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リスクマネジメント・ラボ

第4回 2012年4月
第3回 2012年2月
第2回 2011年12月

第1回 2011年10月













          
社会保険労務士 毎熊 典子  

3回 「同一価値労働同一賃金の原則をご存じですか?」

皆さんは、「同一価値労働、同一賃金の原則」をご存じでしょうか。
これは、同一の労働に対しては、男性であろうが女性であろうが、あるいは正社員であろうがパート社員であろうが、賃金を差別してはならないとするものです。

ILO(国際労働機関)100号条約(正式名称:「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」)では、男女で仕事が異なっていても、知識・技能、精神的・肉体的負荷、責任、労働環境の厳しさなどの要件で業務を比べて同程度なら価値は同じとする旨を定めています。日本もこの条約を1967年に批准しています。

労働基準法第4条でも「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」と明記されています。

男女雇用機会均等法などの法整備も進み、女性の活躍の場が少しずつ広がっている中で、同一価値の労働については男女の別なく同じ報酬を支払うということは至極当たり前のことのように思われます。

しかし、実際には、男女別に設定される賃金表、男性社員のみへの家族手当の支給など、いろいろな場面で男女の性差に基づく直接あるいは間接の賃金差別が行われています。裁判となったケースでは次のようなものがあります。

男女別賃金表は、労働基準法第4条の規定に違反して違法であるとしたもの[内山工業事件広島高裁岡山支部判決(平16.10.28)]。

中途採用初任給を男性は年齢を基準にする一方で、女性は一律高卒初任給額とすることは不合理な差別としたもの[石崎本店事件広島地裁判決(平8.8.7)]

同期入社のほぼ同年齢の事務職の女性と監督職の男性の職務遂行の困難さを知識・技能、責任、精神的な負担と疲労度を主な比較項目として検討し、その各職務の価値に格別の差はないとして労働基準法第4条違反を認定したもの[京ガス事件京都地裁判決(平13.9.20)]

家族手当支給対象の「世帯主」は「夫たる行員とする」とすることは違法と判断したもの[岩手銀行事件仙台高裁判決(平4.1.10)]

このような状況の中で、厚生労働省では、企業における男女間賃金格差の縮小に向けた取組を推進するため、「男女間賃金格差解消に向けた労使の取組支援のためのガイドライン」(平成22年8月31日)を公表しています。このガイドラインでは、労働者全体を平均して見たときの男女間賃金差別は依然として存在しており、一般労働者間の比較においても、平成21年の女性一般労働者の平均所定内給与は、男性のそれの69.8%であり、7割に満たないとしています。そして、このような男女間賃金格差の問題を賃金・雇用管理のあらゆる点から検討し、要因を明らかにすることは、女性の活躍推進の課題を明らかにすることであるとしています。

2025年以降は人口の減少が本格化し、女性の労働力に対する期待がこれまで以上に高まるとされている中、男女間賃金格差の問題は早急に是正されなければならない問題であると思われます。これからますます厳しさを増すであろう環境下において発展し続けることができる会社は、女性が適切な労働条件のもとで意欲をもってのびのびと働き、活躍できる会社といえるのではないでしょうか。

なお、労働局雇用均等室では男女間の賃金格差に関する相談を随時受けつけていますので、疑問や質問がある方は問い合わせてみていただければと思います。

「男女間賃金格差解消に向けた労使の取組支援のためのガイドライン」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000ned3-img/2r9852000000neek.pdf

労働局雇用均等室
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/roudoukyoku/

 

 

 


執筆者:毎熊 典子(まいくま のりこ)
 フランテック法律事務所所属社会保険労務士。慶応義塾大学法学部法律学科卒。
NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 評議員・認定上級リスクコンサルタント、
日本プライバシーコンサルタント協会認定プライバシーコンサルタント。日本広報学会 会員。
主な著書:「電子メールのリスク管理」(共著、ビジネス法務2007年5月号)、
「自社従業員によるネット不祥事への労務対応」(ビジネス法務2011年10月号)他。