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  1. 産業法務の視点から 平川博
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最終回 人類滅亡直前の危機

1.はじめに
毎年1度発表される終末時計の針が、昨年に続き今年も「残り100秒」を指しているという比喩的な表現から、人類滅亡の危機が直前に迫っていることが窺がわれます。

要因としては、核戦争の勃発や、極端現象と呼ばれる猛暑や極寒等の異常気象、大規模な地震や火山噴火、竜巻、洪水等の自然災害、伝染病の流行、環境汚染による健康被害や食糧不足が挙げられます。

これらの要因の中で、異常気象と自然災害は、人類の誕生前も滅亡後も起きるものですから、本質的に人類が発生することを阻止することはできません。

それに対して、核戦争の勃発や、伝染病の流行、環境汚染は、人類が英知を働かせ、助け合うならば、滅亡を防ぐことはできなくても、遅らせることはできるでしょう。残り100秒をせめて100分まで、更に100時間まで、願わくば100日まで延ばしたいものです。

しかし、人類全体の生存よりも、自分自身の保身を優先する集団が権力を握っている限り、地球環境は劣悪化し続け、人類だけでなく、大多数の生物が死滅する可能性が高まって行くことでしょう。

2.核戦争勃発の危機
核戦争が起きれば、人類は滅亡するということは言うまでもありませんが、実際に投下されたのは、広島と長崎の2か所に各1発だけです。その後70年以上経つ内に、核兵器保有国は5大国のほかに4か国(イランは不明)もあり、各兵器の数は合計すると、1万基を超えています。

核保有国は北半球に集中しているので、南半球は安全に思われるかも知れませんが、放射能汚染は世界中に拡散するので、被爆しなくても生命は危険に晒されることになるでしょう。

このような状況から、核廃絶の国際世論が高まり、核兵器禁止条約が2021年に発効しましたが、核兵器保有国だけでなく、世界で唯一の被爆国である我が国も条約に参加していません。

しかも国際社会全体を見渡すと、各地で紛争や内戦等の武力衝突が起きており、要因を整理すると、以下のように集約することができます。

(1)グローバリゼーションとローカリゼーションの相克
通信と交通の飛躍的発展により、無形の情報と文化はグローバリゼーションが進行するのに対して。民族や宗教団体、政治的組織が団結力を高めて固く結束するようになり、排他的になります。そのために、移民や貿易は、国益保護という観点から、国家間での利害が一致しなければ(その方が圧倒的に多いので)、国境という高い壁がはだかります。

同一国家の中でも、人種差別の廃止に拘わらず、民族の違いは現存しており、少数派は冷遇されています。宗教や思想という精神的な自由の面でも、少数派は発言力が弱く、肩身の狭い思いをさせられています。

また、輸送力の発展により、商品市場が拡大して、各国の国内から海外へ進出して行きます。あらゆる市場に多国籍企業が登場し、支配力を高めています。

更にIT技術の飛躍的発展により、情報産業の市場が全世界へ一気に拡がり、大国を本拠とするグローバル企業が支配する寡占状態になっています。その反動で、大国間での技術革新競争が激化しており、乗り遅れた大多数の国家は衰退の一路を辿ることになるでしょう。

(2)難民問題
人種や民族、宗教、思想等の違いにより政治的・経済的窮地に陥り、生存することが困難なため、国境を越えて近隣諸国へ逃亡する難民の数は、世界中の人口の1%を超えています。何と100人に1人以上の人が、難民になっているのです。

人道的見地から、すべての難民を受け入れるべきであると云いたいところですが、受け入れ先の国で、人種や民族、宗教、思想等の違いによる政治的・経済的問題を背負い込むことになるリスクを考慮すると、難民の受け入れ先を探すことが容易でないことに思い至るでしょう。亡命も同様のリスクを抱えていますが、人数が少ない点が異なります。もし特定の国から100万人単位の亡命者が一時に出るような事態が発生したら、難民と同様の社会問題に発展する可能性があります。

(3)領土問題
領土は国家の存立基盤であるだけに、領土の帰属を巡る国家間の紛争は、軍事的衝突に発展する可能性が高く、極めて危険です。特に古代国家の誕生まで遡る長い歴史が背景にあるとか、天然資源や風土の面で恵まれているような場合は、お互いに正当性を主張して、折り合おうとしません。

更に、当事国だけでなく、それぞれの同盟国や友好国が絡んで来ると、くすぶっていた火種が燃え上がることになります。

(4)宗教紛争
特定の宗教に帰依する信者にとって、その教義は絶対的な真理であり、それと異なる情報は間違っていると確信しています。そして同じ宗教の信者が集まって宗教団体を結成すると、他の宗教団体との間で論争が起きます。

