1.はじめに
少子高齢化現象が進み、身体機能が低下する高齢者が増えています。加齢による身体機能の低下の進み具合は人それぞれですが、歩行能力が低下すると、外出する時だけでなく、室内で移動する時も杖や車いすを使うようになります。日常生活でも、浴室やトイレも手すりが無ければ、入浴や排泄が困難で危険になるでしょう。次第に視聴覚機能も低下して、老眼鏡や補聴器が必要になります。
このように身体機能や視聴覚機能が低下した高齢者の生活能力を補助するために、様々な福祉用具が市販されています。
2.福祉用具法
(1)立法の目的
平成5(西暦1993)年5月に制定された福祉用具法(正式な題名は「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」)の第1条(目的)では、「この法律は、心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人及び心身障害者の自立の促進並びにこれらの者の介護を行う者の負担の軽減を図るため、福祉用具の研究開発及び普及を促進し、もってこれらの者の福祉の増進に寄与し、あわせて産業技術の向上に資することを目的とする」と謳われています。この法律の主眼は、「福祉用具の研究開発及び普及を促進」することにあり、その恩恵を老人及び心身障害者並びに介護者が受けることが期待されます。
ところで、2013年9月4日に開催された「介護・リハビリ・自立のための実用的なロボット技術の創出」と銘打ったシンポジウムの際に、日本福祉用具・生活支援用具協会(JASPA)の清水壮一氏が寄稿した「福祉用具の開発にあたって」と題する論文では、以下のように記載されています。
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3.自立支援、エビデンス
福祉用具は介護する側の用具としてだけでなく、障害者本人が自立して生活していけるための支援用具としての観点が必要です。また、その支援が本当に役にたつというエビデンスが必要ですが、そのエビデンスが偏っていたり、数が少なかったり、信憑性に欠けていたりすることが多く、製品を売る流通事業者の立場に立つと、その製品を使用者に本当に勧められるのか疑問のものが多くみられます。…(中略)…
4.メンテナンス性、レンタル仕様
福祉用具は、使用者に合った製品は壊れたら別の製品に変えるのではなく慣れた用具が長く使われることが多いため、購入後のメンテナンスが重要となりますが、メンテナンス性を考えていないケースが多くみられます。特に、介護保険施行後は、レンタルが主流となっているため、レンタル事業者向けの製品については、レンタル特有のメンテナンス条件(洗浄性、消毒性、搬送性等)をクリアする必要があります。
5.操作性、機能、重量
福祉用具の利用者は障害者や高齢者であるため、日常の使用の中で操作が簡単で覚えやすく重量が軽く扱いやすいことが健常人対象の製品以上に重要となります。
**********************************************************************************************(http://www.rehab.go.jp/ri/event/assist/papers/13.pdf)
(2)福祉用具とは
福祉用具法の第2条(定義)により、「この法律において『福祉用具』とは、心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人(以下単に「老人」という)又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具をいう」と定義付けられています。
ところで、「安心介護」というサイトの「介護用品と福祉用具の違い」と題するウェブページ(2019-01-30掲示)では、「介護用品と福祉用具の違いとは?」という見出しの下に、以下のように記載されています
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名は体をなすとの言葉通り、介護用品とは介護に用いる品のことです。対して福祉用具というのは、使用することで要介護者本人の日常生活動作能力の維持・改善を見込んで(少なくともそれを目的として)用いる道具のことを指しています。
主な介護用品として、紙おむつ・尿取りパッド・リハビリパンツが挙げられます。対して福祉用具は貸与(借りて使用するもの)と販売しているものとがあり、貸与は、車椅子と付属品・特殊寝台と付属品・床ずれ防止用具・体位変換器・手すり・スロープ・歩行器・歩行補助杖・認知症老人徘徊感知機器・移動用リフトの釣り具部分以外・自動排泄処理装置などがあります。
特定福祉用具販売では、腰掛便器・自動排泄処理装置の交換が可能な部分・入浴補助用具・簡易浴槽・移動用リフトの釣り具部分などがあります。
このように 介護用品と福祉用具には違いがあることを認識していると良いでしょう。
