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  1. 産業法務の視点から 平川博
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第55回 深刻なプラスチックごみ問題

産業法務の視点から

平川 博氏

1.問題提起

「よしだ教室」という小中学生専門学習塾教師のよしだ先生が開設している「よしだ教室 授業ダイアリー」というブログサイトの「プラスチックによる海洋汚染(1)新たな地球環境問題」(2016-08-01 08:51:02投稿)と題する記事では、以下のように記載されています。


■60年代に浮上した生物被害
左の写真はミズウオ。駿河湾などの深海に生息する魚です。1964年、多くのミズウオが、プラスチック片を飲み込んでいると、報告されました。ミズウオは、深海性の魚です。海底に沈んだプラスチックを餌と間違えて飲み込んだものと考えられています。

そして、この頃から、世界中で、プラスチックによる生物被害が報告され始めたのです。それは、「プラスチック」が大量に生産され、使用される時代の幕開けでもありました。

■今日のプラスチック海洋汚染
国連環境計画(UNEP)によると、海洋に流出するプラスチックの量は年々増加。プラスチックを飲み込んだことが原因で、毎年100万羽以上の海鳥と10万頭以上の海洋哺乳類が死んでいると報告されています。このまま海洋に流出するプラスチックが増え続けると、2050年には、なんと、海に流出するプラスチックの量が、海に生息している魚の量を上回るという予測もされています。

しかし、問題は、流出するプラスチックの量だけではありません。 食物連鎖を通して、海洋生態系に恐ろしい影響を与えているのではないか、と危惧されているプラスチックがあります。それが、マイクロプラスチック。直5㎜以下の微細なプラスチックです。…(中略)…そんなに小さなプラスチックが、どうして海洋生態系の脅威となっているのでしょう?

プラスチックは分解しませんから、小魚がそれを多量に食べれば、消化不良で死んでしまうことも考えられます。しかし、ことは、それに留まりません。

海に流出したマイクロプラスチックには、海中の有害化学物質を吸着する性質があるからです。プラスチックは、油に溶けやすい化学物質であれば、何でも吸着します。有害化学物質を吸着したマイクロプラスチックは、プランクトンも体内に取り込むことができます。プランクトンを小魚が食べ、その小魚を次の魚が食べ、食物連鎖によって濃縮された有害物質は、海洋生態系に影響を与え、更には人間にも影響を与えかねないと危惧されているのです。

また、プラスチックは、海底に堆積している「過去の有害物質」を、再び海中に呼び戻す役割もします。例えば、海底には、半世紀も前に使われていたPCBのような有害物質も堆積しています。プラスチックが、1回海底まで沈み、海底で「眠っていた」PCBを吸着して、再び、海の表面まで復活させるというようなことも起こるのです。

人類が地球環境に与えている負荷には、計り知れないものがあります。地球環境は、一端破壊されてしまうと、元に戻すことが難しい課題です。


https://ameblo.jp/educa-zidoubungaku/entry-12186137198.html

2.2050年の予測

もう3年も経ちますが、「IRORIO(イロリオ)」というニュースサイトの「2050年には海のプラスチックごみが魚の量を超える:世界経済フォーラム発表」(Posted:01/20/2016 06:00pm[Updated:01/20/2016 06:00pm])と題する記事では、以下のように報じられています。


■増加し続けるプラスチック素材
比較的安価で加工のしやすいプラスチックは、世界で最も多く利用されている素材のひとつだ。
過去50年でプラスチック素材の利用は20倍に急増し、【今後20年で現在の2倍に増えるだろう】と世界経済フォーラムはレポートしている。
プラスチックが最も多く利用されているのは、商品を包む袋や箱といった商品パッケージだ。

■約3分の1が自然の中に捨てられている
世界経済フォーラムはレポートの中で、「世界的に見ると、プラスチックのパッケージの約3分の1が、リサイクルやごみ収集のシステムから外れており、自然の中に廃棄されている」と報告している。

■海に毎年800万トン
現在、海に廃棄されるプラスチックごみは毎年800万トン。「1分ごとにトラック1台分のプラスチックを海に捨てるのと同じ」であるとのこと。
このままだとどうなるか? 2030年には「1分間にトラック2台分」となり、2050年には「1分間にトラック4台分」を捨て続ける計算になる。
現在、海洋には1億5,000万トンのプラスチックごみがあると考えられており、そこから予測すると、2050年の海のプラスチックゴミは(重量で比較して)、海に住む魚より多くなる。


https://irorio.jp/sophokles/20160120/295499/

3.対策

(1)脱プラスチック
プラごみ問題の対策の一環として始まった脱プラスチックの動向について、マスコミでは以下のように報じられえています。

①スタバやマクドナルドも…。なぜ、世界で脱プラスチック製ストローの動きが起きている?
【FNNPRIME/めざましテレビ[2018年7月11午後0:05配信]】


年間10億本以上のストローを使用しているアメリカのコーヒーチェーン大手【スターバックス】は9日、2020年までに日本を含む全世界2万8000以上の店舗で、環境の保全を目的に、プラスチック製ストローの提供をやめると発表した。
こうした中、日本の一部店舗で試験的に導入が始まっているのが、透明のフタに三角の穴が開いている、ストローがなくても飲めるという特製の容器。
こういったプラスチック製のストローをやめる動きは、スターバックスだけでなく、先月にはアメリカのマクドナルドもイギリスとアイルランドの全店舗、約1400店舗で、2018年9月から段階的にプラスチック製のストローをやめると発表した。