宗教団体どころか、特定の宗教を国教と定めている国は、今でも世界中に数多く存在しています。その中でも、教義を統治の根本原則とし、儀礼を国家行事としている場合は、宗教国家と呼ばれます。

ところで、宗教国家間で紛争が起きると、聖戦という大義名分の下に国民の宗教心が煽られていることに着眼して、宗教紛争として扱われますが、主眼は国内の社会的・経済的・政治的危機を乗り越え、或いは隣国や周辺国に対して優越的・支配的地位を築くことであります。

両国民にとって不幸なことは、劣勢になっても降伏しようとせず、戦死が殉教として美化されることです。今でこそ我が国は宗教の自由が憲法で保障されていますが、戦前は神道を国教とする主教国家でした。

尚、宗教国家の中には、核兵器開発能力を持ち、更に進んで核兵器を保有している国があります。

2.地球環境の悪化
(1)環境破壊
化学物質による環境汚染や土地の砂漠化、気候の温暖化等により、光合成を行い、動物の生存に必要な酸素と栄養を供給する植物の減少が加速的に進行しています。経済の発展のために繰り広げられる開発競争の結果、人類だけでなく、あらゆる動物が絶滅の危機に瀕しています。

このような危機的状況の打開策として、国際的に二酸化炭素削減や脱炭素への取り組みが本格化していますが、どのようなエネルギー源を使っても、電気や熱に変換する設備や装置が必要であり、環境にやさしいと形容しても、破壊された環境を修復するどころか、保全すらできそうにありません。太陽電池が次世代エネルギーの主軸として期待されていますが、寿命が過ぎた後の大量廃棄は社会問題になることが想定されます。

(2)異常気象
世界的に猛暑や極寒、豪雨、豪雪、強風等の異常気象(極端現象)が各地で頻繁に起きています。その要因として、人間活動によって急増した大気中の二酸化炭素による地球の温暖化が大きく取り上げられています。

言うまでもなく、猛威を振るう自然の力は制禦することはできず、異常気象が発生したら、如何に早く安全な場所に避難するかという観点から、対策を講じるしかないでしょう。

ところで、地球内部で巨大な熱エネルギーを持つマグマは、マントルという分厚い層に包まれ、その外側を地殻が覆っています。地殻は陸地と海底があり、地球が冷却する過程で陸地が形成されました。それに逆行して地球温暖化が進めば、陸地は海中に沈むことになります。その結果、陸上の生物は生存することができなくなるのです。

(3)巨大地震と火山噴火
世界各地で巨大地震と火山噴火が頻発しています。地殻とマントルの上層部が結合したプレートと呼ばれる岩盤があり、地下でプレートがずれることにより、地震が発生します。複数の巨大なプレートが重なり合っている地域では、押し合いへし合いを繰り返しており、周期的に巨大地震を起こしています。

火山も火山帯と呼ばれる密集地域があり、大小様々な噴火を繰り返しています。地球に限らず、星も生物と同様に誕生から死滅まで一生があり、絶えず変化しているのです。

これは人間活動とは関係なく起きるもので、できるだけ早く正確に予測することが関の山でしょう、

3.感染症の大流行(パンデミック)
(1)病原体の進化
病原体(細菌やウィルス等の総称)は、新薬の開発後、一定期間を過ぎると薬剤耐性や変異により、効果が薄れます。そのために、新薬の開発と病原体の進化は、謂わばイタチごっこの様相を呈しています。

特に世界中に蔓延している新型コロナは、最初の発症とされる2019年12月から現在(2022年2月)まで僅か2年有余の間に、各地で波状的に流行を繰り返し、変異株は増える一方です。対策として様々なタイプのワクチンが開発されていますが、残念ながら決め手になるものはなく、接種を受けた人でも感染し、死亡することがあります。

しかもウィルスが進化して感染力が強くなっているのに対して、人間は自粛疲れや警戒心の緩みにより、社会的全体が感染しやすい雰囲気に包まれて行きます。第1波の段階では、未知の危険に対して過剰と思われるほど厳しい警戒体制が敷かれたのですが、第6破の段階では、重症化率が低いという情報が優先的に取り上げられ、危機感が薄れていますが、患者数が急激に加速して増加するにつれて、またもや泥縄式の警戒体制の強化が図られている状況です。

(2)新興感染症
人類の歴史の中で、パンデミックを起こした感染症(旧「伝染病」)としては、天然痘やペスト、スペイン風邪(インフルエンザ)がありますが、医学の発達により、予防や治療方法が確立しているので、再び流行する危険性は皆無に近いでしょう。因みに、天然痘は種痘というワクチンの予防接種のお陰で、絶滅しています。

しかし、過去に無かった病原体による新たな感染症(新興感染症)が登場しており、ウイルス性疾患としては、AIDS(エイズ)やSARS(サーズ)、MERS(マーズ)、エボラ熱、ノロ食中毒等があり、細菌性としては、O157やカンピロバクターによ食中毒、レジオネラ肺炎等があります。新型コロナは最新のウィルス性新興感染症に分類されることになるでしょう。

