第8回 ~パート・アルバイトはどこまで守られる?~ 有期雇用労働者の保護および地位向上を目的とする労働法の改正
□今年は、労働法(労働関係を規律する法律の総称)の改正が次々と成立または施行されています。相次ぐ法改正の背景には、少子高齢化に伴う労働力不足や厚生年金保険・健康保険などの社会保障制度の見直しの問題、パート・アルバイトなどの有期雇用労働者に対する雇止め、さらには近年急増している職場におけるメンタルヘルスの問題など、様々な社会問題があります。近時の労働法の改正は、こうした問題に対処し、働く人が安心して働き続けることができる社会を実現することを目的としています。
中でもパート・アルバイトとして働く方々にとって特に重要と思われるのが、労使間の労働契約に関する基本的なルールを規定した労働契約法の改正です。改正労働契約法では、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託社員など、その名称にかかわらず、有期雇用で働くすべての人を対象として、次の3つの新しいルールが規定されました。
① 無期労働契約への転換
有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込により、期間の定めのない労働契約に転換できるとするルールです。
② 「雇止め法理」の法定化
最高裁判例で確立した「雇止め法理」が、そのままの内容で法律に規定され、一定の場合には、使用者による雇止めが認められないとするルールです。
③ 不合理な労働条件の禁止
有期契約労働者と無期労働契約者との間で、不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールです。
また、派遣社員として働く方々にとっては、成立から25年を経て、今回の改正で大幅に改正された労働者派遣法について理解しておくことも大切です。労働者派遣については、リーマンショック後に「派遣切り」という言葉が生まれ、大きな社会問題として取り上げられました。改正法では、派遣労働者の保護と地位の向上が法律の条文に明記されました。改正法の主なポイントは次の3つです。
① 日雇派遣の原則禁止
雇用期間が30日以内の日雇派遣は原則禁止になりました。ただし、政令で定める業務について派遣する場合、および一定の人(60歳以上の人、雇用保険の適用を受けない学生、副業として日雇派遣に従事する人、主たる生計者でない人)を派遣する場合には、例外として日雇派遣が認められます。
② マージン率などの情報提供・派遣料金の明示
労働者や派遣先がより適切な派遣会社を選択できるよう、マージン率や教育訓練に関する取り組み状況などについてインターネットなどにより情報提供すること、また、雇入れ時、派遣開始時、派遣料金額の変更時には派遣料金を明示することが派遣元に義務付けられました。
③ 労働契約申込みなし制度
派遣先が違法派遣(禁止業務への派遣、無許可・無届の派遣、派遣可能期間を超えている派遣、または偽装請負)と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申込をしたものとみなし、派遣労働者が受諾の意思表示をすることで、派遣先と派遣労働者との間で労働契約が成立します。なお、この制度は、平成27年10月1日から施行されます。
これらの他にも、パート・アルバイト等の非正規社員を含めた労働者の保護と地位の安定を図るための法律は多数あります。そもそも、日本の労働法は諸外国の労働法と比べて、労働者の保護に厚いものとなっていますが、近時の法改正でますますその傾向が強まっています。しかし、そうした法律の存在を知らなければ、法律が保障してくれている自らの権利を主張することはできません。「労働者を保護するための法律がある」ということを知っておくことは、働く女性のリスクマネジメントとして、とても大切なことです。
なお、今回ご紹介した改正労働契約法や改正労働者派遣法の詳しい内容については、以下の厚生労働省のサイト上でわかり易く解説されていますので、ご一読いただければと思います。
「労働契約法改正のあらまし」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/pamphlet.pdf
「労働者派遣法が改正されました」 http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/01.html
執筆者:毎熊 典子(まいくま のりこ)
フランテック法律事務所所属特定社会保険労務士。慶応義塾大学法学部法律学科卒。
NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 評議員・認定上級リスクコンサルタント、
日本プライバシーコンサルタント協会認定プライバシーコンサルタント。日本広報学会 会員。
主な執筆活動
「ソーシャルメディアにかかわるトラブル対応Q&A」(共同執筆、労務事情2011年10月)
「自社従業員によるネット不祥事への労務対応」(ビジネス法務2011年10月号)他 |