1.はじめに
筆者自身も苦い経験がありますが、自動車運転中や重要な会議中のように、眠ってはいけないのに、不意に強烈な眠気に襲われて、事故を起こしそうになったり、関係者に迷惑をかけたりすることがあります。余りにも強烈で耐え難いことから、「睡魔」と呼ばれています。自分の意思で制御することができないので、正に魔物です。
ところで、睡魔に襲われる睡眠には、「居眠り」と「うたた寝」があります。その違いについて、x-Memoryという生活情報サイトの「『居眠り』と『うたた寝』の違い」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。
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■居眠りについて
居眠りは、座ったり腰かけたりしたままで眠ることをいいます。これは、通常、仕事中や授業中、運転中など、何かをしている最中にうっかり眠ってしまう場合を指し、気づいた時はヒヤリとすることも多いです。特に自動車の運転中の居眠りは、多くの交通事故の原因の一つになっているので、細心の注意が必要です。
■うたた寝について
うたた寝は、眠るつもりもないまま、うとうとと眠ることや、寝る支度もせずに、そのまま横になって寝てしまうことをいいます。これは、漢字で「転寝」と表記されるように、通常、何かに横たわって眠った状態に用い、例えば、「ソファでうたた寝する」や「コタツに入ってうたた寝してしまった」というように使われます。
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(https://www.x-memory.jp/chigai/chig008.html)
このように、睡魔に襲われる点で共通していても、「居眠り」は不可であるのに対して、「うたた寝」はOKということのようです。体感としてもうたた寝は心地良く、バスや電車の中では、うっかり乗り越すことになりかねません。それでも幸いなことに、目的地に着くとパッと目が覚めることが多いものです。
してみると、睡魔の問題点は、否応なしに居眠りに陥ることに帰することになります。
2.睡魔の正体
睡魔に襲われた時を思い返すと、最も多く思い当たるのは睡眠不足ですが、いくら寝ても眠り足りない感じがする時もあります。
また、健康状態は良好で栄養も睡眠を十分に取れているのに、換気が悪い室内に大勢の人がいる時や、面白くない話を延々と聞かされている時もあります。
それから、酒や薬を飲んだ後に、眠り込んでしまうこともあります。
このように、睡魔は変幻自在ですが、最近は科学的に正体を解明することが試みられ、一定の成果が上がっています。
(1)睡眠不足
科学技術振興機構(JST)が運営する「Science Portal(サイエンスポータル)」というサイトの「『眠気』の正体が見えてきた~1万匹のマウスと向き合い、睡眠の謎に迫る~」(2020.01.30掲示)と題するウェブページでは、睡眠や覚醒に深く関わっている神経伝達物質「オレキシン」の発見者である筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長の柳沢正史さんの見解が、以下のように紹介されています。
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■睡眠時間の短い国、日本。睡眠不足は判断力や健康にも影響
睡眠の研究を進める柳沢さんは「世界的に見て日本は最も睡眠不足な国であることは間違いありません」と危機感を訴える。…(中略)…
睡眠不足が続くと、注意力や判断力が低下する。また、日常的な睡眠不足は、高血圧、糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病を発症させる危険性があることや寿命を縮めるという報告も多い。…(中略)…
■睡眠の謎 「機能」と「制御」
柳沢さんによると、睡眠は日本庭園などに使われている「ししおどし」で考えてみると分かりやすいという。ししおどしは、竹筒に少しずつ水を入れていき、いっぱいになると、その重みで竹筒の頭の方が下がる仕組みになっている。ししおどしに水が入る状態が、人間でいうところの覚醒状態で、竹筒に入る水が眠気だ。人間も起きている間に、だんだんと眠気が増えていき、眠気にあらがえなくなると竹筒の向きが変わるように、一瞬で睡眠状態になる。そして、睡眠によって、眠気が解消されることで、再び覚醒状態となる。…(中略)…
■睡眠研究へと導いた「オレキシン」の発見
柳沢さんは、もともと睡眠とは関係のない研究をしていた。1987年に血管を収縮させる作用をもつエンドセリンという物質を発見したことで世界的に有名になり、1991年にアメリカのテキサス大学に迎え入れられた。…(中略)…
この研究のゴールが見え始めると、柳沢さんは新たな研究テーマを探るようになった。そこで目を付けたのが、「オーファン受容体」というものだ。
「オーファン受容体は宝の山のようなもので、オーファン受容体が受け取る物質を調べることで、まだ知られていない新しい物質が発見できると考えたのです」と柳沢さんは振り返る。…(中略)…そして、脳の抽出物中に含まれるたくさんの物質の中から、あるオーファン受容体に結合する物質として発見されたのが「オレキシン」だった。
オレキシンは脳の中心部分に位置する外側視床下部で作られる神経伝達物質。この視床下部という場所は食欲に関与している場所であったことと、実際、脳にオレキシンを投与するとマウスの食欲が増したり、空腹時にオレキシンの産生量が上がったりすることから、最初は食欲に関係する物質だと思われていた。
