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第2回 2011年12月

第1回 2011年10月













          
社会保険労務士 毎熊 典子  

5回 「副業を行う際の留意点」

ワークシェアリングの導入や労働時間の短縮などに伴い、昨今では正社員の副業(兼職)に対する規制を緩和する動きが多くの企業でみられるようになっています。

就業時間以外の時間をどのように利用するかは労働者の自由であり、また、憲法が「職業選択の自由」を保障していることからも、就業時間外の副業は自由に行えるものと考えられます。

しかしその一方で、労働者は、労働契約に基づく職務専念義務や守秘義務などの「誠実義務」を会社に対して負っています。会社は、労働者の適正な労務遂行の確保や、機密情報の漏えい防止など、会社の正当な利益を確保する目的の範囲内において、労働者の行為について、業務上・業務外を問わず規制することができ、副業に関しても、「職業選択の自由」を侵害しないよう配慮しつつ、就業規則上で何らかの規制を設けることが一般的です。

会社による副業の規制の有効性が争われた裁判例として、労働者が会社に無断で深夜長時間にわたりキャバレーで会計係などの仕事をしていたことを理由としてなされた普通解雇に関する事例[小川建設事件・東京地裁昭57.11.19決定]があります。裁判所は、「労働者がその自由な時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労働提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用・体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがた」いとして、当該労働者に対してなされた普通解雇を有効としました。


そこで、副業を行う際には、まず本業の会社の就業規則を確認し、許可制がとられている場合には、事前に会社の承認を得ることが必要となります。また、本業に支障をきたすような長時間や深夜の副業、会社の信頼や名誉を傷つける恐れがある副業のほか、競合他社で働く、本業の専門知識・技術や営業ノウハウなどを生かす、本業の会社の肩書や名刺を使う、会社の備品類や顧客データを使うといった場合は、問題となる可能性が高いので注意を要します。会社に無断でこうした内容の副業を行った場合、懲戒処分を受けるだけでなく、会社側から差止め請求を受けたり、損害賠償請求を受けたりする恐れがあります。


収入アップを図りたい、キャリアアップを図りたい、独立開業の準備を進めたいなど、企業で働く女性が副業を行う目的はさまざまだと思います。余暇の時間を自分自身のために有効活用することは、とても有意義なことだと思います。ただ、会社の一員として働く身である以上、それなりの責任があります。副業を行う際には、上記のポイントに留意して、就業規則違反で処分されたりすることがないよう注意して頂きたいと思います。



執筆者:毎熊 典子(まいくま のりこ)
 フランテック法律事務所所属社会保険労務士。慶応義塾大学法学部法律学科卒。
NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 評議員・認定上級リスクコンサルタント、
日本プライバシーコンサルタント協会認定プライバシーコンサルタント。日本広報学会 会員。
主な著書:「電子メールのリスク管理」(共著、ビジネス法務2007年5月号)、
「自社従業員によるネット不祥事への労務対応」(ビジネス法務2011年10月号)他。