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第40回 吉本興業の岡本社長、なぜ5時間半の記者会見

あの記者会見はこう見えた!

石川慶子氏

2019年7月22日、吉本興業が5時間半の記者会見を行いました。フライデーのスクープから始まった一連の吉本騒動。現在も騒動は続いていますが、本コラムは記者会見を分析するコラムですから、この5時間半の記者会見に焦点を当てます。私が知る限り、2番目に長い記者会見でした。一番目は、川崎市病院で起きた安楽死について病院側が行った会見が9時間でした。吉本側は果たして5時間以上やる必要があったのか、本当はどうしたらよかったのか、考えてみましょう。

問題は「対応の仕方」

私は褒めるところがなかったので、5時間半も耐えたことを唯一の評価としてコメントしました(日経本紙7月23日)が、会見は長ければいいと誤解する人がいるかもしれませんので解説します。普通はこれほど長い会見はやりませんし、やる必要もありません。しかし、今回これほど長引いた理由は2つあるとみています。最初の報道から時間が経っているため説明しなければならない内容が多くなってしまったこと。2つ目の理由は、社長自身、今回の問題を主体的に解決に向けて取り組んでいないため説明が要領得なかったこと。

今回の騒動、事の発端は6月7日のフライデー記事です。詐欺グループの忘年会に吉本興業の社員が出席したことが報じられました。朝日新聞から解説の依頼があったのは、6月27日。質問のポイントは、詐欺グループの忘年会に出席したことそのものではなく、吉本興業の「対応」が危機管理の観点からどうなのか、会社の対応に問題があるのではないか、とのことでした。会社側は記者会見をしない理由として「記者会見場に反社会的勢力の人が紛れ込むから」と言っているが、その理由に全く納得できないからとのことでした。記者会見はライブ中継する時代に全く理解しがたい理由でしょう。

クライシスコミュニケーションとは、「緊急事態発生時にステークホルダーに対して説明責任を果たすこと、ここで失敗するとダメージが広がり、起こしたことそのことよりも対応が悪いと非難されること」です。まさに、典型的な失敗であることがこの定義に照らし合わせるとよくわかります。

失敗にはパターンがあることをここで強調しておきます。私は「タイミング」「手法」「表現」として警鐘鳴らしています。今回もそうです。社長による会見は、芸人たちによる会見の後という最悪のタイミングであったこと、記者会見を開かずHPでの掲載のみであったこと(手法)、記者会見での説明内容(表現)は要領得ず、説明責任を果たしたとはいえなかったこと。

トップにメディアトレーニングは必須

時系列でみると記者会見決断の機会は3回ありました。6月8日、宮迫氏と田村氏が会社にギャラを受け取っていたことを報告した時、6月24日に謝罪会見をしたいと訴えた時、27日に決意表明を出して取材が殺到した時。3回もチャンスがありながらその決断をすることができませんでした。では、なぜ自ら会見をする決断ができなかったのでしょうか。最初の段階で事態を過小評価してしまったこと、吉本興業が拡大するにつれて会社が社会の公器になっている自覚が持てなかったからではないでしょうか。

そして、7月22日の社長による記者会見の組み立て方(表現)。最初に法務部の弁護士から用意した書類を30分間読み上げました。これにより弁護士任せであったことを露呈されたように見えます。読み上げるだけなら社長でもできた筈。まず社長が、危機感持ってすぐに対応できなかったことをお詫びし、経緯を説明すべきでした。冒頭社長がコメントすれば重大に思っていること、自ら事態の収束に当たっている印象を与えることができたでしょう。また、30分読み上げることでより経緯が頭に入ったはずです。説明を弁護士に任せて質疑応答に対応するから説明が曖昧になってしまうのです。このように記者会見は組み立てが重要です。どの順番で誰がどう話すのか。そして質問に対して的確に回答する訓練もしておくことが、危機管理広報の鉄則です。

「岡本社長は資質に欠けるのではないか」といった質問もラジオ局からありましたが、米国企業では、役員になる人、メディアに出る人はメディアトレーニングを受けるのは定着しています。受けないと取材対応していけないというルールを設けている企業もあります。トレーニングで立ち居振る舞いを身につけることは可能です。その訓練プログラムを考えて実施するのは広報担当者の役割でもあるのです。

とはいえ、記者会見はやらないよりはやった方がよかったといえます。対立する両者が会見をすることでどこが争点になりそうか、公になるからです。質問が途切れるまで5時間半耐え続けた忍耐力は評価したいと思います。ここが出発点です。危機管理広報の基本である初動3原則、「ステークホルダーを忘れない」「危機発生時に迅速に自らの意思で方針を決める」「説明責任を果たすポジションペーパー(事実、経緯、原因、再発防止、見解)を文章でまとめること」をベースに危機管理体制構築に本気で取り組んでもらいたい。

<時系列の整理>

5月30日 フライデーから宮迫氏に直撃、会社に第一報
6月3日、フライデーから質問状、タレントに対してヒヤリング開始
6月4日、吉本興業、カラテカ入江慎也との契約解消
6月7日、フライデーが、カラテカ入江さんの仲介で詐欺グループの忘年会に吉本興業の所属芸人が出席したことを報じた。
宮迫氏、田村氏ツイッター上で「ギャラはもらっていない」と説明
6月8日、宮迫氏、田村氏はお金を受け取っていたことを会社に告白
6月24日、宮迫氏、田村氏は謝罪会見をしたいと訴えるが却下される。
6月27日、「決意表明」を会社のHPに掲載。現在の吉本興業は反社会的勢力との関係は一切ないこと、コンプライアンスに関する体制構築について決意を表明。
7月13日、「修正申告および寄付の実行に関する報告」をHPに掲載。会社を通さない収入があったこと、それについて修正申告したこと、寄付したことを報告。
7月19日、「宮迫博之(雨上がり決死隊)、マネジメント契約解消の報告」をHPに掲載
7月20日、宮迫氏、田村氏が記者会見
7月22日、吉本興業岡本社長、記者会見開催


【参考サイト】

吉本興業会社サイト
https://www.yoshimoto.co.jp/

朝日新聞デジタルでの石川6月28日コメント
https://ishikawakeiko.net/2019/06/28/1031/

吉本興行岡本社長会見 ライブ
https://www.youtube.com/watch?v=JLweofERpUs

宮迫さん、田村さん記者会見ノーカット版 2時間半の長時間会見
https://www.youtube.com/watch?v=rURTpvnUFt4

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