**********************************************************************************************(https://i.ansinkaigo.jp/knowledge/assistive-distinction)
これだけ読んでも分かりにくい介護用品と福祉用具の違いについて、「Yuiコール×介護」という介護・見守り・ナースコール情報サイトの「介護雑学」というカテ中、「介護における福祉用具とは?~介護用品との違い・種類一覧~」(2017年11月16日掲示)と題するウェブページでは、「『福祉用具』と『介護用品』に違いはあるの?」という見出しの下に、以下のように記載されています。
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■福祉用具は介護用品の中の一つ
介護用品は、車いすやスロープ等の福祉用具から、紙おむつや介護用ハブラシなどの日用品まで、広い範囲で介護に用いられる物を指します。
逆に福祉用具は製品が限られており、使用する事で要介護者本人の日常生活動作能力の維持・改善を見込める(少なくともそれを目的として用いる)道具に限られています。
つまり「福祉用具」と「介護用品」は別物なわけではなく、「介護用品」の中に「福祉用具」も含まれている、ということになります。
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(http://heiwa-net.ne.jp/care-nursecall/knowledge/about-welfare/)
3.介護保険法
(1)レンタル対象種目
福祉用具の貸与又は販売は、介護保険制度の居宅サービスの一つとして位置付けられています。原則はレンタル支給で、「厚生労働大臣が定める福祉用具貸与及び介護予防福祉用具貸与に係る福祉用具の種目」(平成11年3月31日厚生省告示第93号[(平12厚告479・平18厚労告256・改称)])と題する告示により、レンタル支給の対象となる種目が以下のように指定されています。
**********************************************************************************************1 車いす
自走用標準型車いす、普通型電動車いす又は介助用標準型車いすに限る。
2 車いす付属品
クッション、電動補助装置等であって、車いすと一体的に使用されるものに限る。
3 特殊寝台
サイドレールが取り付けてあるもの又は取り付けることが可能なものであって、次に掲げる機能のいずれかを有するもの
一 背部又は脚部の傾斜角度が調整できる機能
二 床板の高さが無段階に調整できる機能
4 特殊寝台付属品
マットレス、サイドレール等であって、特殊寝台と一体的に使用されるものに限る。
5 床ずれ防止用具
次のいずれかに該当するものに限る。
一 送風装置又は空気圧調整装置を備えた空気マット
二 水等によって減圧による体圧分散効果をもつ全身用のマット
6 体位変換器
空気パッド等を身体の下に挿入することにより、居宅要介護者等の体位を用意に変換できる機能を有するものに限り、体位の保持のみを目的とするものを除く。
7 手すり
取付けに際し工事を伴わないものに限る。
8 スロープ
段差解消のためのものであって、取付けに際し工事を伴わないものに限る。
9 歩行器
歩行が困難な者の歩行機能を補う機能を有し、移動時に体重を支える構造を有するものであって、次のいずれかに該当するものに限る。
一 車輪を有するものにあっては、体の前及び左右を囲む把手等を有するもの
二 四脚を有するものにあっては、上肢で保持して移動させることが可能なもの
10 歩行補助つえ
松葉づえ、カナディアン・クラッチ、ロフストランド・クラッチ、プラットホームクラッチ及び多点杖に限る。
11 認知症老人 徘徊はいかい 感知機器
介護保険法第5条の2第1項に規定する認知症である老人が屋外へ出ようとした時等、センサーにより感知し、家族、隣人等へ通報するもの
12 移動用リフト(つり具の部分を除く)
床走行式、固定式又は据置式であり、かつ、身体をつり上げ又は体重を支える構造を有するものであって、その構造により、自力での移動が困難な者の移動を補助する機能を有するもの(取付けに住宅の改修を伴うものを除く)
13 自動排 泄せつ 処理装置
尿又は便が自動的に吸引されるものであり、かつ、尿や便の経路となる部分を分割することが可能な構造を有するものであって、居宅要介護者等又はその介護を行う者が容易に使用できるもの(交換可能部品(レシーバー、チューブ、タンク等のうち、尿や便の経路となるものであって、居宅要介護者等又はその介護を行う者が容易に交換できるものをいう)を除く)。
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(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999420&dataType=0&pageNo=1)
