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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第40回野菜の品薄

1.野菜の品薄

(1)報道記事
【一昨年】葉物野菜、降雪で品薄観測 ホウレンソウ卸値が大幅高

【日経新聞電子版[2016/1/18 23:08配信]】
東京など全国で18日に降雪があったため、生鮮食品の卸売市場でホウレンソウなど葉物野菜を中心に品薄観測が高まっている。東京・大田市場で取引される商品はこの時期、関東産の露地栽培が主体だ。今後の入荷減を見越して18日のホウレンソウ卸値は大幅高となった。
(https://www.nikkei.com/article/DGXLZO96258570Y6A110C1QM8000/)

【今年】
①野菜高騰、厳しい食卓…3月まで影響続く見通

【神戸新聞/ひょうご経済プラス[2018.01.16配信]】
昨年10月の台風や長雨、同11月中旬以降の低温で全国の産地が影響を受けた。農林水産省によると、この時期から植え付けるハクサイやキャベツ、レタス、ダイコンの4品目がいずれも小ぶりで、高騰が目立つ。2月には落ち着きそうだが、ハクサイは供給不足が続き、値下がりの見通しが立たない状況という。
卸売業の神果神戸青果(神戸市兵庫区)によると、今月5~13日の平均価格(1キロ当たり)は、ハクサイが前年同期比2倍の180円、キャベツが同2.1倍の190円、レタスが同1.8倍の380円、ダイコンが同2.2倍の190円-だった。
(https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/201801/0010900479.shtml)

②野菜の高値いつまで続く? 白菜2倍、レタス1.9倍 天候不順で育成不良

【佐賀新聞LIVE[2017/1/17 9:07配信]】
昨年秋以降の天候不順で野菜が品薄になり、葉物を中心に高値が続いている。佐賀青果市場(佐賀市)では、白菜1玉の平均卸価格が前年同期に比べ2倍の300~400円、レタスは1.9倍の170~180円に上がっている。・・・(中略)・・・
長崎や熊本県などの生産地で天候不順による野菜の生育不良が続き、同市場では昨年11月半ばから集荷量が減少。昨年は例年より安かったとはいえ、ホウレンソウや春菊の卸価格も1・6~2倍程度で推移している。
(http://www.saga-s.co.jp/articles/gallery/170375)

③キャベツ、白菜1玉300円…野菜高騰、和歌山でも

【産経WEST[2018.1.23 08:20配信]】
昨年の台風や長雨、寒波の影響で品薄状態となっている野菜の価格高騰が、和歌山県内でも続いている。 …(中略)…
和歌山市中央卸売市場によると、今月(20日現在)の主な野菜の1キロあたりの平均卸売価格は大根222円(前年同月比129円増)▽キャベツ243円(同127円増)▽ホウレンソウ954円(同426円増)▽レタス561円(同318円増)-と、どれも昨年の2倍前後の価格となっている。異常な高騰に、県内の農産物直売店やスーパーは悲痛な叫びを上げている。和歌山市内の農産物直売店では主にキャベツや白菜などが高騰。キャベツは小玉でも200円以上、大玉になると300円台と例年の約2倍に価格が跳ね上がっている。白菜も1玉300円ほどで、例年の約1.5倍の価格だという。 …(中略)…
同市内の大型スーパーでも高騰の影響は色濃い。一時期に比べ値上がりのピークは脱したものの、白菜やキャベツ、大根などの価格は昨年の約2倍にまで上昇している。
(http://www.sankei.com/west/news/180123/wst1801230025-n1.html)

