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第78回 日本語・外来語の意味の使い分けによるリスク対策

一般の会社では課長以上を管理職、という呼称で呼ばれます。ある意味、何人かの部下を束ねて統率し、プロジェクトを廻していく、そんなイメージを持たれるかと思われます。英語では統制・統率のことをGovernanceと言います。事業活動に対して、チームなど複数人数で取り組むにあたって付加価値(バリュー)を産む活動、一方でその活動の傍ら産み出される問題点・課題(リスク)をハンドリングし、経営陣はこれらを大きな枠組みで管理します。ガバナンスの配下にはいくつもの管理するチームがあって、それらが組織図で言われる部であり課である単位となることは容易に想像ができることと思われます。

今回、管理という言葉を一つのキーワードに置きます。同じ管理という単語において、英語では“Controll”、“Management”という二通りの意味が存在します。

“Controll”は人を自分の目的や都合に合わせて、思い通りに制御して動かそうとすることを指します。したがって、人は他人の支配を受けやすく、自発的な行動を産み出せない、指示待ち型人間を産み出す傾向が出てきます。一方、“Management”は、相手の人格・能力を尊重し、その相手が自発的に考えて判断し、動くことをサポートする意味合いになります。すなわち、人の主体性を引き出し、伴走するイメージでしょうか。

現在の管理社会と言われる日本の組織構造は、どちらかというとControll型になっている傾向があります。上司となる人の指示を待つ、いわばその上司の指示通り動くロボット型人間です。そのロボット型人間に少し色気の付いた人はゴマすり能力により、昇進の鑑としての行動パターンとして、社内人脈リレーション作りに奔走することになります。このControll型で接してしまった挙句、それを不快に感じる人はハラスメント行為として表沙汰にし、当局からの数々のお叱りなり罰則が組織に対して科せられるという構図になっています。

そのような背景で、Management型組織へ移行せねばならないという指令の元、人事部、人材開発部関係の職責の人はドラッカーのような教本をバイブルのように読み漁っています。何故このご時世、このような教本が持て囃されるようになってきたか、個人レベルで気づく人は気づいてきていることの証だと考えられます。ただ、Managementスキルは一朝一夕にテクニックとして身に付ければ通用すると捉えてしまうと失敗します。心底Managementスキルを持ち合わせるには、ベースとなる能力は対人能力そのものに他なりません。言い換えるならば人間力です。人に対して敬意を表せるかどうか、リスペクトの精神が問われます。これはスキルではなく素養そのものです。他人が矯正して身に付くようなものではなく、自分自身で気づくことができるかがカギになります。

ここまでの文面からみると、Controllという表現がひどいと捉えられるかもしれません。しかし、使い方によってControllも必要な局面も出てきます。それはリスクという対象に対してコントロールという表現が当てはまります。脅威という事象(地震、パンデミック、台風、相場下落、風評被害、情報漏えい等)そのものを、人や仕組みを通してControllできるかどうかという使い方が適しています。地震の発生そのものは人間の力ではどうしようもできないため、Controllできないという表現になります。一方、地震が来た時、建物が倒れるという驚異に対しては耐震補強をするということで対処(Controll)できます。この対処を推進する、すなわちControllできる脅威への対策活動をManagementする、これがRisk Managementとなります。

我々はRain(雨)の言葉一つとってもにわか雨、小雨、秋雨といったように日本語の方がついつい表現としてのバリエーションが豊かであると捉えがちです。しかし、文化の違いによって日本語の方が意味のバリエーションが少ないケースも多々あります。某市役所の情報企画課長とソリューション紹介等の話をしていた折、次のようなことを言われました。“私は日本語で敢えて表現できることを英語で言う人間は嫌いです‼”と。その時、私は言いました。“ガバナンスという表現を統制と言い換えると課長、あなたは意味を誤解しませんか?”。その課長は言い返せませんでした。

格好良さやインテリであるからと誇示するだけの単純な発想で外来語を使うこととは全く次元が異なります。何事も意味表現を受け入れる姿勢そのもの、そこから掴める本質というものがあります。言語の意味の奥深さ、文化歴史の背景を学ぶことにより得られる知識が見識となり、それらが自分オリジナルのリスク対策を醸成していくことに繋がるのではないでしょうか。

京都府立医科大学特任教授
株式会社シー・クレド代表取締役
乙守 栄一

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