https://www.fnn.jp/posts/00335410HDK

②脱プラの波、ストローから買い物袋へ H&Mや良品計画
【日本経済新聞 電子版[2018/11/14 2:00配信]】


ストローから始まった企業の脱プラスチックの取り組みが買い物袋に広がり始めた。衣料品世界大手のヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)は13日、日本で買い物袋を紙製に切り替え、有料にすると発表した。良品計画も来春開店する「無印良品」で紙製を使う。環境問題などへの対応を重視する「ESG投資」に加え、消費者の意識も変わりつつあるためだ。…(中略)…

日本企業の脱プラの動きはこれまで外食店でのストローが中心だった。ただ、消費者から出る年400万トンの廃プラスチックのうちストローはごくわずか。買い物袋やスーパーなどで使うレジ袋の方が圧倒的に量が多いため、H&Mなどの取り組みが定着すれば脱プラの実効性が上がる。


https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37705610T11C18A1TJ3000/

(2)規制
「プラスチックの海」というサイトの「プラスチックごみを減らすための世界の動向」(018/03/18掲示[2019/02/24更新]]と題する記事では、「発生源をコントロールする取り組み」という見出しの下に、以下のように記載されています。


スリランカでは,島で一番大きなごみ処理場でゴミが崩れ32人が亡くなるという痛ましい事故をうけ,プラスチック製の袋,コップ,お皿の販売を禁止しました(Phys.org 2017).

スリランカの最大都市であるコロンボでは,道路側溝にプラスチックごみが詰まっていたことが原因で鉄砲水が発生していました.

インドのニューデリーでは,違法にプラスチックごみが燃やされ大気汚染がひどくなり,プラスチック製の食器や袋などを禁止しました(Independent 2017).…(中略)…

ポルトガルでは,食料品店などで無料提供していたプラスチック袋に課税をしたことで,プラスチック袋の消費量を74%も減少させることに成功しました.しかし,いままで無料でもらっていたプラスチックの袋が家庭のごみ袋として使われなくなったため,代わりに(スーパーで別途購入した)プラスチック製の”本当の”ごみ袋の消費量が12%も増加してしまいました(Martinho et al. 2017).…(中略)…

アメリカでは,国家レベルでプラスチック製のマイクロビーズの禁止を定めました.2017年の7月からマイクロビーズ入りのケア商品の生産が禁止・終了し,2018年7月から商品の販売も終了します(U.S. Food & Drug).…(中略)…

アメリカの州や地域レベルではすでにいくつも取り組みが進んでいます.例えば,シアトルとワシントンでは2018年7月以降,レストランやカフェ等で使い捨てプラスチックが原則禁止になりました(Seattle Public Utilities)


https://marineplastic.net/responses/national_strategies

4.海洋に遺棄されるプラ製漁具

同サイトの「漁業から発生する海洋ごみ−急増するゴーストネット」(2017/09/30掲示[2019/02/17更新]]と題する記事では、以下のように記載されています。


■漁業から発生する海洋ごみは10%

養殖業と趣味の釣りも含めると,漁業から発生するごみの量は海洋ごみ全体のおよそ10%と推定されています(Macfadyen et al. 2009, Green Alliance).
ただし場所によって大きく異なります.…中略)…外洋では,海洋ごみの50-90%がゴーストネットの場合もあります(Hammer et al. 2012).

■急増するゴーストネット
過去数十年の間に漁業や漁場がますます広がり,それに伴いゴーストネットも急増しています.
世界でゴーストネットが最悪レベルで発生している場所は,オーストラリアの北に位置するアラフラ海やティモール海です(Wilcox et al. 2013)..…中略)…ここでは違法操業を含む漁船から漁網が大量に投棄・紛失されています(Wilcox et al. 2013).
そのため北オーストラリアの沿岸は,世界でも最もゴーストネットが多い場所の1つとなっており,その量は1キロメートルあたりに年間3トンにおよびます(Wilcox et al. 2013).
そして年間1万4千匹以上のウミガメの死因になっています(Wilcox et al. 2013).

■漁具のほとんどはプラスチック製
漁業で使われるほとんど全ての漁網,ロープ,あるいは釣り糸は,プラスチックでできています.
常識的に考えて海中で微生物に分解されることはありません.そのためゴーストネットは,運良くヒトに見つかって回収されない限り,半永久的に海中に残ることになります.
すでに海洋哺乳類,海鳥,ウミガメ,魚類など200種を超える海洋動物がゴーストネットをはじめとする海洋ごみに絡まっています(Kühn et al. 2015).


https://marineplastic.net/source/fishing_industry

5.結語

プラスチックは形状も硬軟も自由自在で、軽くて衛生的であり、電気絶縁性や耐水性に優れていることから、従来は木や竹、紙、ガラス、粘土、金属、セメント等で作られていた製品の大部分がプラスチック製に代わっています。その反面、大量のごみ発生源となり、自然環境(特に海洋)汚染は深刻化しています。国際的に産官学が連携して、脱プラスチックとプラごみの回収に取り組むことが急務であると思われます。

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