(3)再興感染症
既知の感染症の中には、長年に亘り制圧されて下火になっていたデング熱やコレラ、狂犬病、マラリア、結核等、近年再び流行し始めたもの(再興感染症)があります。

その要因としては、耐性菌と耐性ウィルスの増加や、抗菌剤の乱用、抵抗力が低い高齢者とや免疫力が低い若年者の増加等が挙げられます。

(4)地球規模での要因
マクロ的な視点から見れば、パンデミックが起きやすい要因として、未開地(特にジャングルや密林)の開発とか、交通の発達、地球の温暖化(病原体が繁殖しやすい気温や湿度)等が挙げられます。

4.最先端科学技術の悪用
(1)バイオテロ
政治的な目的を実現するために生物兵器を用いて無差別大量殺傷を行うバイオテロは、技術的に可能であり、小規模な場合は郵送や噴霧、感染動物の放出という手段が使われるのに対して、対規模な場合は、航空機やミサイルが輸送手段として用いられます。

病原菌は目に見えず、感染するので、被害は甚大です。またアジトが小さな密室であれば、発見することは困難でしょう。

(2)サイバーテロ
政治的目的や経済的利益のために、コンピュータのネットワークを利用して、サーバーやシステムに不正に侵入し、不正プログラムを実行させて、情報の窃取・改ざん・破壊を行ったり、誤作動やフリーズ(停止)を起こさせて機能不全に陥れたりするサイバーテロは、巧妙化し、グローバル化しています。

ターゲットは、特定の企業や団体の場合だけでなく、不特定多数の場合もありますが、国際政治で最も危惧されるのは、国連や各国政府が狙い撃ちされることであり、国境を越えて瞬時にあらゆる情報が伝達され、しかも匿名性が高いサイバー空間で行われるだけに、予防することは難しく、気付いた時は手遅れになっているでしょう。

また、市民生活の面では、家電や自動車、家屋などすべての物がインターネットでつながって、利便性は高まりますが、その反面、サイバーテロの標的にされるリスクも高まります。知らない内に、犯罪に巻き込まれることもあり得ます。

5.AIロボットの支配
ディープラーニング(深層学習)により進化した人工知能(AI)を搭載したロボットが人間に代わって労働の担い手となり、人間のあらゆる需要(商品と役務)をロボットが供給する時代が到来する可能性が高まっています。その頃には、プログラミングも人間に代わって、ロボット自身が行うようになり、需給のバランスもAIが調節することになるでしょう。ここまで来ると、AIロボットの言いなりになりたくないと思う人が出て来て、わがままな人や欲張りな人は、我慢ができずに自分勝手な行動を始めるでしょう。

それでは治安が乱れることになるので、警察ロボットが出動して、社会秩序を維持しようとするでしょう。やがてAIロボットは、人間の支配にとどまらず、人類が諸悪の根源であるということに思い至り、地上から抹殺することになりかねません。

6.結語
ここまで考察して来たように、世界中の至る所で軍事的威嚇や衝突が繰り広げられているのに、国連が平和機関として機能していません。そして科学技術が発達すればするほど、皮肉なことに人類は自滅するリスクが高まります。終末時計の針が残り100秒から先へ進む速度を落とすために残された道は、1945年にアインシュタイン博士が提唱したように、世界の統治機構を統一するために、国際連合を解体して、世界連邦を樹立することでしょう。

ところが、コスモポリタニズム(万民主義)の支持者が増えると、それに対抗して愛国主義者も増えて、対立が激化し、武力衝突が戦争に発展することになるでしょう。このようなリスクを回避するための選択肢は、ガンジーのように「非暴力不服従」を貫き通すことに絞られているのですが、ガンジーが暗殺されたように、武力で制圧した勢力が権力を握ることになります。かくして「戦争をなくすための戦争」が繰り返され、「最後の戦争」はお題目に過ぎません。

このような国際的状況を産業法務の視点から見ると、地道な啓蒙活動を通じて、世界中の人々が国籍や民族、思想・宗教等の身分や属性により区別されることがない「世界市民」であるという共通の意識を持ち、情報と文化だけでなく、あらゆる物資や役務が(いずれは人も)、自由に国境を越えて移動することができる社会を築くことが望まれます。

また、世界連邦の統治権を担う世界政府の権力集中による弊害を排除するために、世界市民の基本的人権を保障・養護する連邦基本法の制定や、名実ともに民主的で公正な政治を実現する議会や内閣や裁判所の設置について、世界中の人々がネット会議に参加して自由に意見を出し合い、国際世論を集約しながら、インフラを整備して行くことを提言します。

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