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  1. わが国クレジットカードの歩み 風間眞一
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第7回 金融機関のカード展開

【銀行法改正で進む銀行系カードのFC化】
クレジットカード会社が全国で会員・加盟店の獲得にしのぎを削っていた1980年代、カード業界に大きなインパクトを与える出来事が起きた。82年4月に銀行法が改正され、クレジットカード業務が銀行の付随業務として認められたのだ。これにより、銀行が直接カード業務を取り扱える環境が整った。

銀行本体のカード発行が可能になったものの、多くの場合、既存の銀行系カード会社とフランチャイズ(FC)契約を結び、カード子会社を立ち上げる方法が選択された。別会社形態でカード業務を取り扱う方が、何かと制約の多い銀行に比べて自由に事業展開できると判断されたのかもしれない。

すでに住友クレジットサービス(現三井住友カード)が80年5月にビザ・ジャパンを立ち上げ、地方銀行や信用金庫にVISAカードを発行する子会社の設立を積極的に働き掛けていた。その経緯もあり、銀行系カードブランドのFC展開が全国で繰り広げられるようになった。

都銀の寄り合い所帯で設立されていたユニオンクレジット(UC、現UCカード)やJCBも敏感に反応する。母体行がそれぞれカード子会社を作り、FC化に打って出た。例えば、UCでは83年2月に、共同出資していた当時の富士、第一勧業、太陽神戸、埼玉各行が直系のカード会社を発足させ、UCのフランチャイズ会社となった。

JCBでも主力行の三和銀行が83年3月にJCBのFCとして三和カードサービス(現三菱UFJニコス)を立ち上げたほか、大和、協和各行も同年4月に同様のFC会社を設立。一方、三井銀行は同年2月にカード子会社がUCともFC契約を結び、JCBカードとUCカードの並行発行に踏み切った。

【地銀は独自ブランド「バンクカード」発行】
これに対し、地方銀行は全国地方銀行協会が中心となり、83年10月から独自ブランド「地銀バンクカード」を誕生させた。銀行初となるクレジットカードの本体発行であり、1枚のカードにクレジットカードとキャッシュカードの機能を集約したことから、ショッピングやキャッシングに加え、預金の出し入れもできる便利なカードとして注目を集めた。

もっとも、地銀協はローン機能を加えた1枚3役を構想していたが、カードショッピングとローンの一体化は事実上の割賦解禁につながると見なされ、信販業界などが反対し、認められなかった。ローン機能が解禁されるのは2006年のことである。

相互銀行(現第二地方銀行)でも独自カードの発行が検討されたが、こちらはクレジットカード機能が各行の提携カード会社から提供され、それにキャッシュカード機能を乗せて1枚化を図った。これが、83年12月に発行された「相銀ワイドカード」である。このほか、長期信用銀行や信託銀行、信用組合、農業協同組合、労働金庫などでも80年代に次々カード会社が設立された。

さらには郵便局もキャッシュカードとクレジットカードの一枚化を検討。郵便貯金カードの磁気ストライプの予備領域を民間に開放することを決めるが、当時は銀行系と組まず、日本信販(現三菱UFJニコス)を提携先に選び、84年8月から郵貯共用カードの発行に着手した(写真3)。その後、ほかの信販会社や流通系カードとの提携も進むが、07年の郵政民営化に伴う「ゆうちょ銀行」の誕生で新規募集は終了。翌年5月から、JCBや三井住友カードと提携して、新しく「JPBANKカード」の発行が始まり、現在に至る。

一方、証券会社や生・損保会社でも信販会社や銀行系カード会社と組んで提携カードを発行したり、直接カード子会社を設立するなど、さまざまなかたちでカードビジネスに参入する動きが見受けられた。ただし、こうしたさまざまな金融機関のカード発行は先行するカード会社との競争が激しく、カード市場で一定の存在感を示すのは並大抵ではなかった。

【銀行系リボ解禁は日米構造協議が契機】
もとより、銀行系カード会社の悲願は、安定的な収益の確保として期待されるカードの割賦機能(分割払いとリボルビング払い)の取得にあった。

割賦販売法を所管する通商産業省(現経済産業省)は当初、銀行系カード会社に割賦機能を認めると信販会社や中小小売商団体のカード事業が不利になると判断し、なかなか首を縦に振らなかった。そのため、「リボ払いだけでも」と主張する日本クレジットカード協会(JCCA)を尻目に膠着状態が続いた。結局、この問題が打開へと向かうのは89年に始まった「日米構造協議」の場だった。米国側が、消費者の利便性向上と個人消費拡大のため、銀行系カードに割賦機能を付与することを要求したのである。

これをきっかけに、通産省で本格的な議論が開始され、ついに92年6月、銀行系カード会社に対して、リボルビング方式に限って割賦購入あっせん業の登録が認められた。そして3カ月後の9月からJCBがリボルビング業務をスタートさせ、他社も追随した。

この時、信販会社などノンバンクが希望していた銀行のCD・ATMの開放も同時に認められた。また、信販系カードに対する地域制限(注)も30数年ぶりに撤廃され、全国の大型店で分割払いの取り扱いが自由に行えるようになった。

もっとも、銀行系カードのリボルビング払いはその後、思ったほどの成果を上げられなかった。あらかじめ完済月が分かっている分割払いに慣れたわが国の消費者にはなじめず、1回払いの利用が定着した銀行系カードのイメージも簡単には払拭できなかったようだ。

こうしたことから、JCCAは97年2月に通産省にあらためて通常の分割払い(総合割賦)の解禁を求め、ようやく01年7月に銀行系カードに総合割賦の取り扱いが認められた。これにより銀行系カードの支払い回数選択の幅が大きく広がった。

なお、金融機関にリボルビング・総合割賦が解禁されるのは04年4月である。

(注)
百貨店の割賦販売の自粛についての「34年通達」が92年6月に廃止された。
掲載号 / 週刊金融財政事情 2020年3月9日号

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