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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第53回 荒廃農地の増加と対策

産業法務の視点から

平川 博氏

1.現状

農林水産省が平成30年12月27日に公表した「平成29年の荒廃農地面積について」と題するプレスリリースには、以下のように記載されています。


1.背景
農林水産省は、我が国の食料自給率の向上を図るためには、優良農地の確保と担い手への農地集積・集約化が重要であるとし、食料・農業・農村基本計画(平成27年3月31日閣議決定)に基づいて、荒廃農地の再生利用に向けた施策を推進しています。
当該施策の推進に当たっては、荒廃農地の状況把握が必要不可欠であることから、「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査要領」(19農振第2125号農林水産省農村振興局長通知)に基づき、市町村及び農業委員会が現地調査等を実施し、荒廃農地の面積等を公表することとしています。
2.概要
平成29年1月から12月の間に実施した平成29年の荒廃農地面積については、全国で約28.3万haとなりました。
このうち、「再生利用が可能な荒廃農地」は約9.2万ha(農用地区域では約5.6万ha)、「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地」は約19.0万ha(農用地区域では約7.7万ha)となりました。


(http://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/kouhyo30.pdf)

2.統計資料

農林水産省の「農地に関する統計」と題するウェブページでは、荒廃農地の推移について、下表が掲記されています。


単位:万ha
平成24年 25年 26年 27年 28年
荒廃農地 27.2 27.3 27.6 28.4 28.1
うち再生利用可能 14.7 13.8 13.2 12.4 9.8
資料:荒廃農地の発生・解消状況に関する調査(農林水産省農村振興局)


(http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/10.html)

このように、荒廃農地は年々増加するのに対して、再生利用可能な土地は減少を続けています。そして再生利用可能な土地が6年前は半数以上であったのに、2年前は3分の1を下回っています。
因みに、農林水産省が平成29年7月に作成した「荒廃農地の現状と対策について」と題する文書では、以下のように記載されています。


■農地面積の推移
①我が国の農地⾯積は、昭和37年〜平成28年の55年間に、約108万haが農⽤地開発や⼲拓等で拡張された⼀⽅、⼯場⽤地や道路、宅地等への転⽤や耕作放棄等により270万haがかい廃されたため、609万haから447万haへと減少。
②国際的な⾷料事情が⼀層不安定化する中、国内農業⽣産の基礎となる農地の確保が喫緊の課題。
■農地面積の減少要因
①農地⾯積の減少要因として⼤半を占める耕作放棄と⾮農業⽤途への転⽤⾯積は、平成14年に約3万ha、その後、約2万ha程度で推移ないし減少傾向にあったものの、平成25年から増加に転じている。
なお、平成23年の⾃然災害は、東⽇本⼤震災によるものである。
②今後、優良農地の確保と有効利⽤を進めるためには、農地転⽤制度等の適切な運⽤を図るとともに、荒廃農地の発⽣抑制・再⽣利⽤を着実に推進する必要がある。


(http://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-4.pdf)

3.法制度上の問題点

「不動産売却の教科書」というサイトの「耕作放棄地とは何か?耕作放棄地の現状や対策等について徹底解説」(投稿日:2018年6月7日)と題するウェブページでは、「3.耕作放棄地と農地法」及び「4.都市計画法の弊害」という見出しの下に、以下のように記載されています。


農地法では、農地を農地として売るにも許可が必要であり、やたらと売ることができません。農地として売れば、農地は減らないはずですが、農業のやる気のない人に売ってしまうと、収穫量も減る可能性があるため、結果的に農地を減らす可能性があります。そのため、農地は農地として売ろうとしても、やたらと売却できず、農業委員会の許可が必要となります。この許可については、農地法第3条に書かれているため、「3条許可」と呼ばれています。…(中略)…
農地を農地以外、つまり建物を建てるための宅地とすることを「転用」と呼びます。農地を宅地へと転用すれば、農地が減るため、当然に規制の対象となるわけです。…(中略)…農地の転用に関しては、「所有者が自分で行う」場合と、「買った人が行う」場合の2つがあります。それぞれについて、都道府県知事の許可が必要になります。「所有者が自分で行う」場合の許可は、農地法第4条に書かれているため、「4条許可」と呼ばれています。「買った人が行う」場合の許可は、農地法第5条に書かれているため、「5条許可」と呼ばれています。…(中略)…
現在、農業は就労人口が減っているため、3条許可を取得して買ってくれる人もいません。さらに4条許可や5条許可によって転用もしにくいということであれば、そのまま放置するしかないのです。つまり、結果的に耕作放棄地にせざるを得ないということになります。農地法は、本来、農地を守るための法律ですが、規制でガチガチなっているため、逆に耕作放棄地を増やす原因にもなっています。…(中略)…
耕作放棄地を増やした原因には、都市計画法も関連してきます。都市計画法の中では、「市街化を抑制すべき区域」として、市街化調整区域と言うエリアが定められています。…(中略)…市街化調整区域内に農地があると、そこは都市計画法によって建物が建てられないため、農地の転用の可能性が絶望的になります。…(中略)…つまり、農地法の5条許可の可能性が都市計画法によって無くなります。
市街化調整区域内の農地は、転用の可能性が低いため、農地を手放したい人は農地として売買するしかありません。農業をやりたいという人は少ないため、農地はなかなか売れないということになります。つまり、都市計画法によっても、農地は放置せざるを得ず、結果的に耕作放棄地となってしまうのです。
農地は、色々な法律によってがんじがらめになっています。固く締めすぎて、その悲鳴の表れが耕作放棄地と言えるのです。


