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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第69回 急務の治水対策

1.地球温暖化の影響
この数年間、梅雨期から台風シーズンにかけて、記録的な大雨や豪雨が全国各地で降り、河川の氾濫や土砂崩れによる災害が多発しています。このような自然環境の変化について、「『気温が4℃上昇すると4倍増える』地球温暖化と水害が増える可能性を識者が指摘」【マイナビニュース(TOKYO FM提供)[2020/07/15 11:40配信]】と題する記事では、以下のように記載されています。**********************************************************************************************************
手島千尋アナウンサーがパーソナリティを務めるTOKYO FMの番組「防災FRONT LINE」。7月4日(土)の放送では、水害に詳しい公益財団法人 リバーフロント研究所の土屋信行さんに「治水対策」について伺いました。…(中略)…
土屋さんは、地球温暖化とともにさらに水害が増える可能性について「地球温暖化によって平均気温が2℃くらい上がると、日本の降雨量は約10%、4℃くらい上がると約20~30%増えると言われていまして、それによる直接的な被害を及ぼす洪水は、“4℃上昇すると4倍増える”と国連のIPCC(気候変動政府間パネル)が警鐘を鳴らしている」と指摘します。
2017年は九州北部豪雨、2018年は西日本豪雨と立て続けに水害が起きています。また、気象庁も今後、地球温暖化の影響で、100~200年に1度の豪雨の発生頻度がおよそ2倍になると予測をしています。
そこで、急務となるのが「治水対策」。土屋さんは、治水対策の問題点についてこう指摘します。
「日本は全国で109水系に分けて管理をしています。こういったすべての川を合わせて、治水対策も含めて、今後、降ると予測される雨量に対して安全だと言える治水対策が終わった川は1本もないのです」
そこで国は台風19号を教訓に、治水対策の転換をしました。具体的には、新たなダムを作らず、いまあるダムを活用した貯水強化に乗り出しています。
6月4日(木)にはすべてのダムの有効貯水容量のうち、水害対策に使うことのできる容量を、これまでの3割からおよそ6割に倍増できたと発表しています。これは、八ッ場ダム(群馬県)50個分に当たる容量です。**********************************************************************************************************(https://news.mynavi.jp/article/20200715-1151583/)

2.繰り返された球磨川の氾濫
(
1)記録更新
今年の7月4日に氾濫した球磨川の支流脇に建てられた特別養護老人ホーム「千寿園」は、水没した1階に居た14人の利用者が命を落としました。このような惨事が起きた球磨川は、これまでも氾濫が繰り返されて来ましたが、毎日新聞の「球磨川氾濫『記録上、最大の浸水深』 熊本大調査 『昭和40年7月洪水』上回る」(2020年7月13日 10時27分配信[7月13日10時36分最終更新])と題する記事では、以下のように報じられています。**********************************************************************************************************
熊本大くまもと水循環・減災研究教育センター…(中略)…の減災型社会システム部門長、松村政秀教授(橋梁工学)らが発生翌日の5日から人吉市や同県芦北町、津奈木町の被災現場を調査した。国土地理院の浸水推定図などによると、人吉市内は球磨川右岸の市街地を中心に川沿いの東西約5キロ、南北約1キロに浸水被害が広がっていた。
日本三大急流の一つで「暴れ川」の異名を持つ球磨川は過去にも度々氾濫して水害をもたらしてきた。昭和40年7月洪水では家屋の損壊・流失が1281戸、浸水は床上と床下で計1万2825戸。国土交通省八代河川国道事務所によると、その後も「平成23年6月洪水」(2011年)まで少なくとも9回の洪水被害が起きている。
松村教授らは現地の建物などに残った浸水の跡の高さを計測して過去の洪水や堤防の高さと比較した。
今回の水害で国宝指定の5棟のうち拝殿や幣殿などが床上浸水した人吉市上青井町の青井阿蘇神社。神社の横の電柱には昭和40年7月洪水の時の浸水深が2.3メートル、1971年の「昭和46年8月洪水」の時の浸水深が1.1メートルと記録されているが、今回の浸水の跡は3メートルの高さに達していた。
神社の数百メートル下流で、より球磨川に近い同市下青井町の電柱は昭和46年水害が1.1メートル、昭和40年水害が2.1メートル、今回は4.3メートルの高さに浸水痕があった。
球磨川や支流の山田川に近い建物には、堤防より2メートルほど高い位置まで浸水した跡があった。市中心部の人吉橋は堤防より高い位置に架けられているが、それでも水位は橋を超え、欄干には流木などが絡みついていた。橋の北側の浸水深は3.5メートルほどだった。…(中略)…
「記録が残っている過去の洪水を上回り、想定以上の浸水が起きていたことは間違いない」と松村教授。**********************************************************************************************************(https://mainichi.jp/articles/20200713/k00/00m/040/038000c)