野菜高騰に悲鳴 品薄で価格は例年の3倍前後
生産者も消費者も深刻

【石巻日日新聞[1月29日(月)15時05分配信]】
数年に一度といわれる強い寒気が、市民生活を直撃している。なかでも農作物の生育や収穫への影響は大きく、価格の高騰が続く。石巻地方では秋の台風による生育不良から始まり、年末ごろは低温からキャベツやネギ、大根などが品薄状態。そこに今回の大寒波で現在は通常の2-3倍近くの値で推移している。…(中略)…
㈱石巻青果=東松島市赤井=によると、野菜の値段は昨年11月ごろから徐々に上昇し始めた。千葉県や神奈川県が主産地となるキャベツなどは昨秋の台風で収穫量が減少。茨城県などが産地の白菜も寒気が流れ込んで低温が続いたことで収穫量や品質に影を落としているという。
全体の入荷量は昨年の7割程度まで落ち込んでいる。1月の野菜全体の平均単価は25日までで314円に達し、昨年よりも50円以上高い。低温の影響で野菜は生育不良となっており、さらに先週は積雪や連日の真冬日で土壌が凍り収穫できない状態が続いている。…(中略)…
今年の寒さは石巻地方の生産者も直撃している。道の駅上品の郷=石巻市小船越=の農産物直売所「ひたかみ」では、店頭に並ぶ野菜が昨年の半分ほどにまで減り、いつもは夕方まである商品が午前中にはほとんどなくなってしまっている。
(https://hibishinbun.com/news/?a=8667)

(2)産地リレーの構想と現実
農林水産省が本年2月に作成した「野菜をめぐる情勢」と題する小冊子の「5.野菜の生産動向④」(5頁)によれば、「我が国では、長い日本列島をうまく使って、産地リレーにより、季節によって産地を切り替えながら、野菜の安定供給を行っている」ことになっています。その一例として、キャベツの産地リレーに関して、以下のように記載されています。

○ キャベツの産地リレー(関東消費地向けのイメージ)
キャベツの場合、
・春は、都市近郊の関東平野部
・夏から秋は、冷涼な関東高冷地
・冬は、温暖な愛知県
が主産地であり、産地が切り替わりながら消費地に出荷。

ところが、東京青果㈱HPで掲示されている「野菜展望」(2018年2月)では、キャベツについて、以下のように記載されています。

(https://www.tokyo-seika.co.jp/common/pdf/tenbo/yasaitenbo.pdf)
このように、農作物の収穫は天候によって大きな影響を受けるので、必ずしも産地リレーの構想通りに事が運ぶとは限りません。近年は異常気象が続いているので、農業が直面する現実は厳しさを増しています。

2.業界紙記事

【日本農業新聞(2018年2月4日配信)】

悪天候に基盤弱体化 野菜高騰 異例の長期化 5年平均の3割以上
出荷量伸び悩み 所得減の農家も
野菜の高騰が長期化している。日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)はここ2カ月間、過去5年平均(平年)を3割以上高く推移する異例の展開。秋の長雨や台風被害が主因だが、生産基盤の弱体化も背景にある。降雪も生育���不安定にさせている。…(中略)…
今シーズンの秋冬野菜は当初、10月後半まで豊作で安値だった。一転したのは11月。長雨で畑が浸水したり、台風の塩害で枯れたりし不作となり、市場の入荷量が急減した。葉茎菜類を中心に値上がりが続き、年末の最需要期となる12月下旬には、東京都中央卸売市場大田市場でレタス1ケース(10キロ)が1万円の大台を13年ぶりに突破。年明け後は全般にやや下げたが、それでも異例の高値が続く。1月下旬の日農平均価格を見ると、ハクサイが1キロ127円と平年の2.2倍、ダイコンが1キロ123円で1.7倍と露地物で高値が目立ち、全体の相場を押し上げた。卸売会社は「不作に加えて、年内に出荷が前進した反動もあり、絶対量不足が深刻になっている」と説明する。
一方で、出回りが増えないのは生産基盤の弱体化も背景にある。レタスやブロッコリーを生産する西日本のJAは「高齢化で労働力が足りず、生育の回復に欠かせないトンネル被覆などの対策が進んでいない」と説明。北関東のJAは「葉物野菜はまき直しが必要だったが、十分にできなかった」と打ち明ける。
出荷量が伸び悩む産地は、生産者の手取り減を訴える。JA全農いばらきは「出荷量が例年の半分程度の農家がいる。いくら相場が高くても、収入を確保できない」と危機感を募らせる。
小売価格も高値が続く。農水省が野菜5品目の小売価格を定点調査(全国470店舗)している食品価格動向調査によると、直近1月第4週のハクサイの小売価格は1キロ353円と平年の2.3倍。ダイコンやキャベツ、レタスも軒並み2倍近い高値を付け、トマトも平年を上回る。
(https://www.agrinews.co.jp/p43190.html)