(2)販売の対象種目
福祉用具の内、再利用に心理的抵抗感が伴うものや使用により形態・品質が変化するものは、「特定福祉用具」として販売が介護保険の対象になります。「特定福祉用具」は、「厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目及び厚生労働大臣が定める特定介護予防福祉用具販売に係る特定介護予防福祉用具の種目」(平成11年3月31日厚生省告示第94号[(平12厚告480・平18厚労告147・改称])と題する告示により、レンタル支給の対象となる種目が以下のように指定されています。
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1 腰掛便座
次のいずれかに該当するものに限る。
一 和式便器の上に置いて腰掛式に変換するもの
二 洋式便器の上に置いて高さを補うもの
三 電動式又はスプリング式で便座から立ち上がる際に補助できる機能を有しているもの
四 便座、バケツ等からなり、移動可能である便器(居室において利用可能であるものに限る)
2 自動排 泄せつ 処理装置の交換可能部品
3 入浴補助用具
座位の保持、浴槽への出入り等の入浴に際しての補助を目的とする用具であって次のいずれかに該当するものに限る。
一 入浴用椅子
二 浴槽用手すり
三 浴槽内椅子
四 入浴台
浴槽の縁にかけて利用する台であって、浴槽への出入りのためのもの
五 浴室内すのこ
六 浴槽内すの
七 入浴用介助ベルト
4 簡易浴槽
空気式又は折りたたみ式等で容易に移動できるものであって、取水又は排水のために工事を伴わないもの
5 移動用リフトのつり具の部分
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(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82999421&dataType=0&pageNo=1)
4.障害者総合支援法
(1)日常生活用具給付事業
厚生労働省HPの「日常生活用具給付等事業の概要」と題するウェブページでは、障害者総合支援法(正式な題名は「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」)第77条第1項第6号に基づく日常生活用具の給付事業について、以下のように記載されています。
**********************************************************************************************1.制度の概要
市町村が行う地域生活支援事業の内、必須事業の一つとして規定。
障害者等の日常生活がより円滑に行われるための用具を給付又は貸与すること等により、福祉の増進に資することを目的とした事業である。
2.対象者
日常生活用具を必要とする障害者、障害児、難病患者等
※難病患者等については、政令に定める疾病に限る
3.実施主体 市町村
4.種目
(1) 介護・訓練支援用具
(2) 自立生活支援用具
(3) 在宅療養等支援用具
(4) 情報・意思疎通支援用具
(5) 排泄管理支援用具
(6) 居宅生活動作補助用具(住宅改修費)
5.申請方法等
市町村長に申請し、市町村による給付等の決定後、給付等を受ける。
6.費用負担
(1) 補助金の負担割合
国:50/100以内 都道府県:25/100以内
(2) 利用者負担
市町村の判断による。
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(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/seikatsu.html)
(2)補装具支給制度
厚生労働省HPの「補装具費支給制度の概要」と題するウェブページでは、障害者総合支援法第76条に基づく装具支給制度について、以下のように記載されています。
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1 制度の概要
障害者が日常生活を送る上で必要な移動等の確保や、就労場面における能率の向上を図ること及び障害児が将来、社会人として独立自活するための素地を育成助長することを目的として、身体の欠損又は損なわれた身体機能を補完・代替する用具(別紙「補装具種目一覧」
【引用者註:(平成18年厚生労働省告示第528号)https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000340640.pdf】を参照)
について、同一の月に購入又は修理に要した費用の額(基準額)を合計した額から、当該補装具費支給対象者等の家計の負担能力その他の事情をしん酌して政令で定める額(政令で定める額が基準額を合計した額の百分の十を超えるときは、基準額に百分の十を乗じた額)を控除して得た額(補装具費)を支給する。
※政令で定める額…市町村民税世帯非課税者以外の者:37,200円、市町村民税世帯非課税者:0円
