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第56回 危機を広報のチャンスに変えるには~日本学術会議問題から考える

日本学術会議の6人を任命しなかった問題がクローズアップされています。国民の関心ある内容であるかどうかは疑問ではありますが、日本学術会議にとって、これまでスムーズに任命されていた人数が任命されなくなったことは大きな問題であることは確かです。任命のあり方だけではなく、学問の自由のあり方や、税金に使われ方、存在のあり方、大学のあり方にまで議論が広がり、これまで通りにはいかなくなっています。まさに、組織にとっては危機的状況であることは確かでしょう。このようにある日突然危機の渦中に入ってしまった場合、一体どうしたらよいのでしょうか。私は公式見解書を発表することをお勧めしたいと思います。

危機管理広報における初動3原則とは
危機管理広報においては、「初動3原則」を私は提唱しています。その3原則とは、ステークホルダーを把握する、方針を策定する、公式見解書を作成する、です。公式見解書とは、起きた危機を客観的に整理し、この問題にどう向き合っていくのかその姿勢を示す文章です。

組織の存在を危うくする危機が発生した際には、常にこの初動3原則に立ち返ることが重要です。日本学術会議の場合、主要ステークホルダーは内閣府、会員、学者、学会、一般国民になるでしょう。一体何を危機とするか、ですが、今回は推薦した6名が任命されたなったこと、になります。これに対して、どこに何を主張する方針とするかです。これまでのところ、10月3日にホームページに掲載されている「要望書」が唯一の公式見解書になります。しかしながら、要望書の内容は、前置きもなく2項目だけです。

1.2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり、 推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい。
2.2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち、任命されていない方について、速やかに任命していただきたい

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo301-youbou.pdf

この時の要望書は、公式見解書としてもっと厚みのあるものが望まれたのではないでしょうか。私がここの広報担当者であれば、要望だけではなく、これまで日本を代表する学術機関として果たしてきた役割やその実績、105名の推薦理由、特に6名の推薦理由は手厚く記載し、どのような危機感を持ったのかを主張する内容とし、世論を味方につけるために格調高い文章を用意するでしょう。危機はチャンスでもあります。報道で知名度が一気に上がったわけですから、これを活動理解促進のチャンスととらえて広報活動をすることができます。たった2項目だけの要望書ではあまりにももったいない。

公式見解書はミスリードを防ぐ役割
10月1日と16日には、梶田隆章新会長の囲み取材によるコメントは報道されていますが、記者の誘導ばかりが目立ち、本当に言いたいことが言えていないように見えました。10月1日のコメント概要は次の通り。

「突然のことで今日は何も言えない。今日昼すぎに聞いたから整理していない。6名が任命されなかったことは、重要な問題を提起している。だからちゃんと対応していく。会長としての思いですか、、、今用意していないので、科学と社会は距離は狭まっている。外部との対話が重要になってきている。いろいろな方向での対話が重要。軍事研究については、状況が変わらなければ決められたことは踏襲していく。個人の思いだけで言えないこともある。アカデミアと政府の関係はどうゆうのが理想的か。科学が社会に影響を与えている。政府と科学はつながる。科学が政府、生活をつなげていく役割がある」

この時は、突然囲まれて戸惑っていました。積極的に公式見解を述べるための場ではなかったことがコメント内容からもわかります。

10月16日には、菅首相と面談した後に囲み取材を受け「今後の学術会議のあり方を政府と共に未来志向で考えていきたい。発信力が弱かったことを改革していきたいと菅首相に申し上げた」とコメント。広報に力を入れているメッセージは好感が持てます。

当事者による発信こそがミスリードや誤報を防ぎます。日本を代表する学術機関として積極的な発信を期待したいと思います。危機時の公式見解書はあらゆる組織が発信することができますので活用していただきたい。

リスクマネジメントジャーナルでの動画解説「日本学術会議問題とは?」10月14日収録
https://www.youtube.com/watch?v=OX-BI12y-7E&t=422s

<参考サイト>
10月1日 梶田新会長 コメント
https://www.youtube.com/watch?v=fZ0ckg1bQUQ

10月16日 梶田新会長、菅総理と会談後のコメント
https://www.news24.jp/articles/2020/10/16/04742623.html

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