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第69回新旧「南南葛藤」に苦しむ韓国・文在寅政権

リスク政策

千葉科学大学危機管理学部危機管理システム学科 五十嵐信彦 著

韓国の文在寅<ムン・ジェイン「>政権が国内分裂に苦しんでいる。国民の支持をつなぎとめるため当分の間、内政に力を注ぐとみられ、北朝鮮政策や改善が望まれて久しい日韓関係に手を付けられない状況が続きそうだ。危機やリスクを回避するためには確実な情報収集と早期の対策実行が不可欠なのは、国際情勢においても変わりはない。特に東アジアの国際情勢安定に不可欠な対北朝鮮政策の確立や日韓関係改善は韓国にとって極めて重大事項のはずである。本稿では文在寅政権の対外政策を阻害する新旧2つの国内対立要因「南南葛藤」と「新南南葛藤」について解説し、その問題が解決可能かを展望する。

◇南南葛藤◇

韓国政治の宿命といわれる「地域感情」を基盤に生まれたのが「保守」対「進歩」の対立である。
韓国では1970年代から韓国南東部・慶尚道を支持基盤とし保守的な政治思想で国家をリードした朴正熙<パク・チョンヒ>(1917~79年、第5~9代大統領)、韓国南西部・全羅道を支持基盤とし、革新的な政策実行を主張する金大中<キム・デジュン>(1924~2009年、第15代大統領)の政争が繰り返された。
先に政権を握った朴正熙大統領は、開発独裁の手法で慶尚道に国家資源を集中し、韓国の経済発展を実現していった。一方、政治権力と発展から取り残された全羅道は、保守政権に反発する進歩派の牙城となり、「地域感情」は「地域対立」に発展していった。
両派を代表する朴正熙と金大中の相違は、国内政治ではなく、むしろ対北朝鮮政策に色濃く現れた。次章でその相違は詳述するが、北朝鮮を敵視する保守派と、対話・交流の対象とする進歩派の間で激しい政争が繰り返され、保守派対進歩派の激しい政争は、朝鮮半島を分断する「南北対立」になぞらえて、南側の韓国内での対立であるという意味から「南南対立」と呼ばれるようになった。

<保守派の主張>
①北朝鮮は「敵対勢力」であり、韓国側からの一方的な働きかけはしない。
②米国との強い協力関係を保ち、共同で朝鮮半島情勢をコントロールする
③「韓国」の国益優先で対外政策を実行する
<進歩派の主張>
①北朝鮮との和解・協力推進を積極的に実現する
②米国と一定の距離を保ち朝鮮半島情勢における「主導権」を持つ
③韓国1国の利益ではなく、北朝鮮を含む同一民族による共同体の建設を目指す

双方の主張の最大の違いは北朝鮮を「国家」あるいはそれに準じた体制であることを認めるかどうかにある。保守派は、北朝鮮は朝鮮戦争(1950~53年)で戦火を交えた相手であり、その後も休戦状態が続いていることから、北朝鮮を倒すべき「敵対勢力」であると規定する。そのために米国との軍事同盟(米韓安保同盟)を軸に軍事的対立を続けていくことを対北朝鮮政策の前提とした。この思想は1972年10月27日の「維新クーデター」によって確立された「維新体制」<大澤注:韓国第四共和国憲法の下、朴正煕が築き上げた独裁体制を指す>で権力を強化した朴正煕による韓国独自の核兵器開発構想にもつながり、米国の反対で頓挫したものの、保守派政権の誕生時は一般的に南北間の緊張は高まった。
一方、進歩派は北朝鮮を交渉対象とみなし、和解・協力推進を最優先に北朝鮮政策を確立した。最初の進歩派政権となった金大中政権(1998~2003年)は「交流・協力」で関係改善を図り、平和共存を確かなものとし、やがては北朝鮮の改革・開放につなげようという「包括的アプローチ」を実践した。その政策は2000年の初の南北首脳会談として実を結んだ。だが対米関係においては、金大中政権を引き継いだ進歩派の盧武鉉政権(2003~08年)が「北朝鮮との協力を重視した平和繁栄政策の修正を最小限にとどめつつ韓国の地位向上を目指す対米政策を進めている」「米国が対北朝鮮政策を修正することさえ要求している」「韓国軍への戦時作戦統制権の移管を韓国の主権を取り戻す問題として位置付けた」<防衛研究所の研究資料より抜粋>と評価される対外路線を打ち出した。米韓関係を維持しつつ、従来の完全な米国への「従属」ではなく、米国を南北関係改善の仲介者として利用し、南北が主役となって朝鮮半島情勢の安定を築こうとしたのである。
対北朝鮮政策の相違は常に韓国においては「保守派」「進歩派」間の争点となり、韓国政治の歴史を作ってきた。特に保守から進歩、進歩から保守への政権交代期の選挙では、北朝鮮問題は大きな争点となった。