3.野菜の生産動向

農林水産省が平成30年2月に作成した「野菜をめぐる情勢」と題する文書では、野菜の生産動向について、以下のように記載されています。【図表は省略】

■野菜の生産動向①(産出額)
○野菜の産出額は2兆3,916億円であり、我が国の農業産出額全体の3割程度を占めている。
また、野菜のうちトマト、いちご等の10品目で、野菜の産出額全体の6割程度を占めている。
■野菜の生産動向②(作付面積、生産量、販売農家数)
○平成28年の作付面積は約41万ha、生産量は約1,163万トンであり、近年横ばい傾向。
○近年、農業従事者の減少や高齢化が進行。
■野菜の生産動向③
○野菜は、比較的カロリーが低く、カロリーベースでの食料自給率への寄与は小さいものの、国民の健康の維持増進や農業振興の上で重要。
○野菜の作付面積を地域別にみると、北海道、関東、九州で全体の約7割を占めている。
■野菜の生産動向④
○我が国では、長い日本列島をうまく使って、産地リレーにより、季節によって産地を切り替えながら、野菜の安定供給を行っている。
■野菜の生産動向⑤
○販売農家のうち、野菜部門における主業農家の割合は、戸数ベースでは37%。一方、金額(農業粗収益)ベースでは76%。
○野菜は機械化が遅れており、特に収穫、調製・出荷に労働時間を要している。
○一方、新規就農者のうち、主として野菜に取り組む戸数の割合は66%と高い。
■野菜の生産動向⑥
○野菜作経営は、全国平均でみると経営規模が小さいが、主産地では規模が大きく、農業所得も高くなっている。
○野菜の卸売価格に占める流通経費をみると、流通経費(選別・荷造労働費、包装・荷造材料費及び出荷運送費)が占める割合が大きい。
■野菜の生産動向⑦
○オランダの施設園芸を日本型にアレンジした高収益型施設園芸のモデルとして全国10箇所に、「次世代施設園芸拠点」を整備。
○ 次世代施設園芸拠点では、①高度な環境制御技術の導入による生産性向上、②地域エネルギーの活用による化石燃料依存からの脱却、③温室の大規模化や生産から出荷までの施設の集積を行うことにより、所得の向上と雇用の創出が期待。

4.結語

我が国は食料自給率の低迷が続いている上、近年は異常気象が相次いで起きているために、農作物(特に野菜)の品薄という事態が頻繁に発生しています。更に少子高齢化が進んでいるために、農業従事者や農地の減少に歯止めがかかりません。この重大な危機を乗り越えるには、長期的展望に立って、将来の農業担い手を育成することが必要です。現状では、先ず小中学校の理科や社会の授業で農業に関する知識を教わりますが、農業という仕事の面白さや楽しさを体験を通じて実感することはありません。動物と同様に、植物も育てるのに苦労しますが、それが報われることに大きな喜びが感じられるものです。このような観点から義務教育の間に、実践的な農業教育を通じて、農業に対する関心を高めることが望まれます。
また、中学校の進路指導で、通常は成績順に普通高校、工業高校、商業高校、農業高校または水産高校という序列に従って、志望校が割り振られます。高校の進路指導も同様で、理系の場合、医学部、理学部、工学部、薬学部、農学部または水産学部という序列になっています。このように中学・高校の進路指導は、いずれも学力偏重の入試を反映しています。これは重大な制度的欠陥であり、寧ろ生徒一人ひとりの適性に応じた進路指導を行うことが望まれます。
実際に農業高校や農学部の授業は、普通高校の授業と違って、極めて実践的であり、頭脳だけでなく、身体も自ずと鍛えられます。
このように、小学校から大学に至るまで、実践的な農業教育の普及を図り、次世代を担う青少年に、農業という社会的に極めて重要な仕事に従事したいという夢と希望を抱かせるような教育改革を提言します。

筆者:平川博氏プロフィール

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