普遍的リスクマネジメント
乙守 栄一氏
常に接し、形あるモノ、音声に発生しているモノ、すべて常に意識できる状態にある状態は顕在的に意識できる状態にあるものです。しかし、そうではない、常に当たり前に感じていること、自分自身で常識であると認識していることは案外、気づくことが難しいものです。後者の状態は潜在意識にある状態といえます。では、この潜在意識にあるものに対してどのような方法で気づくことができるでしょうか?
会社において、ある製品(ここでは仮にAとします)の販売促進を行なうケースがあるとします。製品AはB to Cの製品で、飲料です。この会社は創業50年以上も経っており、それなりに製品Aの認知度は日本国内で知れ渡っている状態ですが、ここ数年、販売の伸び悩みが続いています。
新規顧客の拡大こそカギである、と過去にこの観点でマーケティングを実施してきたそうです。しかし、販売の伸び悩みは解消されていません。インターネット等で類似製品の情報が入り乱れ、競合他社と競り合うための広告を打ってしまったために、レッドオーシャンへ飛び込むビジネスとなってしまい、結果として価格競争に陥り、利益が上がらない苦しい状態となっています。対象と考える顧客層の心にはなかなか響きません。
では、ブルーオーシャンを如何に見つけるか、それは近年注目を浴びているのがこの潜在意識にアプローチする方法です。クライアントも商品提供側もお互い、気づいていない部分を可視化し、そこに適切にアプローチするというものです。
製品Aは昔から健康に良い、というコンセプトで売られていたのですが、近年はこの健康に良いという部分はおざなりになり、見た目や異なる主旨の特徴をその時の流行に照らし合わせ、広告宣伝文句としていました。しかし、現に得意顧客はこの健康に良い、というイメージをずっと製品Aに抱いており、潜在意識調査の結果、この健康に良い、ということへのアプローチ回帰で見事に売り上げを上げたそうです。すなわち、販売の伸びのカギは得意顧客のリピート率向上にあったそうです。この潜在意識に気づくアプローチは、顧客と商品提供側との密接なコミュニケーションだったそうです。色々な尺度の仮説を立て、それらの問いについてメディアを通じ、或いは直接アンケート等で真に製品Aに抱く期待値を絞り込んでいきました。お互い見えていなかった部分が明らかにされたことで、得意客はさらに購買意欲が増し、販売の伸びに繋がる結果になりました。
組織とその購買層に対するアプローチ、これは個人対個人にも言えることではないかと考えています。お互い見えていない部分を見えるようにする。これは人間関係を構築するうえでも必要なプロセスではないでしょうか。
自分が関係を持ちたいと考える相手の想い、価値観を知るために取るプロセス。関係が浅ければ浅いほど、相手の状況は表面的にしか見えません。自分にとって表面上見えない相手の真意、潜在的な要素を知るために、時には「飲みにケーション」を取るケースもあるでしょうし、何度も連絡を取るなどしながら関係性を深めていくこともあるでしょう。まさに営業マンが新規開拓を行なうプロセスに相通じるものがあると考えます。
一方、問題解決というアプローチで行くと、ヒトはマイナスの潜在的要素に対して触れられてしまうと警戒します。特に関係性が浅い場合にはあまり真意を語りたがらないものです。人は基本的にマイナスの面にヅカヅカ入られたくありません。
すべてとは言いませんが、個人に対しても組織に対しても総じて、リスクマネジメントというアプローチ要素は、この負の要素へのアプローチが多く、関係性構築に非常に困難を極めているケースが多いのではないでしょうかと感じています。
概して、平均よりも良い状態(現在の姿)からさらに良い状態(あるべき姿)へ移行するギャップを埋める活動、すなわちValueから更なるValue向上への解決策への提案活動ができると、そこに真の関係性を構築する礎ができます。わかりやすく言うならば偏差値でいうところの55の状態から65への向上を目指す、という活動です。人は潜在要素の中でも安心感の得られている活動をさらに向上させる、というプラスの面にはさらに意欲的になります。ここへのアプローチが一つの潜在的意識に訴える関係性構築には最も相応しいのではないでしょうか。
まだ危機に陥っていないマイナスの状態には日本人(日本の組織)は、特に蓋をしたがるものです。痛い目に合って初めてリスク対策に手を打つ、これまでの日本人にありがちな状態です。
であるならば、この関係性構築に対してはプラスの潜在意識にうまく訴えかけ、見事解決策を見出し、良い要素での成果を実現し、信用・信頼関係が構築できたその後、負の要素も踏まえたリスク対策も併せて実行するという二段構えのアプローチが良いのではと考えています。
関係性を深めるために、相手の潜在価値に気づく、さらにはそのアプローチ法としてプラスの面からさらにプラスの面へと向上させる活動とその実現。普遍的なリスク対策を推進するための共通項として、この関係性構築が良好な展開に繋がるものと考えますが、皆さまの見解は如何でしょうか。