◇南南葛藤激化の聴講◇

ここで2017年5月に実施された韓国大統領選を振り返ってみよう。

選挙は朴槿恵大統領の弾劾で予定より7カ月早く実施された。主な立候補者は前記表に並んだ5人だった。選挙は進歩派の文在寅候補の圧勝で終わった。しかも1987年の大統領直接選挙制度導入後、最大の票差での勝利であった。

文在寅政権は李明博政権、朴槿恵政権の両保守派政権がとった対北朝鮮政策を一変させた。李明博<イ・ミョンバク>政権は非核化を前提とする「共存共栄」を掲げ、北朝鮮住民の所得向上を盛り込んだ「非核・開放・3000構想」を示した。朴槿恵<パク・クネ>政権も基本的にこの姿勢を踏襲したうえで①堅固な安保を通じ、北朝鮮の核を許さない②北朝鮮の挑発には断固として対応する③南北間の対話と交流ㆍ協力を通じて信頼を築く④韓半島に持続可能な平和を定着させ、平和統一の基盤を構築する――と主張した。
しかし、「所得向上」や「核廃棄」を前面に出した政策は北朝鮮の強い不信感を呼び起こした。文在寅政権は「進歩派政権」として初めて、政権発足直後の北朝鮮接触に失敗した。

それにも関わらず、文在寅大統領2017年7月、訪問先のドイツで演説し「韓半島の緊張を緩和するためには、南北対話が再開されなければならない。環境が整い、韓半島の緊張や対立局面を転換させるきっかけがあれば、いつでも、どこででも、北韓の金正恩<キム・ジョンウン>労働党委員長と会う用意がある。そこで、核問題や平和協定などあらゆる懸案を議論できる」との新ベルリン宣言を発表した。北朝鮮は対話に応じるとの見方が有力だった。しかし、金大中、盧武鉉政権時代とは決定的に異なる条件が文在寅政権の思惑を潰えさせた。核・ミサイル開発がほぼ完成段階に入った北朝鮮は対話の相手として韓国ではなく、米国を対話のテーブルに引きずり出し、核保有国として遇し、対話をするよう求めた。すでに韓国は蚊帳の外にいた。窮地に追い込まれた文在寅政権は大きな政策転換を迫られた。2017年11月の米トランプ大統領の訪韓時の首脳会談で韓国側は「(北朝鮮に)核・ミサイル開発放棄を迫るため『最大限の制裁と圧力』を加え続けることで一致」との結果を公表した。対話から圧力への大きな方針転換であった。

対北政策での「後退」が目立ち始めると同時に、朴槿恵大統領罷免以来、鳴りを潜めていた保守派の文在寅政権批判が高潮し始めた。大統領だけでなく、朴政権の幹部だった人物が次々と逮捕される事態を保守派メディアは「積年の恨みを晴らす政権の意図が働いた」と報じた。さらに文在寅大統領が公約に掲げた「非正規従業員をゼロにする」「高齢者福祉の充実」「教育無償化」などの政策に対しては「国家財政の破綻を招く」と批判した。文在寅政権の政策全般にわたる保守派の攻撃は、新政権の閣僚人事を簡単に許さない動きとなって現れ、「南南葛藤」は久しぶりに韓国政治を席巻することになった。

