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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第62回 家族関係の崩壊

産業法務の視点から

平川 博氏

1. はじめに

人間社会の最小構成単位は家族であり、家族は同一の住居で一緒に生活(一言で言えば「同居」)します。家族という集団と住居という空間(通常は「家」という建物)を総称して、「家庭」といいます。

因みに、「我が家」という言葉には広狭があって、狭義では自分の家という建物を指しますが、広義では自分の家庭という意味で用いられます。いずれにしても、家族は「我が家」を拠点として、日常生活を送ります。

ところで、新しい家庭は、結婚によって築かれ、出産によって家族が増えます。それと並行して、高齢者が傷病や寿命により死亡することによって、世代交代が行われます。

これは人間に限らず、両性生殖をする動植物すべてに共通することですが、わが国では世代交代が遅れて、少子高齢化現象が加速度的に進んでいます。その主たる要因は、家族関係の崩壊であり、その背景には日本人の家族観や人生観の変化があるように見受けられます。

2.独身の増加

成人の独身は大別すると、将来的に結婚する気がある未婚と、結婚する気がない非婚という2つの類型があります。これは必ずしも固定的なものではありません。それと言うのも、人の気持ちは状況により変化することがあり、いつかは結婚しようと思っている内に婚期を逃す人もいれば、素敵な異性と出会った途端に気が変わって結婚する人もいます。要するに、結婚は相手があることなので、自分一人の気持ちだけでは決められないのです。

(1)未婚率の上昇
内閣府HPの「未婚化の進行」と題するウェブページでは、「年齢別(5歳階級)別未婚率の推移」という見出しの下に、以下のように記載されています。


2015(平成27)年は、例えば、30~34歳では、男性はおよそ2人に1人(47.1%)、女性はおよそ3人に1人(34.6%)が未婚であり、35~39歳では、男性はおよそ3人に1人(35.0%)、女性はおよそ4人に1人(23.9%)が未婚となっている。長期的にみると未婚率は上昇傾向が続いているが、男性の30~34歳、35~39歳、女性の30~34歳においては、前回調査(2010(平成22)年国勢調査)からおおむね横ばいとなっている。


https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/data/mikonritsu.html

(2)晩婚化の進行
生命保険文化センターHPの「晩婚化が進んでいるのはなぜ?」と題するウェブページでは、「25歳以上では『相手がいない』のが大きな理由」という見出しの下に、以下のように記載されています。


晩婚化が進んでいる日本ですが、それではなぜ結婚しない人が増えているのでしょうか?
国立社会保障・人口問題研究所が18~34歳の独身者に「独身にとどまっている理由」を聞いたところ、18~24歳の若い年齢層では「まだ若すぎる」「仕事(学業)にうちこみたい」「まだ必要性を感じない」など、「結婚しない」理由が多く選ばれています。
25~34歳の層では「適当な相手にめぐり会わない」という理由が最も多くなっています。ただ、この年齢に至っても「まだ必要性を感じない」や「自由さや気楽さを失いたくない」という理由も多く、とくに「自由さや気楽さを失いたくない」は、若い年齢層よりも多く選ばれています。

18~24歳【年齢階層別にみた独身にとどまっている理由(複数回答[3つまで])】

25~34歳<国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」/2015年>


(http://www.jili.or.jp/lifeplan/lifeevent/mariage/13.html)

3.婚姻関係の破綻

(1)別居
「離婚弁護士相談リンク」というサイトの「夫婦が別居するさまざまな事情|ケース別の別居方法や対策を紹介」(2019.07.19公開[2019.07.22更新])と題するウェブページでは、「別居と離婚の関係は?」という見出しの下に、以下のように記載されています。


別居した夫婦のうちどれくらいが離婚にいたるのかというデータは不明ですが、厚生労働省のデータでは、離婚全体のうち、別居期間が1年未満のケースは8割を超えています。
別居婚は離婚を前提としていませんが、離婚の可能性がないわけではありません。
夫婦はお互い助け合い、違いを受け入れ合うことで1つの家族の形を作っていきます。そのため、別居婚は相手との摩擦が少ないという一方、受け入れ合う機会も少ないので、嫌になったらあっさり別れを切り出される可能性もあります。
また、別居していると相手が浮気していても気が付きにくく、離婚の際に不利になることもあります。


https://rikonbengoshi-link.com/column/basic/00195/

(2)離婚原因

弁護士法人プラム綜合法律事務所の梅澤康二弁護士が執筆した「【2019年最新版】離婚原因ランキングトップ10」と題する記事(「離婚弁護士ナビ」[2019.6.7掲示])では、「離婚原因ランキング1位は性格の不一致|では2位は?」という見出しの下に、下表のように記載されています。

  男性 女性 件数

(男性)

件数

(女性)

1位 性格が合わない 性格が合わない 11,030 18,846
2位 精神的に虐待する 生活費を渡さない 3,626 13,820
3位 その他 精神的に虐待する 3,545 12,093
4位 異性関係 暴力を振るう 2,547 10,311
5位 家族親族と折り合いが悪い 異性関係 2,463 7,987
6位 性的不調和 その他 2,316 5,173
7位 浪費する 浪費する 2,218 5,000
8位 同居に応じない 家庭を捨てて省みない 1,569 3,946
9位 暴力を振るう 性的不調和 1,500 3,500
10 家庭を捨てて省みない 家族親族と折り合いが悪い 1,011 3,254

