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社会保険労務士 毎熊 典子  

9回~103万円・130万円の壁をどう考えるか~
「共働きの有利な働き方」とは

今回は、共働きの女性のリスクマネジメントにかかわるお話をさせて頂きます。 消費税や社会保険料の負担が増す一方で、生涯賃金は減る傾向にあり、家計はいっそう厳しさを増しています。このような状況の中で、家計を支えるため、あるいは将来に備えるために、共働きを考える主婦の方が増えています。妻が共働きする場合、いわゆる「103万円の壁」や「130万円の壁」の問題があります。 103万円の壁とは、妻の年収が103万円を超えると、夫が負担する所得税に関して配偶者控除がなくなることなどを指します。配偶者控除は一律38万円で、控除が減ると減った額に所得税率を掛けた分だけ夫の税負担が増えます。 他方、130万円の壁とは、妻の年収が130万円以上になると夫の扶養から外れ、厚生年金や健康保険などの社会保険に自ら加入し、保険料を支払う義務が発生することを指します。

【妻の年収と夫婦の税・社会保険料の関係】


上の表のように、妻の年収が一定額を超えると、妻の税・社会保険料の負担や夫の所得税などに影響が出るため、家計全体の手取り額が減少しないように、妻の年収が103万円あるいは130万円を超えない範囲で働きたいと考える方が多いものと思われます。
しかしながら、妻である女性が「できるだけ長く働きたい」、「やりがいのある仕事をしたい」、「資格を活かした仕事をしたい」と考えている場合には、これらの壁のことはあまり意識する必要はないと思われます。

というのは、妻の年収が103万円を超えて配偶者控除の適用がなくなっても、141万円に達するまでは配偶者特別控除が適用されますし、また、141万円を超えて控除がなくなっても、夫の手取り額の減額分より、妻の手取り額増加の効果の方が大きく働きます。
他方、妻の年収が130万円を超えて社会保険が適用されるようになると、これまで支払わなくて済んでいた保険料の支払いが発生する訳ですから、負担は大きいものと思われます。しかしながら、社会保険に加入すれば、65歳以降に厚生年金を受給することができます。厚生年金については将来的な減額のリスクがあることは否めませんが、それでも、今日の女性の平均寿命(85.9歳)に鑑みれば、目先の手取りと老後の年金をトータルで考えた場合、有利に働く可能性が高いものと思われます。
また、2016年10月1日以降は、社会保険の適用範囲が拡大され、週の労働時間が20時間を超えると、一定条件の下で社会保険への加入が義務付けられるため、社会保険の適用を受けずに働ける範囲が現在より限定されてしまうことが想定されます。

以上のことを踏まえて考えた場合、手取り額の減少を気にされて、あえて高収入の仕事に就くことを避けたり、会社から正社員として本格的に働くことを要望されながら、自ら断ったりしていらっしゃる方のお話を伺うと、私的には、「もったいないなぁ」と感じてしまいます。少子高齢化社会において、女性の労働力は社会からも必要とされています。女性が自らの能力を存分に生かして、いきいき働き、所得を増やすことは、個人の生活を豊かにするだけでなく、社会経済の活性化にも大いに貢献するものです。ご夫婦で「共働きの有利な働き方」について検討される際には、是非、将来に亘って得られる収入や働く妻の「働きがい」「生きがい」などについても併せてご考慮いただき、長期的な視点をもってご判断いただけたらと思います。





 



執筆者:毎熊 典子(まいくま のりこ)
 フランテック法律事務所所属特定社会保険労務士。慶応義塾大学法学部法律学科卒。
NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 評議員・認定上級リスクコンサルタント、
日本プライバシーコンサルタント協会認定プライバシーコンサルタント。日本広報学会 会員。
主な執筆活動
「ソーシャルメディアにかかわるトラブル対応Q&A」(共同執筆、労務事情2011年10月)
「自社従業員によるネット不祥事への労務対応」(ビジネス法務2011年10月号)他