2 対象者
補装具を必要とする障害者、障害児、難病患者等
※難病患者等については、告示に定める疾病に限る
3 実施主体 市町村
4 申請方法等
障害者又は障害児の保護者が市町村長に申請し、身体障害者更生相談所等の判定又は意見に基づく市町村長の決定により、補装具費の支給を受ける。
5 費用負担
(1)公費負担
補装具の購入又は修理に要した費用の額(基準額)から利用者負担額(原則1割)を除した額を補装具費とし、この補装具費について以下の割合により負担。
負担割合(国:50/100、都道府県:25/100、市町村:25/100)
(2) 利用者負担
原則定率1割負担。世帯の所得に応じ、以下の負担上限月額を設定。
(所得区分及び負担上限月額)
生活保護 | 生活保護世帯に属する者 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般 | 市町村民税課税世帯 | 37,200円 |
※ただし、障害者本人又は世帯員のいずれかが一定所得以上の場合(本人又は世帯員のうち市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上の場合)には補装具費の支給対象外とする。
※生活保護への移行防止措置あり
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(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/aiyo.html)
5.労災保険法
(1)義肢等補装具費支給制度
労災保険法(正式な題名は「労働者災害補償保険法」第29条第1項に基づき、業務災害や通勤災害により身体障害が残った方に対して、車椅子や上下肢装具などの義肢等補装具の購入又は修理に要した費用が支給されます。その対象品目は、厚生労働省労働基準局長の「義肢等補装具の支給について」(平成18年6月1 日基発第0601001号[最終改正:令和元年9月30日基発0930第1号])と題する通達の別添「義肢等補装具費支給要綱」により、以下のように定められています。
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①義肢/筋電電動義手【購入・修理】
②上肢装具及び下肢装具【購入・修理】
③体幹装具【購入・修理】
④座位保持装置【購入・修理】
⑤盲人安全つえ【購入・修理】
⑥義眼
⑦眼鏡【購入・修理】(但し、コンタクトレンズは購入のみ)
⑧点字器【購入のみ】
⑨補聴器【購入・修理】
⑩人工喉頭【購入・修理】
⑪車椅子【購入・修理】
⑫電動車椅子【購入・修理】
⑬歩行車【購入・修理】
⑭収尿器【購入・修理】
⑮ストマ用装具【購入のみ】
⑯歩行補助つえ【購入・修理】
⑰かつら【購入のみ】
⑱浣腸器付排便剤【購入のみ】
⑲床ずれ防止用敷ふとん【購入のみ】
⑳介助用リフター【購入・修理】
㉑フローテーションパッド(車椅子及び電動車椅子用に限る) 【購入・修理】
㉒ギャッチベッド【購入のみ】
㉓重度障害者用意思伝達装置購入・修理】
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(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000552971.pdf参照)
(2)福祉用具購入支援事業
労災サポートセンターHPの「介護・支援事業のご案内」というカテ中、「その他支援事業等のご案内」と題するウェブページでは、「1. 福祉用具購入支援事業」という見出しの下に、以下のように記載されています。**********************************************************************************************
労災年金受給者の方の日常生活を補助し、自立と社会参加を促進するため、労災保険の支給対象となっていない一定の福祉用具を購入した場合に、助成金を支給しています。
対象者
労災年金の障害・傷病等級が第1級~3級の認定を受けた方
対象の福祉用具
電動車いす等(電動車いす、電動4輪車)
床ずれ防止マット(エアマット、体圧分散マット)
介護用ベッド(マットレス等の付属品を含む)
※(一財)労災サポートセンターが指定する販売店での購入に限ります。
助成金額
購入額の3分の1(最高15万円まで)
1人1用具1回限り
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(https://www.rousaisc.or.jp/andOthers/index.html)
6.結語
福祉用具を必要とする老人や障害者にとって、様々な法制度が設けられていることは有り難いことですが、それぞれ手続が異なっており、移動が困難であるために申請したくても申請できない場合がある(多いと思われる)ことに配慮して、申請がワンストップでできるシステムを構築することが望まれます。