「ところが、オレキシンを作る遺伝子を壊したマウスでも、食べる量はあまり変わらず、痩せもしませんでした。…(中略)…
そこで思いついたのが、夜間の行動を確認することだった。マウスは夜行性なので、夜間の行動を観察することで異常が見つかるのではないかと考えたのだ。予想は的中し、暗視カメラで撮った映像に、活発に動いていたマウスが突然動かなくなる様子が映っていた。調べてみると、このマウスは「ナルコレプシー」だということが分かった。ナルコレプシーは、日中に突然強い眠気が出現して、眠り込んでしまう睡眠障害で、世界では2000人に1人、日本では600人に1人が罹患しているといわれている。
さらに詳しく調べてみると、ナルコレプシーはオレキシンの欠乏によって引き起こされることや、オレキシンは覚醒状態を維持するのに重要な働きをしていることなどが分かってきた。分子レベルで睡眠の仕組みの一端が明らかになった画期的発見につながったのだ。「オレキシンは、睡眠の制御に大きく関わっている物質でした。この物質の発見によって、睡眠学が私の研究の大きな柱になっていったのです」(柳沢さん)。
柳沢さんの研究は、その後、オレキシン受容体に働きかけオレキシンの作用を阻害する物質を有効成分とする睡眠薬の開発につながった。この薬は2014年11月に医療現場で使われるようになり、効果を上げている。
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(https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20200130_w01/)
(2)過眠症
元住吉こころみクリニックHPの「過眠症の症状・診断・治療」(2019年10月07日22:00作成[2021年01月08日 23:09更新])と題するウェブページでは、以下のように記載されています。
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■過眠症とは?
過眠症は日中に強い眠気が続き、生活に支障をきたす睡眠障害です。不眠症に比べると「病気」と認識されることが少なく、「眠いのはやる気がないだけ」「気合が足りない」などと誤解されてしまうこともあります。
しかしながら、過眠症は脳の睡眠中枢・覚醒中枢の異常が引き起こす「病気」です。気合で何とかなるものではないため、努力をしても改善しない眠気で困っているときは適切な診断と治療が勧められます。…(中略)…
◎過眠症の症状
睡眠不足や過労などがあれば、日中に眠くなるのは自然なことです。ポカポカとした陽気に退屈な作業をしていたり、満腹になったりして居眠りをするのは健康な人でもよくあることです。
しかし、過眠症からくる病的な眠気はそのような原因が見当たらず、「眠ってはいけない」と頑張っても抵抗することができません。
そのため、
・学業に集中できず成績が落ちる
・仕事でミスが増える
・遅刻や欠席が増える
・事故などのリスクが高まる
・周囲の人に「やる気がない」と誤解されてしまう
などの問題が生じてしまいます。
◎過眠症の原因と種類
過眠症を大きく分けると
・中枢性過眠症(脳の睡眠・覚醒コントロール機能に異常がある)
・2次性過眠症(睡眠の質や他の病気によって日中の眠気が生じる)
の2種類に区別されます。
中枢性過眠症は、脳の睡眠・覚醒の機能に異常がおき、夜間の睡眠時間にかかわらず、日中に強い眠気が生じてしまいます。代表的なものには、
・ナルコレプシー
・特発性過眠症
・反復性過眠症
があります。これらの過眠症では脳の覚醒・睡眠中枢に問題があるため、夜間の睡眠や生活習慣の改善を行っただけでは日中の眠気がおさまりません。治療のためには適切なお薬の使用が必要になります。
一方、2次性過眠症は、他の病気や熟眠障害、薬の副作用、睡眠リズムの乱れなどで日中の眠気が生じてしまう状態です。この場合は、原因となっている病気の治療や、お薬の変更などが必要です。
過眠を生じやすい病気の代表は、
・睡眠時無呼吸症候群(SAS)
・うつ病
です。
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(https://cocoromi-cl.jp/knowledge/psychiatry-disease/hypersomnia/about-hypersomnia/)
(3)体内時計と睡眠恒常性
睡眠研究者の三島和夫氏が執筆している『睡眠の都市伝説を斬る』(NATIONAL GEOGRAPHIC)という連載記事の内、「第57回 眠気の正体」では、以下のように記載されています。
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眠気は24時間周期で現れるが、これは主に体内時計(生体リズム)の指令による。しかし、それで全てを説明できるわけではない。体内時計の指令だけであれば、徹夜をしていても朝になれば眠気が吹っ飛ぶはずだが実際にはそうではない。
24時間リズムとは別に、眠気は覚醒時間(起き続けた時間)に比例して徐々に強まるという特徴がある。体内時計が腕時計型だとすれば、対比的に「砂時計」型システムが働いていると表現されることもある。ひっくり返すと着実に眠気の砂がたまり、ある量を超えたらバタンキューというわけである。このように睡眠は2つの時計の影響を受けている。
徹夜明けの早朝は体内時計と砂時計がせめぎ合う時間帯である。砂時計のために深夜から明け方に向けて強まった眠気が、朝食の時間帯あたりでいったん弱くなる。これは体内時計の指令で脳温が上昇したり、覚醒作用のある副腎皮質ホルモンが分泌されたりするからである。