【参考】裁判所|平成29年 司法統計19  婚姻関係事件数  申立ての動機別申立人別  全家庭裁判所

だだし、これは、調停を申立てた申立人の動機を主なもの3つを挙げる方法で調査集計したものです。


(https://ricon-pro.com/columns/10/)

4.家庭崩壊

(1)テレビの功罪

各家庭にテレビが普及した1960(昭和35)年頃から、お茶の間に家族が集まって1台のテレビを観ることが、一般的な日常生活となりました。たちまちテレビが娯楽の主役となり、午後7時から午後10時はゴールデンタイムと呼ばれ、一家団欒の時間帯となりました。特に冬は1台のこたつに家族全員が足を突っ込んで、体を寄せ合って暖をとりました。このように、テレビは家族の一体感を培う機能を果たしてきました。

ところが、1985(昭和60)年頃から、ビデオデッキが普及して、都合の良い時に見たい番組を録画で観ることができるようになり、ゴールデンタイムの拘束から解放されました。家計が豊かな家庭では、1世帯に複数のテレビがあり、チャンネル争いが無くなると同時に、家族が分散して観るようになりました。

そして21世紀に入ると、インターネットが普及し、情報源がテレビからパソコンにシフトしています。

今やテレビ離れが進むに連れて、家族の分散も進んでいます。

(2)ライフスタイルの変化

家族のライフスタイルも変貌を遂げ、家族が全員そろって食事をする機会が減っています。子どもが成長すると、子供部屋にいる時間が長くなり、塾通いで家庭にいる時間が短くなっています。

また、「リセマム(ReseMom)」というサイトの「父親が平日に子どもと過ごす時間、日本が最短…4か国調査」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。


ベネッセ教育総合研究所は2018年8月1日、日本・中国・インドネシア・フィンランドの4か国を対象とした「幼児期の家庭教育国際調査」の結果を発表した。父親が平日、子どもと一緒に過ごす時間は、日本の父親が4か国中でもっとも短いことが明らかになった。…(中略)…

父親の帰宅時間について、日本は「午後7時台」から「午後10時~深夜12時台」に分散し、中国は「午後6時台」、インドネシアは「午後7時台」、フィンランドは「午後4時台」がピーク。午後8時台以降の比率は「日本」が61.5%ともっとも高く、「インドネシア」26.9%、「中国」22.9%、「フィンランド」5.5%。日本の父親の帰宅時間は、他国に比べて顕著に遅いことが明らかになった。

父親が平日、子どもと一緒に過ごす時間は、日本の父親がもっとも短く、「2時間未満」が59.1%と過半数を占めた。帰宅時間が午後9時台以降の日本の父親の60.5%は、子どもと過ごす時間が「1時間未満」だった。父親が休日、子どもと一緒に過ごす時間が10時間以上(睡眠時間を除く)の割合は、「フィンランド」が56.6%ともっとも高く、「日本」51.2%、「インドネシア」46.8%、「中国」45.4%が続いた。

日本の父親が育児の中で「週3日以上」行うのは、「外遊び」16.1%、「室内遊び」33.7%、「寝かしつけ」31.2%。子どもとの遊びの頻度は、4か国の中で日本がもっとも低い。


(https://resemom.jp/article/2018/08/01/46007.html)

(3)児童虐待の増加

産経新聞ニュース速報の「児童虐待、過去最多の15万9000件、28年連続で増加」(2019.8.1 15:23配信)と題する記事では、以下のように報じられています。


全国の児童相談所(児相)が平成30年度に対応した児童虐待の件数は15万9850件(速報値)で、前年度より2万6072件(19.5%)増え、過去最多を更新したことが1日、厚生労働省のまとめで分かった。調査を開始した2年度から28年連続で増加。29年度中に虐待で死亡した子供が65人いたとの死亡事例(心中の13人含む)の検証結果も公表された。

来年4月には、親による子供への体罰を禁止する改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が施行される。厚労省の担当者は「痛ましい事件が続き、国民の児童虐待に関する意識が高まっており、警察などからの通告も増加している。児童虐待防止対策の強化を着実に実施し、子供の命を守る社会づくりを進めていきたい」としている。

全国210カ所の児相に寄せられた通報や相談、警察からの通告のうち、児相が虐待の疑いが強いと判断し、親への指導や施設入所などの対応を取ったケースを集計した。

内容別では「面前DV」や他のきょうだいと差別的扱いをするなど心理的虐待が8万8389件(前年度比1万6192件増)と最多で、全体の55%を占めた。次いで身体的虐待が4万256件(同7033件増)、ネグレクト(育児放棄)が2万9474件(同2653件増)。性的虐待も1731件(同194件増)あった。

都道府県別では大阪が2万694件(同2282件増)で最多。神奈川1万7272件(同3344件増)、東京1万6967件(同3260件増)と続き、最少は鳥取の80件(同4件増)。児相に寄せられる情報は警察からの通告が7万9150件で最も多く、全体の50%を占めた。虐待児童本人からは1414件で全体の1%だった。


(https://www.sankei.com/affairs/news/190801/afr1908010014-n1.html)

5.結語

建物としての我が家は、経済成長のお陰で、便利で快適な空間となっているのに対して、少子高齢化減少が進むにつれて、家族という集団としての我が家は、分散して崩壊する様相を呈しています。物質的には豊かになっても、精神的に貧困になれば、社会は殺伐とした雰囲気に包まれ、治安が悪化します。建物としても集団としても、我が家が最も居心地が良いと、誰もが思えるような社会の実現に向けて、産官学が連携して、福祉や教育や労働を始め、家庭生活に大きな影響を及ぼす様々な制度の改革に取り組むことが望まれます。

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