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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第58回 石油業界の動向

産業法務の視点から

平川 博氏

1.石油元売業

(1)寡占化
「おはよう日本」というNHKのニュース番組の中で、2019年3月29日に「石油大手は3社体制に集約」と題する放送では、以下のように報じられました。


出光興産と昭和シェル石油は4月1日、経営統合します。これによって、石油大手は3社体制に集約されることになります。

  • ガソリンスタンド ブランド名はそのまま
    まず、出光興産と昭和シェルの統合後、両社のガソリンスタンドはどうなるでしょうか。現在、出光は全国に約3500か所、昭和シェルは約3000か所あり、このブランドはそのまま残ります。…(中略)…
    ただ、ガソリンの販売シェアには大きな変化が起こります。首位はJXTGエネルギーで52%余り、そして出光と昭和シェルをあわせて31%余りになります。そしてコスモエネルギーホールディングスが10%。石油大手はこの3社体制になり、かつて15社もあった石油元売りがここまで集約されました。
  • 600億円のシナジー効果目指す
    それでは、経営統合によるシナジー効果はあるのでしょうか。出光と昭和シェル石油は、例えば輸送の効率化をねらっています。A社の2つの製油所が遠く離れた場所にあり、B社の製油所が近くにあった場合を考えましょう。A社単独では、大型タンカーで持ってきた原油を、離れて位置するそれぞれの製油所に運ばざるをえません。しかし統合されれば、近くにあるB社の製油所に原油を振り向けることができ、輸送が効率的です。
    また例えば、B社の製油所から離れた場所にB社のガソリンスタンドがあった場合、統合すれば、より近いA社の製油所からガソリンを運ぶことができます。こうした工夫によって、出光と昭和シェルは600億円のシナジー効果を目指しています。
  • 細るガソリン需要
    ただ、業界を取り巻く環境は厳しい状況です。ガソリンの販売量の推移を見てみると、2004年度がピークで、その後は減少傾向。ピークから16%近く減っています。この先も人口減少は続くとみられ、今後もガソリン需要は年に2.3%ずつ減っていく予測もあります。新たな成長戦略が必要です。
  • 海外進出・再エネ 成長分野に力
    国内市場が頭打ちだとすれば、目指すのは海外です。…(中略)…
    そして成長分野としては、再生可能エネルギーもあります。昭和シェルが進めてきたメガソーラーによる発電事業やバイオマス発電、さらに出光が手がける地熱発電など、統合後の会社は幅広い再生可能エネルギーのメニューを持つことになります。…(中略)…
    業界再編の後、ガソリンなどの安定供給という本業の責任を果たすためにも、収益源の多角化が欠かせないということです。

https://www.nhk.or.jp/ohayou/biz/20190329/index.html

(2)外資撤退

このような石油元売業界の再編について, エネルギー産業史研究の第一人者である東京理科大学大学院イノベーション研究科の橘川武郎教授は、以下のように述べています【M&Aonline〉M&A実務「欧米メジャーの日本市場撤退が意味するものとは」】。


「JXホールディングスと東燃ゼネラル石油(現JXTG)」、「昭和シェル石油と出光興産」という組み合わせになったのは、外資である限り外に出ていけないことが最大の理由だ。

「外資」と言うと“国際的”で英語が話せる人がたくさんいるというイメージを持つと思うが、外資の親会社がいるということは、日本の子会社はフランチャイズのようなもの。「君らは日本の事業をやりなさい(他国は他の子会社がやりますよ)」という契約縛りがある。昭和シェルと東燃ゼネラルは明らかに企業文化が近いのだが、この2社が一緒になれないのは両社が外資だからだ。

石油業界の面白いところは、外資系企業は日本国内の事業しかできず、日本企業は海外の仕事ができる、という逆転現象がある点だ。欧米メジャーの資本が抜けたことで、活動エリアの制限が青天井に抜けると言うのが、(外資の親会社を持つ)昭和シェルと東燃ゼネラルがそれぞれこの合併に応じた最大の理由だ。(以上、橘川教授)


https://maonline.jp/articles/energy0620

確かに、いつの間にかモービルやシェルという欧米の石油メジャーの名称がガソリンスタンドの看板から消えて、エネオスとアポロとコスモという民族系石油会社のロゴばかり目につくようになっています。

2.石油販売業

(1)販売方式
石油製品の販売方式を大別すると、石油元売業者から大口需要家に販売される直売方式と、一般消費者向けに販売店を通じて販売される小売方式という2つの類型があります。ここでは小売方式に焦点を絞って考察することにします。

①特約店
石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の「石油・天然ガス資源情報」というサイトの「用語一覧」というカテ中、「特約店」と題するウェブページによれば、特約店には以下のように4つの類型があります。

⑴給油所を中心とする小売中心店
⑵小売販売業者(販売店・副特約店)に対する卸を主体とした卸中心店
⑶卸・小売兼業店
⑷給油所を持たずに灯油・重油などの販売を行っている店
(https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1001289/1001365.html)