しかし、そのような目覚め感も長続きせず、砂時計が下に溜まってしまえば力尽きて眠り込んでしまうのだ。砂時計型システムは、別名、睡眠恒常性(すいみんこうじょうせい)とも呼ばれる。…(中略)…
厳密には疲労と眠気は異なるのだが、ここではざっくりと「蓄積した疲労を解消しようとする恒常性の圧力が眠気(睡眠欲求)」であると理解していただいて良い。…(中略)…
アデノシンは私たちの体のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(ATP)という物質の代謝産物である。体の燃料の燃えがらが溜まると睡眠が引き起こされるというのは、睡眠の主要な目的が疲労回復であることを考えると実に合理的である。…(中略)…
現在ではアデノシンが私たちの脳内で睡眠物質として働いていることはほぼ間違いないと考えられている。いわば砂時計の砂である。ただし、砂がアデノシンだけかというと決してそうではない。
おそらく睡眠という重要な生理機能が、たった一つの物質や神経でダメージを受けないように二重、三重、いやもっと多数のバックアップ機構で維持されているのだろうと考えられている。砂時計の砂は色とりどり、かなり多数の生体物質が混じり込んでいるのだろう。
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(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/403964/082900048/)
3.急場しのぎ
「Sleep Styles」というサイトの「睡眠学研究レポート」というカテ中、「睡魔を撃退! 眠気覚ましに効果的な7つの方法」と題するウェブページでは、「睡魔の解消法」という見出しの下に、以下のように記載されています。
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睡魔は突然、やってきてほしくないタイミングでおとずれるもの。ここでは、何とかして今すぐ解消したい、という時に使える方法を紹介します。
■耳を引っ張る
耳には100以上のツボがあるといわれており、特に耳たぶのツボは軽くもむと身体があたたまり、活動モードに切り替わるツボです。
両手で左右の耳たぶを持ち、下にゆっくり3秒引っ張ったらポンと放す動作を、4〜5回繰り返しましょう。仕上げに耳全体をもんだり、上下・左右・斜め方向に引っぱったりすることで、耳全体のツボが刺激され、より効果的です。
■日光やブルーライトを浴びる
日中に直射日光を浴びたり、窓際から外を眺めたりするだけで、睡魔を撃退できます。…(中略)…
■人と話す
人と会話をすると脳が働き、眠気が解消されます。
仕事中に眠気を感じたら、コーヒーブレイクをとったり、同僚とコミュニケーションをとったりするなどの時間をもうけてみましょう。
■カフェインをとる
コーヒーや緑茶などに含まれるカフェインは、脳にたまった睡眠物質の働きをブロックして、眠気を払う作用があります。
ただし、カフェインをとった直後には目が覚める効果が出ないので、注意が必要です。カフェインをとるタイミングは、効果を発揮したいときから20〜30分前です。…(中略)…
■アイソメトリックス(等尺性運動)
アイソメトリックスとは、関節を動かさずに筋肉を収縮させる運動のこと。身体をゆっくりほぐして交感神経を活発にすることで、血圧や体温を上昇させ目覚めをうながすことができます。
ここでは、オフィスで簡単にできる方法をご紹介します。
<身体が一気に目覚めるアイソメトリックス>
親指以外の4本の指を胸の前で引っ掛けるように組む
両手を外側に向かって、思いきり引っぱり合う
背中の肩甲骨をよせるイメージで、10秒ほど続ける
胸の前で両手を合わせる(両指を組んでもOK)
腕が水平になるようにひじを上げ、両手を内側に思いきり押し合う。これを10秒ほど続ける
■ガムをかむ
かむという動作は、脳の神経伝達物質「セロトニン」の分泌を促進する働きがあります。セロトニンの量が増えると神経細胞が活発になり、脳や身体を目覚めさせてくれます。
■冷水での洗顔
「冷たい」という刺激は、活動をつかさどる神経「交感神経」を活発にするため、目覚め度がアップします。
ただし、即効性はありますが、効果が継続する時間が短いので、他の方法と合わせて活用しましょう。
■睡魔を撃退するツボ
睡魔がおそってきたときには、ツボを押すとすっきり目が覚めることがあります。…(中略)…
・目のまわりが重いとき
【押すツボ】
目頭のやや上、骨がカーブしているところの角の裏側にある「睛明(せいめい)」というツボ
【ツボの押し方】
睛明に親指をあて、内側ななめ上に向かって差し込むように何度か押す
・頭がボーとするとき
【押すツボ】
後頭部の髪の生え際で、首の中心にある「僧帽筋(そうぼうきん)」のすぐ外側にある「天柱(てんちゅう)」というツボ
【ツボの押し方】
親指の第一関節を曲げて、指先で頭の中心に向かって押し上げる
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(https://sleepstyles.jp/report/ss-7586/#i-4)
4.結語
睡魔に襲われると、たとい被害らしい被害が発生しなくても、他人に迷惑をかけたり、能率が下がったりするので、職場では禁物です。健康管理という面だけでなく、労働条件の適正化や職場環境の整備等、労務管理という観点から、産官学が連携して、予防と対策に取り組むことが望まれます。