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第86回 耕せども尽きず

日本人らしくあらねば、という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、日本人はそれ以前に人間たるべくあらねば、というもっと本質的な点に立ち返る必要があります。国政、会社や役所といった組織、教育機関も然り、集団と化したときの個が埋もれている、見方を変えれば集団にあるべき理念に合致しないポリシーで組織運営の行われている実態が非常に目立ちます。

変化・失敗を懼れ、新たな境地に歩み出そうとせず、今の地位に安住したい保身に埋もれた思考の人々、一方で、過去の栄光にしがみ付き、あたかも現在にも通用するが如く過去の栄光理論を振りまき、時代に合わない論法を押し付ける老害たる行為を行なう人々。総じていうなら、リスク(変化)を選択せずに安穏と過ごしてきた人々です。

上記はまさしく「耕す」ことを怠ってきた人たちです。成功体験のある人は自身の成功体験が最高と言わんばかりにそれ以後、継続して耕すことを忘却の彼方に置き忘れてきました。

沖縄における未だもって唯一の名誉県民である元衆議院議員「山中貞則氏」は言います。「耕せども尽きず」と。同氏は消費税の産みの親、税調のドンと言われて久しい人物です。この度、沖縄本土復帰50年、生誕100年を迎えた今年、大々的にその人生となり、人となりが沖縄や鹿児島にて報道、紹介されました。鹿児島県出身の同氏には、江戸時代の島津藩が琉球王朝を侵略したことに対する償いの想いが根っこにありました。当時の佐藤総理の命の元、初代沖縄開発庁長官として本土復帰に尽力したその耕し度合は半端ないレベルでした。沖縄の本土復帰時にドルから円への通貨切り替えにおいて、物価高騰が同時に想定されましたが、その差額を国からの全面補償することを取り付け、当時の大蔵省専管事項を覆してまで実行させました。

一方で、2000年に宮崎県において発生した口蹄疫についても、感染拡大防止に寄与します。当時、畜産関係の職務にあった同氏は国からの緊急で100億円の予算を取り付け、江藤隆美氏や中川義雄氏らと共に封じ込めをわずか37億円に収め、甚大なる牛や豚の大量殺処分を防ぎました。情報セキュリティ対策におけるCSIRT(Cyber Security Incident Response Teamの略)の機能ではお馴染みの封じ込めにも通じますが、これはリアルなリスク対策として、被害拡大における封じ込めが機能した典型的な事例でした。2010年に再び発生した口蹄疫、この時の対処の遅さが宮崎県をはじめとして牛、豚が大量殺処分され、畜産業界は大打撃を受けました。リスク対策が後手を踏んだ事件としてよく対比として出されます。

一生を耕し続けた「山中貞則」という人物の自己理念、それが「耕せども尽きず」。

「ノリちゃん、どうしてあなたはそんなに字が汚いの?世間に恥ずかしくない真っ当な政治家になるなら、字を練習しなさい」と私の祖母が、実の息子のように可愛がっていた甥っ子である同氏を、戦後の混乱期にあった大阪の地で誡めたと言います。その何十年後、両親の遺品を整理している中で出てきた、同氏の達筆な直筆の手紙などをみると、まさに「耕せども尽きず」の心境で培った熟練の筆遣いが見て取れます。

2022年、世界的に不穏な空気が流れる中、インフレ圧力も吹き荒れています。日本人の大半は何が原因で起きているかわからないため、不安だという“症候群”に覆われています。その結果、とりあえず流されるものに流されておこうという無思考状態がポリティカルコレクト(通称、ポリコレ)状態を引き起こしています。耕すことを忘れ、風見鶏になって風の吹かれるまま、あっち向きこっち向き。あなたに芯はありますか?軸はありますか?もっと言うならば、“夢”“目的”“使命”はありますか?私にはあります。一人でも多く、考えることとは何かに気付いてもらうために創意工夫することです。自分が他人の思考を変えることができないのと同様、他人が自分の思考を変えることもできません。しかしより多くの人に気づいてもらうキッカケ作り、機会は用意することができます。耕し続け、結果がそれでも足りなければその要因を分析し、次なる肥料、水やりなどの工夫を施し続ける。耕せども尽きず、終わりはありません。

今一度、皆さんもこの“耕せども尽きず”、この言葉を深堀りされてみては如何でしょうか。きっと何かの気づきのためのヒントが得られることでしょう。

株式会社シー・クレド代表取締役
京都府立医科大学特任教授
乙守 栄一

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