これに対して、非特約店に対して石油元売業者の余剰在庫(ガソリン、軽油、灯油、重油)がノーブランドで供給されます。
因みに、石油業界では、特約店に供給されるブランド品を「系列玉」、非特約店に供給されるノーブランド品を「業転玉」と呼んで、区別しています。

②プライベートブランド
「ベストカーWeb」というサイトの「緊急レポート!PBガソリンスタンドの真実」(2014年9月5日掲示)と題するニュース記事では、以下のように記載されています。


毎年ブランドを掲げる元売り系列のガソリンスタンドが急速に減少していく中、PBの実数は横ばいのまま。結果として、PBの存在感が高まり、2012年には28.4%にまでその比率が高まっている。

ひとことでPBというが、大きく3つの流れがある。それは①商社系②JA系③独立系となる。①は丸紅や伊藤忠、三菱商事などが手掛けるスタンドで、②はJA、つまり全農と都道府県単位のJAが展開するガソリンスタンドとなる。③独立系はオートバックスなどカー用品店やイオンなど大手スーパー、ジョイフル本田などホームセンターがやっているスタンドもあれば1店だけでやっているスタンドまでさまざまだ。…(中略)…

PBは「業転玉」を扱っている。


(https://bestcarweb.jp/news/645)

(2)斜陽化

①ガソリンスタンド店舗数の減少
「gogo.gs」というガソリン価格比較サイトで、2019年3月29日に掲示された「ガソリンスタンド店舗数で、平成の30年間を振り返る!——最新版・ガソリンスタンド店舗数推移―」と題する記事では、以下のように記載されています。


■ガソリンスタンドの増減数を、「平成」の30年間に亘って、振り返ってみましょう!!
※1. 参考資料:平成30年 経済産業省 資源エネルギー庁  揮発油販売業者数及び給油所数の推移(登録ベース)
※2. 年度末のガソリンスタンド増減数となります。
※3. 資源エネルギー庁 が発表しているガソリンスタンド数の推移が平成29年度分までなので、平成30年度分に関してはgogo.gsで調べた数値を元に、予測した数値となります。

平成6年度は、ガソリンスタンド数がピークを迎え、60,000店舗を超えました!…(中略)…その翌年から、ガソリンスタンドの店舗数は、減少の一途をだどり始めます。
平成10年4月には、セルフ式ガソリンスタンドが解禁されました。平成10年4月には、セルフ式ガソリンスタンドが解禁されました。…(中略)…この年は、ガソリンスタンド数の減少が、1,819店舗となり、「平成」の中でも2番目に多い減少数となりました。
平成23年2月(平成22年度)には、消防法の改正が施行されました。2年間の猶予期間を経て、平成25年2月より、改正消防法が適用されました。

これは、いわゆる「地下タンク問題」(40年以上前に埋められた燃料用地下タンクは、改修を義務づけられる)です。地下タンクの改修や交換には、多額の費用がかかるため、経営を断念するガソリンスタンドが増えました。
これら以外にも、エコカーの普及や、若者の車離れ・高齢者の免許返納、ガソリンスタンド経営者の高齢化など、様々な要因によって、ガソリンスタンド数は減少しています。


(https://gogo.gs/news/contents/1553825554)

②ガソリンスタンドの経営難
東京商工リサーチHPで本年2月9日に公開された「2018年『ガソリンスタンド』の倒産状況 2018年の倒産件数が2割増、5年ぶりに前年を上回る」と題する記事では、以下のように記載されています。


■2018年の倒産35件、5年ぶりに前年を上回る
2018年(1-12月)のガソリンスタンド倒産は35件(前年比25.0%増、前年28件)で、5年ぶりに前年を上回った
負債総額は63億8,100万円(同53.2%増、同41億6,400万円)と、前年より1.5倍増に膨らんだ。負債10億円以上の大型倒産は1件(前年ゼロ)にとどまるが、同1億円以上5億円未満が16件(前年比100.0%増、前年8件)と2倍増になったことが影響した。

■2018年の「休廃業・解散」も増勢
また、2018年に倒産(法的整理、私的整理)以外で事業活動を停止した、ガソリンスタンドの「休廃業・解散」件数は198件(前年比36.5%増、前年145件)にのぼり、2014年からの最近5年では最多になるなど増勢が目立った。事業不振だけでなく業界の先行きが不透明なことも、事業承継がスムーズに展開できていない要因の一つとみられる。

■原因別、販売不振が最多
倒産の原因別では、「販売不振」が24件(前年比26.3%増、前年19件)と全体の68.5%を占めた。形態別では、破産が30件(同36.3%増、前年22件)で85.7%を占めたのに対して、再建型の民事再生法はなく(前年ゼロ)、経営不振に陥った企業の再建が厳しいことを示した。

