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リスクマネジメント・ラボ



第3回 2012年2月
第2回 2011年12月
第1回 2011年10月















          
社会保険労務士 毎熊 典子  

2回  「女性のみの採用募集、これって、あり?」

中堅電機メーカーA社の社長は、A社には女性管理職が一人もいないことから、
将来は管理職候補となる大卒女性を採用しようと考えています。ただ、気になる
のは、「女性のみを採用募集しても問題ないか。」ということです。

女性のみの採用募集、これって、ありでしょうか。

企業は、法律その他による特別の制限がない限り、原則として、どんな人を採用
するか自由に決めることができます。これは、憲法により保障されている基本的
人権に、財産権の行使や営業その他経済活動の自由が含まれていることに基づ
きます。

しかし、男女雇用機会均等法第5条では、「事業主は、労働者の募集及び採用に
ついて、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」と規定
されており、労働者の募集・採用について性別を理由として差別することを禁止
していることから、この規定によれば女性のみの採用募集を行うことは許されな
いことになります。

ただし、同法第8条には、「前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女
の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的とし
て女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」とする規定が
あります。この規定は、企業による「ポジティブ・アクション」を許容するものです。

「ポジティブ・アクション」とは、固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、
営業職に女性がほとんどいない、課長以上の管理職は男性が大半を占めている
などの差が男女労働者の間に生じている場合に、このような差を解消するために
個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組みのことをいいます。

つまり、ポジティブ・アクションとして行われる場合、「女性のみの採用募集はあり」ということです。

行政もポジティブ・アクションを積極的に推奨しています。その背景には、わが国の
「ジェンダー・エンパワーメント指数」が108ヵ国中58位と他の先進諸外国比べて
低くなっているという事実があります。ジェンダー・エンパワーメント指数とは、女性が
積極的に経済界や政治活動に参加し、意思決定に参加できるかを測定するもので、
「女性の所得」、「専門職・技術職に占める女性の割合」、「上級行政職・管理職に
占める女性割合」、「国会議員に占める女性割合」を用いて算出されます。

ポジティブ・アクションには、働く女性の能力発揮を促進するだけでなく、働く女性の
労働意欲の向上、多様な人材による新しい価値の創造、幅広い質の高い労働力の
確保、企業イメージの向上、生産性の向上など、様々なメリットを企業に生じさせる
効果があるとされています。ポジティブ・アクションに積極的に取り組んでいる企業を
対象として実施されている調査((財)21世紀職業財団「女性の活躍推進状況診断」http://www.jiwe.or.jp/index.html)においても、多くの企業が「職場環境の向上」、
「従業員意識の向上」、「業績・評価の向上」について効果があったと回答しています。

厚生労働省のサイトでは、ポジティブ・アクションに取り組もうとする企業に対する
アドバイスや、ポジティブ・アクションに積極的に取り組んでいる企業の紹介などが
掲載されていますので、優秀な女性社員を戦力化したいと考えている企業の経営者・
人事担当者の方、将来は企業の管理職や経営陣の一員として働きたいと考えている
女性の方は是非一度ご覧いただければと思います。

ポジティブ・アクション(女性社員の活躍推進)に取り組まれる企業の方へhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/seisaku04/

ポジティブ・アクション応援サイト
http://www.positiveaction.jp/pa/

 

 

 


執筆者:毎熊 典子(まいくま のりこ)
 フランテック法律事務所所属社会保険労務士。慶応義塾大学法学部法律学科卒。
NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 評議員・認定上級リスクコンサルタント、
日本プライバシーコンサルタント協会認定プライバシーコンサルタント。日本広報学会 会員。
主な著書:「電子メールのリスク管理」(共著、ビジネス法務2007年5月号)、
「自社従業員によるネット不祥事への労務対応」(ビジネス法務2011年10月号)他。