(2)問題提起
ジャーナリストの冷泉彰彦氏が執筆した「脱ダム政策への賛否が問題ではない 球磨川治水議論への3つの疑問」【NEWSWEEK日本語版(2020年07月14日16時00分配信)】と題する記事では、以下のように記載されています。**********************************************************************************************************
<2000年代の「脱ダム」議論はコストだけが問題視されたのではない>
今回の熊本・人吉の水害に関しては胸の潰れる思いがしました。…(中略)…流域で50人以上の死者を出したなかで、あらためて治水問題が真剣に議論され始めたのは当然と思います。ですが、脱ダム政策への賛否を中心とした現在の議論の延長に解決策があると思えません。少なくとも3つの疑問が残るからです。
疑問の第1は治水政策に対して述べた、蒲島知事の反省の弁です。今回の被害を受けて、知事は「ダムによらない治水を目指してきたが、費用が多額でできなかった。非常に悔やまれる」と述べています。正直な発言と思いますが、この発言は簡単に受け止めることはできません。何故ならば、2000年代に議論された「脱ダム」という一種の政治運動は、全国的な「ハコモノ行政」見直しの機運の中で起きたものであり、少なくとも中長期の財政規律への危機感などに支えられていたからです。それにもかかわらず、この球磨川に関しては、ダム建設が高価だから反対論が優勢となって知事も断念したのではなく、むしろ「脱ダム」の方が高価だというのは意外感があります。…(中略)…

■球磨川は「資源」
疑問の第2は、仮に極めて高価であっても「脱ダム」を選択したというのは、何故かという点です。それは地域エゴとか利権誘導ではないと思います。冒頭に述べたように流域の人々が、球磨川の流れに特別な思いを抱いていたこと、例えば鮎という水産資源を大切にしていたことなどが背景にあり、それが「高価であってもダムではない方策で治水を」という判断になったのだと思います。…(中略)…流域住民の意思として「清流への愛着」があり、それが一旦はダム以外の対策を選択することとなった事実は重いと思います。そこを無視して、被災したのだからダム派が巻き返せば政治的勢いにできるというのは、短絡的に感じます。

■「ダムさえあれば安心」ではない
3番目の疑問は、仮に今回の被災を受けて、やはり「川辺川ダム」の建設に踏み切ったとして、ダムさえ作れば安心かというと決してそうではないということです。例えば2018年の西日本豪雨の際、愛媛県西予市などを流れる肱川では、流域に降った雨量が想定を上回るなかでダムの緊急放水が行われたのですが、その際の情報伝達の問題から逃げ遅れた住民8人が犠牲になるという悲劇が起きています。…(中略)…ダムによる治水を行った場合には、緊急時には放水を判断し、それを事前に下流に的確に伝えるなど「ダムの使い方のソフト」、つまりコミュニケーションの体制を維持していかなければなりません。*********************************************************************************************************(https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2020/07/3-6.php)

3.指定河川洪水予報
気象庁HPの「知識・解説」というカテ中、「指定河川洪水予報」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。**********************************************************************************************************
■指定河川洪水予報とは
河川の増水や氾濫などに対する水防活動の判断や住民の避難行動の参考となるように、気象庁は国土交通省または都道府県の機関と共同して、あらかじめ指定した河川について、区間を決めて水位または流量を示した洪水の予報を行っています。これを「指定河川洪水予報」と呼んでいます。…(中略)…

■指定河川洪水予報の対象河川
指定河川洪水予報の対象となる河川は、大きく2種類に分けられます。
・国土交通省と共同で行う指定河川洪水予報
2つ以上の都府県にわたる河川または流域面積の大きい河川で、洪水によって重大な損害が生ずるおそれのあるものについて、国土交通大臣が指定します。国土交通大臣が管理する全国109の水系すべてで指定河川洪水予報が実施されています。
・都道府県と共同で行う指定河川洪水予報
上記以外の河川で、洪水によって相当の被害が発生するおそれのあるものについて、気象庁と協議して都道府県知事が指定します。…(中略)…

■指定河川洪水予報の標題
指定河川洪水予報は、河川名と以下の表の危険度のレベルに応じた情報名とを組み合わせて発表します。 指定河川洪水予報の発表基準と発表された場合にとるべき対応は、以下の表のとおりです。

