(中略)…
  • 感謝の心を育てよう…(中略)…

(https://www.seitoku.jp/highschool/student_info/news/junior_senior/post_831.php)

4.専門教育

(1)農業高等学校

千葉県教育委員会HPの「魅力発見!【県立旭農業高等学校】平成31年3月12日」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。


県立旭農業高等学校は、明治43年に千葉県海上郡立農業学校として創立。2020年に創立110年目を迎える伝統校です。平成30年度から、生産技術科と生活科学科を園芸科、食品流通科を食品科学科に学科改編し、従来の畜産科と合わせ、3学科4クラスの県内唯一の単独農業高校へと生まれ変わりました。「至誠」「勤勉」「剛健」を校訓に掲げ、農業後継者育成プロジェクトを始めとする農業高校ならではの体験的な学習を通して、地域社会のリーダーとして地域産業の発展に貢献できる生徒の育成を目指し、地域から信頼され必要とされる学校づくりを行っています。

■畜産科
「育ててわかる生命。さわって実感する喜び。」をスローガンに、生命の科学を学ぶとともに、ウシ・ブタ・ニワトリ・愛玩動物について実習を中心に幅広く学びます。

■園芸科
「自然に学ぼう。農業を学ぼう」をスローガンに、野菜・果樹・草花・造園・フードデザインのコースがあり、農産物の生産から流通について体験的に学びます。

■食品科学科
製造コースでは、パンやジャムなどの加工を体験的に学習し、実践的な力を身につけます。情報コースでは、簿記やパソコンの資格取得を目指します。

■後継者育成プロジェクト
農業後継者育成プログラムとして、夏季休業中に長野県の高原野菜農家での宿泊実習や期末テスト後に地元農家と連携した農家実習を実施しています。

■グローバル化に向けた国際文化交流
ブルガリア大使館を訪問し、生徒が栽培したビオラを植栽しました。また、ブルガリアからの留学生も文化祭に参加し、積極的な文化交流を行っています。

■旭農祭(文化祭)
本校で収穫した野菜や米、シクラメン、卵の販売やPTAによる野菜販売等が行われます。また、食品科学科のパン・ジャムなど農業高校の特色を生かした食品販売も行っており、地域の方々にご好評を頂いています。


(https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/seisaku/kaikaku/miryoku/hatuken/2018/0312asahinougyou.html)

(2)大学の農学部

東京農業大学HPの「農学部(厚木キャンパス)」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。


■学部基本情報
食料生産を中心とした生産農学は、農学部にとって普遍的な研究テーマです。生産技術関連の研究をふまえた上で、豊かで持続可能な社会を実現する新たな農学をめざします。農学部に新たに誕生する2学科では、現代の世界が抱えるさまざまな課題の解決に挑める環境があります。伝統的な農学科・動物科学科に加え、学際的な生物資源開発学科、先進的なデザイン農学科……これらは、農学の発展の歴史がそのまま形になったものといってもいいでしょう。「農」の知識は、今や医療や商品開発にも応用されています。生き物の力をうまく利用すれば、人々の生活をより豊かにすることができるのです。「新しい農学」で未来の社会に貢献できるスキルを身につけてください。

■2018年4月から農学部は4学科体制に

  • 農学科:時代に即した植物生産技術のシステムの構築
  • 動物科学科:動物生命科学の追究と生産科学への貢献
  • 生物資源開発学科:生物多様性の理解と多面的機能の活用
  • デザイン農学科:食と農の多面的機能の研究開発と持続可能社会のデザイン
    ※1 2018年4月畜産学科から名称変更

※2 2018年4月開設


(https://www.nodai.ac.jp/academics/agri/)

(3)大学校

「マイナビ農業」というサイトの「農業大学校とは? 気になる学び方と過ごし方、学費・生活・就職先など」と題するウェブページでは、「農業大学校は“農業の専門学校”」という見出しの下に、以下のように記載されています。


■農業大学校と農業大学は別モノ
農業の学び場の一つ、農業大学校は、言わば“農業の専門学校”です。1~2年で農業の技術や経営を学ぶことができ、その多くが専門学校(専修学校専門課程)として認定されています。
農業大学校は大学と付いていますが、文部科学省管轄の4年制大学や短期大学とは違います。…(中略)…農業大学校は、短期間で農業生産の技術や経営に特化した学びが得られることが最大の特徴と言えます。

■公立の農業大学校は全国42道府県に設置
全国には公立の農業大学校が42道府県に設置されています。
「かながわ農業アカデミー」など、農業大学校と名前に付かない学校もあります。また、公立以外に「八ヶ岳中央農業実践大学校」など民間の農業大学校もあります。


(https://agri.mynavi.jp/2018_12_03_50238/)

5.農業教育の在り方

平成22年に千葉県の県立学校改革推進プラン策定懇談会 農業専門部会が作成した「今後の農業教育(高校)について【報 告】」と題する文書中、「Ⅱ 協議結果」「2.農業施策や他団体との連携について」(原書4頁)の項では、「【委員意見(抜粋)】」という見出しの下に、以下のように記載されています。


◯就農に関しては、基本的な農業技術を習得していることを大原則に、新たな農業経営の一形態として6次産業化を視野に入れた、食品加工、販売、観光等サービス業、情報発信等のカリキュラムを設け、生徒が魅力ある農業経営に向けた就農への意識付けを得られる内容となることが必要と考える。

○農業教育と就農、就職に係る関係機関とが連動して人材育成を図れることが理想であり、例えば、実践的な就農体験、就業体験を関係業界や行政と連携し実施する場合に、実践的な就業体験を行うに当たり、受入れ先企業、団体、農業法人との関係を強化し、必要な人材の必要な知識、技能等の習得に係るカリキュラムに係る意見のフィードバックを適宜行い、時代に合った講座の維持発展を図り、就農、就職率をさらに向上していければ良いと考える。

○千葉県農業の人的な未来像を行政・教育で共有する必要がある。

○現場の実践者になるなら、大学で学ばなくても、県農業大学校でしっかり身に付ければ十分。大学校との連携は大事。大学校へ行きながら、農業法人で2~3年、一休みしながら実践的に学んでから、就農してもいいではないか。保護者の意識も大事である。

○連携に関しては、地元の視点を持って行うことが大事である。

○将来の農業や食文化を発展させるため、幼稚園、保育園、小学校、中学校と連携して、若い世代に農業を伝えていく取組みが有効だと思う。


(https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/seisaku/kaikaku/miryoku/saihen/suisin-puran/documents/3kondankai_sankou1_1.pdf)

6.結語

わが国の農業は、農地減少と農業従事者の減少が相まって、衰退の危機に瀕しています。この危機から脱却するために、農業教育を推進して人材を育てることが、遠回りのようでも、農業の振興を図る上で効果が大きいと思われます。そのためには、産官学が連携して、家庭や学校で楽しみながら田畑で農作物の栽培から収穫まで農作業を行う日常的かつ実践的な教育制度を確立することが望まれます。

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