(https://realestate-sale.link/kousaku-houkichi/)
このような状況を打開するために、土地の有効利用という観点から、農地法と都市計画法を改正して、がんじがらめの農地の転用規制を緩和することも考えられますが、その場合は農地の減少に伴い、農産物の生産量も減少することになるので、人類の生存に必要不可欠な食糧危機を招くことになりかねません。ただでさえ減少している農地を、これ以上減少させるべきではないでしょう。

4.農林水産省の取組み

(1)再生利用交付金制度の変遷
①耕作放棄地再生利用交付金
平成21年度予算で「耕作放棄地再生利用緊急対策」として耕作放棄地再生利用交付金の制度が創設されました。この制度は、国から交付された再生利用交付金を基に都道府県協議会で再生利用基金を造成し、当該基金から、地域協議会を通じて、再生利用に取り組む農業者等に再生利用交付金を交付するもので、平成30年度が最終年度となります。

②荒廃農地等利活用促進交付金
平成27年3月31日に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」で、「農業者等が行う荒廃農地を再生利用する取組を推進するとともに、再生利用可能な荒廃農地の農地中間管理機構への利用権設定を進めることにより、荒廃農地の発生防止と解消に努める」と明記されたことを受けて、平成29年度予算から荒廃農地等利活用促進交付金が制度化されています。農林水産省HPの「予算、決算、財務書類等」というカテ中、「平成30年度農林水産予算概算決定の概要」の「IV.平成30年度農林水産予算概算決定の主要事項」の内、「64 荒廃農地等利活用促進交付金」と題するウェブページでは、以下のように記載されています。


■対策のポイント
荒廃農地等を引き受けて営農を再開する農業者や農地中間管理機構等が行う再生作業、土壌改良、営農定着、加工・販売の試行、施設等整備を総合的に支援します。 <背景/課題>
・我が国農業の競争力を強化し、持続可能なものとするためには、食料の安定供給にとって不可欠であり、農業生産の基盤である農地の確保及び有効利用を図っていくことが重要です。
・このため、農業者、農業者が組織する団体、参入企業等の担い手や農地中間管理機構等が行う荒廃農地等を再生利用する取組を支援し、荒廃農地の発生防止と解消を図ります。
■政策目標
平成37年までに農用地区域において、4.5万haの荒廃農地を再生 <主な内容>
1.荒廃農地の再生利用及び発生防止活動への支援
(1)1号遊休農地(荒廃農地<A分類>)※1の再生作業(雑木の除去等)、土壌改良(肥料の投入等)、営農定着(再生農地への作物の導入等)、経営展開(加工品試作及び試験販売の取組等)を支援します。
(2)2号遊休農地※2から1号遊休農地への悪化を防止するために必要な整地等の低コスト整備の取組を支援します。
(3)中山間地農業ルネッサンス事業の「地域別農業振興計画」に基づき、新規就農者等を後押しするため、再生した荒廃農地等を活用した栽培技術の指導や利用権の移転等の取組を担い手と新規就農者等が二人三脚となって行う場合には、優先枠(チャレンジ支援枠)を設けて支援します。
※1 「1号遊休農地(荒廃農地<A分類>)」とは、農地法第32条第1項第1号に規定する農地で、再生作業の実施によって耕作が可能となる荒廃農地(市町村等が実施する荒廃農地調査においてA分類に区分された農地のこと。なお、これとは別に再生利用が困難と見込まれる荒廃農地<B分類>がある)。
※2 「2号遊休農地」とは、農地法第32条第1項第2号に規定する農地で、周辺の地域における農地の利用の程度と比較して著しく劣っている農地。

2.施設等の整備への支援
荒廃農地の再生利用・発生防止に必要な基盤整備(暗きょ、農道の整備等)や農業用機械・施設(収穫機、ビニールハウス等)、農業体験施設(市民農園等)等の整備を支援します。
3.附帯事業への支援
都道府県・市町村が行う農地利用調整等の取組を支援します。


