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ソーシャルリスク毎熊
          
毎熊典子 リスクマネジメント レピュテーション ソーシャル
特定社会保険労務士 毎熊 典子  

第6回 不適切な投稿をした社員を懲戒解雇できる?


Q6.違法なサービス残業を強要されているとインターネット上の掲示板に書き込んでいる社員がいます。このような行為は当社の名誉や信用を傷つける行為ですので、当社としてはこの社員を懲戒処分するつもりですが、何か注意すべき事項があれば教えてください。

 A6.書込みの内容が虚偽または何ら根拠のないものである場合は、就業規則に則って懲戒処分を行うことができます。一方、書込みの内容が事実である場合は、懲戒処分が無効とされる可能性があります。




1 内部告発をした社員に対する法的保護

 商品・製造物の欠陥や賞味期限・産地表示の改ざん、サービス残業など、内部関係者の告発により明るみに出る企業の不祥事は少なくありません。このような場合、社員による告発は、職務上知りえた秘密を他に漏らす行為であり、会社の名誉や信用を毀損するものであるとして、内部告発をした社員に対して会社が懲戒処分を行ったり、降格、減給、配転などの報復的措置をとることがあります。そのため、労働基準法には、会社による不利益な取扱から社員を守るための保護規定が設けられています。また、2006年4月から施行されている公益通報者保護法には、公益通報した労働者(公益通報者)に対して会社が行った解雇を無効とする規定や、降格、減給その他不利益な取扱を禁止する旨が定められています。ただし、公益通報者保護法の適用には、通報先や通報対象事実などに関して様々な条件が定められており、これらの条件を満たさないものは、同法による保護を受けることができません。

2 懲戒処分の有効性の問題

 就業規則では、多くの場合、「会社の秘密情報を漏えいすること」や「会社の名誉や信用を毀損する言動を行うこと」が懲戒事由として定められています。しかし、たとえ社員の行為がこれらの懲戒事由に当たりうるとしても、会社が違法な行為を行っているという事実は、法的に保護されるものではありません。

 労働契約法第15条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない懲戒処分は権利の濫用にあたるとして無効としています。また、同法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、その権利を濫用したものとして無効とすると定めています。過去の裁判例においても、内部告発をした社員に対する懲戒処分を無効とした事例が多数あります。

 ただし、内部告発が具体的にどのような方法でなされ、また、どのような内容のものであれば法的に保護されるかについては、個々の事案の具体的事情を総合的に考慮したうえで判断されるため、明確な判断基準がある訳ではありません。

3 ソーシャルメディア上で内部告発をした社員に対する懲戒処分の可否

 インターネット上の掲示板などのソーシャルメディアへの書き込みによる内部告発は、労働基準法や公益通報者保護法に規定される条件を満たさないことから、これらの法律の保護対象とはなりません。しかし、内部告発を行った社員に対する就業規則に基づく懲戒処分が常に有効となるわけではありません。書込みの内容が虚偽であったり何ら根拠のないものであるときは、会社が当該社員に対して懲戒処分を行うことができると考えられます。他方、書込みの内容が事実であったり、事実であると信じることについて相当な理由があるような場合には、たとえその書込みより会社の名誉や信用が毀損されて、会社が損害を被ったとしても、当該社員に対する懲戒処分が無効とされる可能性があります。

 また、真実の告発をした者に対して会社が懲戒処分や不利益な取扱をした場合、そのことが明るみに出れば、かえって会社の名誉や信用を傷つけ、会社の評判(レピュテーション)にマイナスの影響を与えることにもなりかねません。会社としては、これらの点について理解したうえで、内部告発をした社員への対応については、事実確認を十分に行い、慎重に検討する必要があると思われます。






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