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第49回 緊急事態宣言は伝わったか

4月16日、緊急事態宣言がようやく全国に出されました。新型コロナウィルスについて、2月下旬に政府の方針が発表された際には迅速でしたが、その後、緊急事態宣言出すまでに1か月以上かかり、遅いと感じさせてしまいました。どこに問題があり、どうしたらよかったのかを振り返ります。

常にステークホルダーを意識していたが

クライシスコミュニケーションの初動三原則として私が提唱しているのは、「ステークホルダー」「方針」「ポジションペーパー(見解書)」です。前回のコラムで書いたように、スピーチ原稿は悪くない出来だというのが私の感想です。

4月以降の内容を確認してみましょう。4月7日の緊急事態宣言時のスピーチ原稿には、冒頭は医療従事者への感謝の言葉、そして4月17日にはスーパーの人、配送の人、介護施設や保育所で働く人たち、インフラ系で働く人たちへの感謝の言葉がありました。

「こうした皆さんの存在なくして、私達は長期にわたるこのウイルスとの闘いに打ち勝つことはできません(4月17日冒頭)」。

感染の現状、専門家の見解、連休での移動自粛お願い、世帯への30万給付を一人10万円給付に変更して混乱させたことへの正直なお詫び、中小法人だけでなくフリーランスへの給付、オンライン診療の解禁、診療報酬の改善、そして、「未来は私たちの今の行動にかかっています。医療現場を支えるため、その負担を減らしてください。皆さんの力で未来を変えてください。緊急事態に皆さんのご協力をお願いします。」と締めくくっています。

2月29日も姿勢としては悪くない。反対できない内容です。

「何よりも子供たちの健康、安全を第一に、多くの子供たちや教職員が日常的に長時間集まる、そして、同じ空間を共にすることによる感染リスクに備えなければならない。どうか御理解をいただきますようにお願いいたします。万が一にも、学校において子供たちへの集団感染のような事態を起こしてはならない(2月29日 総理会見冒頭)」

2月25日に政府の基本方針はタイミングは適切であったと思います。このころは国民やメディアに危機感がなかったといえるので、危機感をもってもらうための発信として理解できます。そして、まだ学校で誰も感染していない状況で、3月1日から全国一斉休校の要請。準備がないままの要請は、やや早すぎるとは思いつつも、感染リスクを考えた先手として受け止めることができます。

方針の迷走が不安感を増幅

しかしながら、2月の方針のまま「先手」で行くのかと思っていたところ、だんだんトーンが変わり「広がりの状況に応じて判断をする方針」になりました。2月29日の会見では「専門家の皆様もあと1,2週間という判断をされた。いわば判断に時間をかけているいとまはなかったわけでございます。・・・しかし、それは責任ある立場として判断しなければならなかった」と述べています。ここと比較すると、これは明らかに異なります。それゆえ、ちぐはぐに見えてしまうのです。

振り返ると、2月末の段階ではいきなり一斉休校ではなく、これから起こる危機に対して国民に覚悟を持ってもらうメッセージとし、緊急事態宣言を発出するまで準備期間を例えば2週間置き、ターゲットを仮に3月半ばごろとする。その間にオンライン授業やテレワーク体制を構築する要請にした方がよかったのではないでしょうか。災害時の避難指示もいきなりでは人は動きません。準備アナウンスがあることが望まれます。国民に準備を促し、感染状況をみてからの緊急事態宣言とする状況判断型メッセージならそれはそれで一貫性があります。

一斉休校要請のような強い方針とメッセージとするなら、その後もロックダウンという強い手段にすればわかりやすかったと思います。一番よくないのは一貫性がないことです。専門家の意見を尊重するのはわかりますが、毎回「専門家の提言に従って」の繰り返しでは、頼りなく見えてしまうのです。それが不安を増幅させてしまいました。
まとめると、先手メッセージとするか、状況に応じたメッセージとするのか、方針が変わってしまったことが不安を引き起こしたように感じます。また、専門家の意見を尊重するのはわかりますが、専門家の意見に従うのではなく、トップとしての方針、メッセージをもっと力強く打ち出し、言葉として前面に出す必要があったといえるでしょう。

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