あの記者会見はこう見えた!
~クライシスコミュニケーションの視点から~
2018年3月17日、フェイスブック5000万人分のユーザー情報がデータ解説企業Cambridge Analytica(CA)で不正利用されていたことがメディアで一斉に報道されました。4日後の3月21日、米Facebook代表のマーク・ザッカーバーグは自分のフェイスブックでこのことに触れて今後の対策についてコメントしましたが、謝罪がなかったとして批判をされました。「われわれは過ちを犯した。さらにやるべきことがあり、改善する必要があるのでそれを実行する」といった内容で、事の経緯と今後の対策のみであったからです。その批判を受け止めたのか、同日中に米CNNのインタビュー番組に出演し、「これはユーザーの信頼に背くことであり、このようなことが起きたことを本当に申し訳ないと思っている」と謝罪しました。
日本における個人情報流出事件で大きなインパクトを残したのは、2014年に起きたベネッセでの個人情報流出事件であろうと思います。子供の情報であったこと、件数が2000万件以上と数が多かったからです。その時の初期対応、公式見解書、記者会見は参考になる部分が多いので詳しく振り返ります。
推定原因まで書ければ収束に向かう
事実が公表されたのは、2014年7月9日の記者会見でした。説明資料の中で着目したのは、原因についての説明文です。「グループ社員以外の内部者による関与を推定している」と記載されていた点です。一般的には、「原因は調査中」と記載しますが、ここでは「推定」を記載していたため踏み込んだ内容となっていると感じました。
説明責任を果たす観点からすると原因については「推定」であっても明らかにされる方が収束は早くなります。あらゆる原因について推測して不備を認識し、再発防止策を立てなければリカバリーはできないからです。原因に推定まで記載することについては事前に大議論があったのではないかと思います。ここで明らかにしておくべきことは、「憶測」と「推測」は異なることを肝に銘じる必要があります。「憶測」は根拠がない、一方「推測」は根拠があります。7月17日にはグループ会社元社員が逮捕され、ベネッセが再度記者会見を行っていることから情報を持ち出した犯人は特定できていたということになります。根拠があるからこその記載であったと見えます。
謝罪ではストライプを避ける
報道陣からの質問対応力を観察してみます。社長がメディアトレーニングを受けていると感じたのは、「警察での捜査をしている最中で言えないのだが、今言えることは・・・・」としたコメントです。一般的には「警察の調査が入っているから何も言えない」の一点張りになってしまいがちだからです。「・・・・なので言えないが、今言えることは」とコメントすることで説明しようとする姿勢を表現することができます。そこには新しい情報が入っていなくてもいいのです。何とか説明しようとする姿勢が好感をもたれるのです。
7月9日の会見で惜しいと感じたのは、原田泳幸社長のストライプのネクタイ。ストライブタイプは派手な印象を与えてしまうので謝罪会見には不適切です。おそらくそのことを誰かに指摘されたのでしょう。7月17日の記者会見ではダークなネクタイに改善されていました。服装については本人が無自覚なことも多いかもしれません。広報担当者が最終的な見え方をチェックして会見の場に送り出すことができれば、スポークスパーソンはより一層内容に集中することができるでしょう。
<参考データ>
IT media http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1803/22/news057.html
ベネッセ個人情報流出事件(ウィキペディア)
ベネッセコーポレーション、2014年7月9日ウェブ掲載発表資料
日経新聞「ベネッセHD、顧客情報漏洩2070万件」
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDZ09082_Z00C14A7000000/
著者:石川慶子氏
有限会社シン 取締役社長 日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事 公共コミュニケーション学会 理事 日本広報学会 理事 公式ページ:http://ishikawakeiko.net/ 詳しいプロフィールはこちら |