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  1. あの記者会見はこう見えた 石川慶子
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第58回 安倍元総理「サクラ」問題の謝罪会見

12月24日の安倍前総理は、「桜を見る会」前夜祭をめぐる問題で、公設第一秘書が政治資金規正法違反の罪で略式起訴されたことを受けて謝罪会見を開きました。2020年、最後に注目される会見は前総理による謝罪会見となってしまいました。今年は、検察人事への政治介入が社会的注目を浴びたこともあり、考えるべき視点は多くありますが、本コラムでは、いつものように記者会見に焦点を絞って考察します。
質疑応答がわかりにくいのは
本件の概要は、「桜を見る会」前夜祭をめぐる問題です。主催した後援会が政治資金収支報告書に3000万円の懇親会の収支を記載しなかったとして、安倍氏の公設第一秘書が政治資金規正法違反の罪で借式起訴され、罰金100万円の命令。安倍氏本人は嫌疑不十分で不起訴になりました。

わかりにくので少し補足します。前夜祭を開催し、一人5000円の会費であったものの、実際にはもっと多く費用が発生しており、その費用は主催者が負担していた、ということです。それでもピンとこないかもしれません。民間では、きっちり割り勘にするのは無理なので、このように主催者が負担するケースは一般の会社や友人グループでもあるからです。しかしながら、政治家がそれをしてしまうと有権者にお金をばらまいたことになってしまうのです。そこを国会で厳しく追及していたのが、辻元清美議員です。ただ、今回の問題は、「参加者が寄付を受けたと認識している必要があるが、本件では参加者にその認識があるとする証拠がなかった」と東京地検特捜部は説明しています。よって略式起訴なのでしょう。

問題は、収支報告書に記載しなかったこと、国会の答弁で「5000円以上の支出はない」と事実に反する内容で説明したことです。そこで安倍前総理が記者会見を開いて説明をしました。

12月24日18時から約1時間。場所は衆議院第一議員会館内であったと報じされています。主なコメントは次の通りです。
・自らの政治団体「安倍晋三後援会」の去年までの3年分の収支報告書について懇親会の収支を記載するため修正した
・会計処理は、私が知らない中で行われたが、道義的責任を痛感。深く反省し、国民に心からお詫びする
・結果として国会答弁は、事実に反するものがあり、国民の政治への信頼を損なってしまった
・本件責任者の秘書と、略式起訴された公設第一秘書は辞職した
・自らの議員辞職、自民党離党については否定
・初心に立ち返って全力を尽くす

私が着目したのは、タイミング、場所、表情になります。

12月末とは、絶妙なタイミング。これは安倍前総理が作ったタイミングというよりも検察側による配慮なのかもしれないと感じました。年始に引きずらないようにするためでしょうか。

次が場所。今回、平河クラブでの開催でした。記者からも質問がありました。「なぜ、平河クラブなのか。限られた記者だけを呼んでいる。もっと広い場所で多くの記者を呼び、開かれた会見にしなかったのはなぜなのか」。なかなかいい質問です。では、記者を限定するのは悪いことなのでしょうか。主催者は、記者会見に参加できる記者を限定することは可能です。もっともNHKや朝日新聞などの大手メディアの記者を排除してしまうと問題はありますが、メディアや記者の人数を絞るのは構いません。ここはかなり戦略的に行ったといえるでしょう。

内容のコメントだけ取り上げると、わかりにくくありませんが、安倍前総理が質問への回答で話を始めるとわかりにくくて、聞いていてイライラしてきます。一体なぜなのでしょう。

質問への回答は、毎回説明が長く、「あー」「えー」が多いため、とてもわかりにくいと感じました。クライシスコミュニケーションの観点からすると、回答はシンプルな方がよいのです。雄弁だとかえって印象が悪くなったり、新たなリスクを発生させてしまうからです。

安倍前総理は、生まれ持っての華やかさや風格が何よりの魅力です。語るときにも人間としての温かさがあり、人柄のよさ、育ちのよさを感じさせますが、質問への回答の際に崩れてしまいます。その理由は、質問に対してすぐに回答してしまうからだろうと思います。数秒でよいので「間」を置き、説明の言葉も少なくした方がよいでしょう。

そして、表情。眉間に皺を寄せ、眉毛も下がって申し訳ない表情でした。苦笑いや笑顔はなく、表情をよくコントロールしていたといえますが、あまりにも情けない表情なので見ていてかえって不安になります。

目力を使った方がいい。言葉ではなく目の力で相手を説得すると迫力が出てきます。これは小池都知事が参考になります。彼女は目力があります。ここが彼女の強みであり、迫力になっているのです。内容に論理性がない時でも記者が迫力負けしています。

2020年全体を振り返ってみますと、2月の安倍総理による新型コロナの予防として全国一斉に学校の休校要請、4月の緊急事態宣言、8月の総理辞任、そして、12月の謝罪会見。私も安倍総理の記者会見解説に追われた一年でした。

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