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第48回 危機時に求められる表現~安倍総理のコロナ会見から考える~

安倍総理は、新型肺炎コロナについてこれまで、2月29日、3月14日、3月28日の3回会見を行っています。1回目の会見は短すぎる、打ち切ったことへの批判がありますが、その後の2回は1時間近くとなり、対話が成り立っていると思います。全体的に内容も悪くはなかったというのが私の見方です。

1回目は協力の呼びかけ

2月29日の記者会見における安倍首相冒頭発言の構成は、新型コロナウィルスについての現状、感染拡大を抑止する方針、事業者や自治体へのイベント等の集会自粛の要請とテレワークの推進、全国小中高校の臨時休校の要請、必要な助成金制度の準備、感染者への哀悼やお見舞い、検査や医療体制、治療薬開発の決意、国民全体への協力呼びかけ、乗り越える決意、最前線の医療関係者への敬意で締めくくられました。

国民、感染者、医療従事者、自治体、事業者、学校といったメインのステークホルダーへのメッセージがもれなく含まれていました。また、立ち向かう決意、国民への呼びかけもよかったと思います。特に、「感染者への哀悼やお見舞い」「医療従事者への敬意」が入っていたことには好印象です。

記者からの質問は、休校要請が突然すぎる、説明が遅い、オリンピックはどうなるか、日用品不足への対応、クルーズ船対応への反省と結果責任、中国からの入国拒否を拡大させるか否か、日本の危機管理能力と今回の教訓。かなり政府判断を責め立てる雰囲気に満ちていました。質問は聞いていて違和感がありました。なぜなら、危機の渦中に入っているので、振り返って責任を追及する場面ではないからです。国全体でどのようにこの危機を乗り越えるのか、対策は十分か、できていないことはないか、しわ寄せがいってしまう体力のない中小企業や生活者、感染者への人権を守るための配慮のあり方、政府の足りない部分を指摘する質問をする必要がありました。国民の不安を背負った質問であってほしかったと思います。

この会見はまだ質問があるのに広報官が打ち切ったとして、一部批判が出ていますが、緊急記者会見で時間を制限するのは「あり」です。もうこれで最後にしたいといった場合には、質問が尽きるまで行うといった考え方もありますが、今回はそれに当たりません。映像を見ると、広報官が「これで最後の質問にします」と言った際に、安倍首相は振り返り驚いた顔をしたところをみるとご本人ももう少しやるつもりではあったことは見て取れます。

2回目は感謝と継続のお願い

2回目となる3月14日の構成は、新型コロナウィルス感染症に関する特別阻止方の改正案が成立したこと、世界と日本の状況比較、政府で行っている対策、国民への協力に感謝、3つの密を避ける予防のための行動継続、健康管理、工夫へのお願い、卒業生へのお祝い、財政措置の規模、PCR検査体制、医療体制、世界との連携体制、ダイヤモンド・プリンセス号への対応、医療従事者への敬意、最後は、困難を克服する決意を述べました。

全体的に国民への感謝とお願いのトーンが強かったと思います。卒業生へのお祝いの言葉があったのはよかったと思います。この一言があるだけで共感が生まれ、心が温まります。

質問は、緊急事態発令の条件、これまでの危機管理についての教訓、オリンピック開催するかどうか、中国からの入国制限が遅かったのではないか、消費税引き下げの可能性、経済対策の規模、北海道の緊急事態宣言への評価とコロナ収束の見通し、生活困窮者への支援開始時期、学生就職不安と企業への要請、雇用対策。ここで広報官が打ち切ろうとしたところ、安倍総理が「まだいいんじゃないか」とのことで、質問時間が延長されました。緊急事態宣言による私権の制限への懸念と黒川検事の定年延長取り消しの可能性、第3弾の経済対策、緊急事態発令による安倍独裁への懸念。

前回の打ち切り批判を受けて、総理自らが質問を受け入れるという形になりました。質問内容も経済不安が多く、国民の知りたい内容に沿っていたのではないでしょうか。

3回目は危機だからこそ希望

3回目となる、3月28日の構成は、世界の状況、日本のこれまでの対策、爆発的感染の懸念、3つの密を避けるお願い、具体名をあげたワクチン開発の状況と投与効果の現状、経済については強大な政策パッケージ、7回現場の声を聞いたこと、生活困窮者への具体策、その後のV字回復の需要喚起策、聖火を希望の灯火とする決意。

希望のメッセ―ジが強く出されたことで、危機的状況にあることが見えました。通常は固有名詞をあまり出しませんが、今回はワクチン名を具体的に出すことでパニックを抑える効果を狙ったのではないでしょうか。また、危機の重大局面にあることから、あえて希望を全面に出したともいえます。7回現場の声を聞いた、とここでも数字を出すことで国民に寄り添っていることを表現したのだろうと思います。最後の締めくくり、日本に来た聖火を「人類の希望の象徴として、わが国でその火をともし続け」「人類を見響く希望の灯火」「打ち勝った証」として成功させる部分はなかなかの名文だと感じました。

質問は、経済対策の具体的な規模、緊急事態宣言の時期、自殺した近畿財務局職員についての第三者委員会設置可能性、雇用調整助成金は非正規も対象か、コロナ収束とオリンピック開催時期、学校再開について、イベント自粛による損失補填、緊急事態宣言発令による経済損失、マスク不足対策、学校再開、現金給付、消費税、日本は少なすぎるという意見について。

この日はきらりと光る質問が2つありました。公文書改ざんを強要され自殺した近畿財務局職員について説明責任を果たす必要があるのではないか。似たような質問が続く中、シャープでよい質問だったと思います。回答もお悔やみがあり丁寧であったと思います。コロナだけではなく、見落とされる問題にもしっかりと質問をしていく姿勢は好印象です。もう一つは、最後の「日本は感染が少なすぎる、検査が少ない、隠しているのではないか、といったことについて総理はどうみているか」。これも多くの人が疑問に思っていたことであり、特に世界中の人たちが不思議に感じていたことを質問した点ではよい質問でした。それに対し、総理は待ってましたとばかりに、自分も疑問に思って聞いたこと、隠していない、と否定したやりとりは意義がありました。3回目は2回目と重なる質問が多くあり、見ている方は少々不満です。新しい情報としてワクチンがあったわけですから、その見通しについての質問があってもよかったのではないでしょうか。

総括すると、これまでの3回の記者会見を見ると、メッセージはよく練られていると感じます。よいブレーンがいるのではないでしょうか。危機時に発信するリーダーのメッセージとしてさらに分析していきたいと思いました。

<参考サイト>
安倍総理大臣記者会見
2020年2月29日
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0229kaiken.html

2020年3月14日
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0314kaiken.html

2020年3月28日
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0327kaiken.html

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