(http://www.maff.go.jp/j/budget/attach/pdf/171222_2-64.pdf)
この制度は、「平成37年までに農用地区域において、4.5万haの荒廃農地を再生」という目標に照らして、平成37年まで存続することが期待されるところですが、平成31年度では予算化されていません。この点について、農林水産省の担当部門に電話で問い合わせたところ、平成30年度限りで終了するとのことです。応対した担当者の説明によれば、荒廃農地対策を止めるわけではなく、今後は総合的な農政の一環として農地の再生や有効利用に取り組むとのことです。それは建前であって、荒廃農地対策に特化して交付金を支給しても、荒廃農地の増加を抑止する効果が上がらないというのが本音ではないかと思われます。
(2)農業経営の法人化
農林水産省が推進している農業経営の法人化について、平成27年5月26日に公表された「平成26年度 食料・農業・農村白書」の「第1部 食料・農業・農村の動向」「第2章 強い農業の創造に向けた取組」「第1節 農業の構造改革の推進」では、「(3)担い手の動向」(102頁以下)という見出しの下に、以下のように記載されています。


(集落営農の法人化の進展)
集落営農は、集落を単位として農作業に関する一定の取決めの下、地域ぐるみで農作業の共同化や機械の共同利用を行うことにより、経営の効率化を目指す取組です。農業従事者の高齢化や担い手不足が進行している地域において、農業、農村を維持する上で有な形態として全国的に展開しています。
平成27(2015)年の集落営農数は、任意組織1万1,230、法人組織3,622の合計1万4,852となりました。また、法人組織は増加傾向にあり、集落営農全体に占める法人の割合も上昇しています。
集落営農は、地域の農業、農村を維持、発展させていくための重要な担い手であることから、将来にわたって安定的に運営できるように、任意組織としての集落営農を法人化に向けた準備・調整プロセスと考え、一定の期間後、法人化を促していくことが重要となっています。

(法人経営体の増大)
法人経営体数は増加傾向で推移しており、平成26(2014)年の法人数は1万5,300法人で平成12(2000)年の約3倍になりました。組織形態別にみると、株式会社等の会社の占める割合が高く、次いで農事組合法人の占める割合が高くなっています。…(中略)…
農業経営の法人化は、経営管理能力の向上、対外信用力の向上、幅広い人材の確保と雇用による就農機会の拡大、農業従事者の福利厚生の充実、経営継承の円滑化等の面でメリットがあり、今後とも法人経営体を育成していくことが重要です。
また、法人経営体が更に経営力を強化していくためには、産業界・経済界と連携し、その先端技術やノウハウを導入していくことが重要です。そこで、農林水産省では、平成26(2014)年度から意欲ある担い手と先端技術を有する経済界の企業等が連携して行う、
先端モデル農業の確立に向けた取組を推進しています。この中では、農業法人と企業が連携してICT1を活用した経営管理を確立する取組や、地域特性を考慮した農業用気象予報システムを開発する取組等が行われています。


(http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/pdf/z_1_2_1.pdf)

(3)就農促進
農林水産省が平成30年6月19日に開催した「全国キャリア・就職ガイダンス」で用いた「農業を職業選択肢のひとつに!」と題する説明資料の「就農につなげる一体的な取組-平成30年度より実施- ~農業を知る・体験する・相談する」という見出しの下に、以下のように記載されています。


・「農業=きつい、汚い、稼げない」というイメージが定着した間案であり、農業の魅力が伝わっていない。
・他産業以上の所得を稼ぐ農業経営者の存在、安定した条件で働ける農業法人等、若者を惹きつける魅力ある農業の姿を紹介するとともに、体験事業や相談事業との連携を図り、スムーズに就職できる環境を創出。
■魅力ある農業経営体を“見える化”するとともに、人材の掘起こしから就農までのステップを一体的に実施!
【STEP1】職業としての農業を知る機会の創出
ブロック・全国段階、地域段階での就農意欲の喚起に向けた取組を実施。
①ブロック・全国段階
ブロックや全国を代表する魅力的な農業経営者が参画するワークショップやシンポジウムの開催等
②地域段階(各県段階)
地域教育現場における若手農業者の出前授業等
【STEP2】農業現場を体験する機会の提供
全国の受入農業法人等による農業インターンシップを通じて、農業適性の見極めや収納につながる効果的な農業体験を実施。
【STEP3】農業への就活の支援
全国・都道府県に設置する就農相談窓口における専門員による相談活動や収納相談会の開催を通じた就活支援等を実施。


(https://www.jasso.go.jp/gakusei/career/event/guidance/__icsFiles/afieldfile/2018/07/27/05_h30guidance_nousuisyou.pdf)
農業が職業として魅力のあるものにする試みは、大学・短期大学・高等専門学校卒業予定者を対象とする「全国キャリア・就職ガイダンス」に限らず、中学生や高校生の進路指導でも実施することが望まれます。

5.結語

農業が畜水産業と共に人類の生存に不可欠な食糧生産の供給源であるにも拘らず、就活ランキングを見ると、サービス業(特に金融やIT関連、運輸)が上位を占めています。このように、農業に職業として魅力を感じる青少年が少ない上に、農業従事者が高齢化していることから、廃業農家と荒廃農地の増加という現象が起きています。このような状況を打開するための抜本的な対策として、中学・高校における物理・化学偏重の理科教育を改め、農畜水産業に関連する生物学に力を入れること、そして小学校でも、校庭に田畑や菜園を設け、種まきから収穫に至るまで、農作業の体験学習を行うことが望まれます。

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