◇新「南南葛藤」◇

南南葛藤の激化は、大統領選終了直後からある程度予想できた。しかし事態はより複雑な動きを示した。それが新「南南葛藤」の発生だ。その特徴は進歩派政権の支持層による政権批判の拡大にある。
盧武鉉政権で外交・安保政策を主導した元老級の進歩派知識人は、新ベルリン宣言の対話呼びかけ失敗と、今年相次いだ北朝鮮による核実験、ミサイル発射以降の韓国政権の対北朝鮮政策を「米国従属」「主導権喪失」と批判した。進歩派のある長官経験者は「文在寅政権は今からでも深刻な北朝鮮の核ミサイル問題において韓国が果たすべき役割を重視して、米国追随の制裁便乗から抜け出し、主導的・創意的外交に向かい険しい道を進まねばならない」と訴えた。一方、青瓦台で外交安保の実務を担当する中堅・若手は「北朝鮮は対話を求めても応じないが、今後、中国の対北朝鮮圧力は強まる。米国と共に北朝鮮に対する最大の圧力をかけ続ければ、やがて中国が動く。その時、韓国が独自の対北朝鮮政策を実施する空間が生まれる」と批判の声に反発した。
肝心の文在寅大統領は、元老たちと青瓦台スタッフのどちらの意見を支持するか態度表明はせず、あるときは強硬、あるときは柔軟姿勢と両面を使い分けてきた。今、態度を明確にして政権支持基盤が分裂することになれば、保守派の攻撃は一層勢いを増し、政権運営が困難になりかねない。文在寅大統領は、このような不安定な状況の上で困難な国家運営を強いられているのである。

◇日韓関係の「時限爆弾」◇

日本に住む我々にとって最重要視すべきは日韓関係改善である。改善しなければ対北朝鮮政策で十分な協調をとることさえ危うくなる。文在寅大統領が就任直後に示した、歴史問題と日韓友好を切り離して協議する「2トラック」外交はまだ成果をあげていない。

韓国国内の保守派と進歩派の対立(南南葛藤)、そして進歩派内の対立(新南南葛藤)を文在寅政権が早期に克服し、日韓関係改善のための十分なリーダーシップを発揮する必要がある。両国間には、いつ爆発するかもしれない「時限爆弾」が埋め込まれているからだ。韓国政治が膠着状況の中、慰安婦合意の経過を検証する韓国政府のタスクフォースチームが結論を出せば「再協議」の場合は日本側が、「受け入れ」の場合は韓国側が、それぞれ強く反発を示すことになる。さらに、これまで高等裁判所で争われてきた徴用工問題について近く大法院判決が出される見通しだ。大法院判決が出れば、韓国国内にある日本企業の資産没収などを求めるメディア報道や市民の主張が提起され、日本側の反発は外交レベルから経済レベルまで拡大する恐れがある。

そのような最悪の状況(危機)を避けるため、日本側の外交努力とともに、文在寅大統領は日韓間に山積する課題を早期に解決する必要がある。文在寅政権が現在の国内対立と混乱をどのように管理・解消(または緩和)し、大統領としてのリーダーシップをどのように発揮していくのか。そこに激動の東アジア情勢安定の相当部分がかかっている。(了)

参考資料・文献
・朝鮮日報、中央日報、東亜日報各紙の2017年5月10日付け、大統領選結果報道紙面
・韓国中央選挙管理委員会H.P. 統合資料室
検索2017年11月27日 http://www.nec.go.kr/portal/main.do
・財団法人・世宗研究所H.P. 世宗論評、情勢と政策
検索2017年11月25日 http://www.sejong.org/
・毎日新聞2017年10月5日付朝刊
歴史問題「管理する」日韓関係改善に意欲 金顕哲 韓国大統領府経済補佐官インタビュー
検索2017年11月2日
https://mainichi.jp/articles/20171005/ddm/007/030/049000c

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