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第28回 東京医大学 2トップはなぜ早々に辞職したのだろうか

あの記者会見はこう見えた!

石川 慶子氏

2018年7月4日、文科省の佐野太科学技術・学術政策局長が逮捕されました。東京医科大の私大研究ブランディング事業選定の見返りに息子の同大学での入学試験点数加算による合格させてもらったことが汚職に当たるとされたからです。2日後の7月6日、東京医科大学は、常務理事が記者会見を開き、理事長と学長の2トップが辞職したことを発表しました。あまりにも早い辞職に正直驚いていました。通常はなかなか簡単には辞めないからです。その理由を25日の報道から推測してみました。

ブランド事業をめぐってブランド失墜

各種報道から、改めてこの事件を時系列に振り返ってみましょう。

2016年11月22日 私大研究ブランディング事業において東京医科大は落選
2017年3月28日 新年度の同事業の申請方法が発表
2017年5月10日頃 白井理事長が佐野局長に同事業申請での便宜を依頼
佐野局長は見返りに息子の同大学の入学を依頼
2017年11月7日 東京医科大学は事業の選定を受ける
2018年2月 佐野局長の息子が東京医大を受験して合格(加点操作)、4月に入学
2018年7月4日 佐野局長を逮捕
2018年7月6日 東京医科大の臼井理事長と鈴木学長が辞職
2018年7月24日 佐野前局長を起訴、東京医科大の理事長と学長は在宅起訴

こうしみると、皮肉なことにブラディング事業でブランドを失墜させてしまっています。広報の観点からすると何が大学のブランドなのかを明確にして申請していなかったことが問題であったといえます。便宜を依頼する前に大学ブランドとは何かを徹底的に考える必要があったのではないでしょうか。そうすれば便宜を依頼することも考えないでしょうし、不正入学にも手を染めることもなかっただろうと思います。

それはさておき、今回私が着目したのは情報発信の観点です。

  • 不正入学にしては報道が大きいのではないか、検察が何かを発信したいメッセージがあるのではないか?
  • 大学2トップがすぐに辞職しているのは事前シナリオがあったのでは?
  • 文科省佐野氏が逮捕と起訴、大学の理事長と学長は在宅起訴となった、この違いの理由は?

このようなことをつらつらと考えました。

検察の戦略的広報、「司法取引」の認知獲得か

―――6月には他人の犯罪の解明に協力する見返りに刑事処分を軽くする日本版「司法取引」も始まり、7月に海外賄賂事件の適用例が出た。今回の事件では司法取引は行われていない。しかし、特捜部はこの捜査手法も念頭に捜査協力の姿勢に応じて逮捕の有無などの対応を分けたとみられる。(中略)刑事事件以外では、公正取引委員会に入札談合やカルテルを自主申告した企業に課徴金を減免する制度も2006年に導入され、一定の成果を上げている―――(2018年7月25日日経新聞)

この文面で検察からの戦略的広報を垣間見ることができました。三菱日立パワーシステムズの海外賄賂での司法取引は、当然私も着目していましたが、どうも社員に責任転嫁する運用リスクも感じられしっくりときませんでした。この件の報道を見ているといずれも同じような懸念のコメントがありました。しかし、今回の事例であれば、文科省と大学の癒着ですから、先に告発した方が減免されるというのは非常にわかりやすい。これなら内部告発は促進されるのではないかと思いました。そして、この一見息子を不正入学させるという地味な事件が大々的に、何度も報道されたのは、日本版司法取引の認知を促進しようとする検察側からの仕掛けゆえだろうと見えたのです。そして、そのシナリオの中での展開が大学の2トップの迅速辞職。告発だけでなく、すぐに反省して辞職する、これにより大学の理事長と学長は在宅起訴で軽くする。常務理事が2トップいない中、記者会見をするという選択も勇気ある選択で通常はなかなかできない。ここは誰かのアドバイスがあったのだろうと推測できます。

報道から検察の動きを戦略的広報の観点から読み解くのは案外面白いかもしれません。

 

参考
2018年7月4日 朝日新聞デジタル 文科省、佐野太局長を解任 受託収賄容疑で特捜部が逮捕
https://www.asahi.com/articles/ASL7465X4L74UTIL03F.html

2018年7月6日 朝日新聞デジタル 東京医科大、理事長・学長辞任 会見で説明避ける
https://www.asahi.com/articles/ASL7666R7L76UTIL06Y.html

2018年7月25日 日経新聞 文科省汚職 前局長を起訴
2018年7月25日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20180725/ddm/041/040/162000c

著者:石川慶子氏

有限会社シン 取締役社長
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 理事
公共コミュニケーション学会 理事
日本広報学会 理事
公式ページ:http://ishikawakeiko.net/
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