■指定河川洪水予報と警戒レベルとの関係

情報 とるべき行動 警戒レベル
氾濫発生情報 災害がすでに発生していることを示す警戒レベル5に相当します。災害がすでに発生している状況となっています。命を守るための最善の行動をとってください。 警戒レベル5相当
氾濫危険情報 地元の自治体が避難勧告を発令する目安となる情報です。避難が必要とされる警戒レベル4に相当します。災害が想定されている区域等では、自治体からの避難勧告の発令に留意するとともに、避難勧告が発令されていなくても自ら避難の判断をしてください。 警戒レベル4相当
氾濫警戒情報 地元の自治体が避難準備・高齢者等避難開始を発令する目安となる情報です。高齢者等の避難が必要とされる警戒レベル3に相当します。災害が想定されている区域等では、自治体からの避難準備・高齢者等避難開始の発令に留意するとともに、高齢者等の方は自ら避難の判断をしてください。 警戒レベル3相当
氾濫注意情報 避難行動の確認が必要とされる警戒レベル2に相当します。ハザードマップ等により、災害が想定されている区域や避難先、避難経路を確認してください。 警戒レベル2相当

**********************************************************************************************************(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/flood.html)

4.総力戦で挑む防災・減災プロジェクト
建設通信新聞DIGITALの「総力挙げ“流域治水”に転換/水系ごとの全体像 2020年度内に策定/国交省」(2020-07-08 1面)と題する記事では、以下のように報じられています。
**********************************************************************************************************
【防災・減災主流の社会実現】
国土交通省は6日、総力を挙げて防災・減災に取り組む新たなプロジェクトを決定した。流域のあらゆる関係者が協働して治水に取り組む流域治水への転換などを進め、防災・減災が主流となる社会の実現を目指す。全国の1級水系を対象に、流域治水の考え方に基づいて関係者が早急に実施する取り組みを今夏までに中間的に取りまとめ、水系ごとの全体像を流域治水プロジェクトとして2020年度内に策定する。同日、防災・減災対策本部(本部長・赤羽一嘉国交相)を開き、「総力戦で挑む防災・減災プロジェクト」を取りまとめた。…(中略)…
柱には、▽あらゆる関係者により流域全体で行う流域治水への転換▽気候変動の影響を反映した治水計画などへの見直し▽防災・減災のための住まい方や土地利用の推進▽災害発生時における人流・物流コントロール▽交通・物流の機能確保のための事前対策▽安全・安心な避難のための事前の備え▽インフラ老朽化対策や地域防災力の強化▽新技術の活用による防災・減災の高度化・迅速化▽分かりやすい情報発信の推進▽行政・事業者・国民の活動や取り組みへの防災・減災視点の定着--の10本を設定した。
流域治水は、企業や住民などを含めた流域のあらゆる関係者が「氾濫をできるだけ防ぐ」「被害対象を減少させる」「被害の軽減、早期復旧・復興」の3つの対策を総合的・多層的に推進し、流域全体で治水に取り組む考え方。
この考えに基づき、戦後最大の洪水を安全に流すことを目標に、1級水系で流域治水プロジェクトをまとめ、堤防整備や河道掘削、雨水貯留施設の整備、土地利用の規制・誘導、水位計・監視カメラの設置などハード・ソフト一体の事前防災を加速する。流域治水の円滑化に向けて河川関連法制も見直す。
あわせて、河川、下水道、砂防、海岸の計画・設計基準を気候変動による降雨量の増加、潮位の上昇などを考慮したものに見直し、流域治水に続く第2ステージとして気候変動の影響を反映した抜本的な治水対策を進める。
改正都市再生特別措置法や改正都市計画法の施行に合わせ、防災・減災を考慮した住まい方の工夫や土地利用を推進する。その一環として、避難施設、備蓄施設、貯留施設、浸透施設の整備など水災害対策を講じる都市開発プロジェクトを対象に、容積率を緩和する制度を今夏までに創設する。
安全・安心な避難に向けては、高台まちづくりを推進する。ゼロメートル地帯の高台と施設を通路で接続し、大規模な浸水が発生した場合に、建物から浸水区域を経由しないで安全に避難できるようにするもので、東京都と検討している具体の取り組みを20年内に取りまとめる。
インフラの老朽化は災害リスクを増大させることから、インフラ長寿命化計画(行動計画)を20年度内に改定し、予防保全への本格転換を打ち出す。災害予測や災害状況把握、災害復旧、被災者支援へのAI(人工知能)活用や、インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進など、新技術と防災・減災の組み合わせにも取り組む。
**********************************************************************************************************(https://www.kensetsunews.com/archives/470224)

5.結語
毎年繰り返され、年々規模が拡大している水害の抜本的対策に、遅まきながら国土交通省が取り組むことは喜ばしいことですが、これから制度設計をして実施するのに少なくても数年はかかることが想定され、その間に発生する水害を最小限に食い止めることも視野に入れながら治水対策を推進することが望まれます。

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