■地区別、9地区のうち、8地区で倒産発生
倒産の地区別は、全国9地区のうち、北陸を除く8地区で倒産が発生した。最多は近畿の8件(前年2件)。次いで、関東7件(同4件)、中部7件(同5件)、東北5件(同3件)、九州4件(同7件)、中国2件(同2件)、北海道1件(同1件)、四国1件(同3件)の順。倒産は各地で発生しているが、都道府県別では22都道府県で発生し、最多が大阪の5件(同1件)だった。


(https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190208_03.html)

③ガソリンスタンドの過疎地化
この東京商工リサーチの記事(東京商工リサーチ特別レポート)に関連して、「SankeiBiz」というサイトでは、「ガソリンスタンドが半減 倒産・休業も多発…深刻な『過疎地』問題」(2019.4.5 06:45配信)と題する記事の後半では、以下のように記載されています。


■深刻さ増す「GS過疎地」問題
ガソリンスタンドの減少に歯止めがかからないなか、最近は「ガソリンスタンド過疎地」問題が全国的な課題としてクローズアップされている。生活圏内のガソリンスタンドが減ると、自家用車や農林業用車両への給油だけでなく、寒冷地では生活必需品の灯油供給などの移動手段を持たない高齢者への対応が後手に回り、地方を中心に生活基盤を脅かされる状況が発生している。

資源エネルギー庁は、「ガソリンスタンド過疎地」(正式には「サービスステーション過疎地」)を市町村内のガソリンスタンド数が3カ所以下の自治体としている。2017年度末での、「ガソリンスタンド過疎地」は、全国で312市町村にのぼる。…(中略)…

■自動車離れ、高齢化…地方経済にも影
ガソリンスタンド減少の背景には、少子高齢化、自動車離れだけでなく、地方経済の低迷も影を落としている。停滞する地方から、交通機関が整備されて乗用車保有率の低い都市部に人口が集中し、ますますガソリンの需要低下に拍車がかかっている。
さらに、地方ではガソリンの需要減に加え、給油所経営を担う後継者の人材不足にも直面している。ガソリンスタンド経営者の高齢化も進み、新たな設備投資が必要になった段階で、事業の存廃を決断する悪循環の構図が浮かび上がっている。
人口減少と高齢化の中で、乗用車の保有台数の伸びは次第に頭打ちとなり、いずれは減少すると予想されている。乗用車の減少は、ガソリン需要の低下につながり、需要の頭打ちはインフラとして全国に整備されたガソリン供給網の寸断という問題を投げかけている。


(https://www.sankeibiz.jp/business/news/190325/bsd1903250645001-n1.htm)

3.将来予測

平成30年7月に作成された『石油産業競争力研究会 報告書』の「1.長期的な石油市場の構造変化」では、「(1)今後の国内外の石油市場の動向」という見出しの下に、以下のように記載されています。


我が国の石油製品需要は、省エネの取組やエネルギー代替等を背景に、ピー

ク時の1999年から約3割減少している。今後も更なる省エネの取組や人口減少等によって、石油製品需要の減少傾向は継続する見通しであり、2030年には更に約2割減少することが見込まれている。【引用者註:グラフ省略】

特に、電気自動車をはじめとする次世代自動車の普及拡大に伴い、これまで国内石油需要の中心であったガソリン需要の減少は不可避である。また、電気自動車等の次世代自動車の普及のスピードによっては、ガソリン需要の減少ペースが更に加速する可能性があり、これまでガソリン中心で構成されてきた製油所の装置構成やガソリンを大きな収益源としてきた石油精製元売企業の経営に大きなインパクトを与える可能性がある。【引用者註:グラフ省略】

国内の石油製品需要はガソリン中心に確実に減少するが、軽油などの燃料の国内需要は存在し続ける。したがって、エネルギー安全保障の観点から、引き続き、国内に低廉かつ安定的に燃料供給できるサプライチェーンを維持することが必要である。

供給シナリオとしては、軽油等の国内需要量に合わせた設備構成を維持するシナリオと、ガソリンの国内需要に合わせた設備構成とし、不足する可能性のある軽油は輸入するシナリオが考えられる。製品輸入に平時から頼らない前者のシナリオの方が、有事においても、国内に蔵置する原油備蓄を精製することにより安定供給を確保できることから、エネルギー安全保障上は、現時点では望ましいと考えられる。いずれにせよ、資源が乏しい我が国においては、国内に一定程度の石油精製能力を維持することが必要である。ただし、前者のシナリオにおいては、ガソリン留分の余剰が発生する可能性があり、石油化学シフトやガソリンの輸出競争力が確保されなければならない。


(https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180711001_1.pdf)

4.結語

我が国は石油の輸入依存率がほぼ100%であり、安定供給という面でリスクが高い上、環境汚染という重大な社会問題を起こしています。少子高齢化の影響で石油製品の国内需要は自ずと減少することが予測されていますが、産官学が連携して、環境にやさしい代替エネルギーへの移行を推進することが望まれます。

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