Home > リスクマネジメント・ラボ > ビジネスパーソンにこそ必用な財務知識とリスクマネジメント

リスクマネジメントの専門知識・事例を学ぶ

リスクマネジメント・ラボ


第4回 2006年1月
「事業部門・製造部門担当者編」

第3回 2005年12月
「販売・営業担当者編」

第2回 2005年11月
「会社内のポジションによる財務知識とリスクマネジメントのポイント」

第1回 2005年10月
「ビジネスパーソンが財務とリスクマネジメントを学ぶことの重要性」

著者プロフィール

 杉原 浩章  


第1回 ビジネスパーソンが財務とリスクマネジメントを学ぶことの重要性
はじめに

有名な経済学者 ピーター・F・ドラッカーの言葉に      新訳『乱気流時代の経営』(ダイヤモンド社)より
       「乱気流の時代にあっては、損益計算書よりも貸借対照表が重要な意味をもつ」
といった言葉があります。

乱気流の時代とは、「新しい現実」が突然として現れる時代です。乱気流の時代のマネジメントをしておかなければならないものの一つが「手元流動性」です。
なぜなら、乱気流の時代の企業は、突然のリスクの発生にも耐え、生き残っていかなければならないからです。

そのためには、手元流動性とその源泉である自己資本の充実が重要なファクターです。自己資本や手元流動性を見ることで、その企業のリスクに耐える力(存続可能性)や投資力もわかります。乱気流の時代は、突如として直面している「現実」が変わります。しかし事業年度が変わっただけで、企業の実態が変わることはありえません。であるからゆえ単年度志向の損益計算書ベースで経営していたとしたら、本当に現実が変化しているときには対応できませんし、リスクに対して脆弱な企業体質になりかねません。連続志向の貸借対照表という軸をベースにしているからこそ、現実が突然変わる「乱気流の時代」には、その真価を発揮するのです。

さて、自己資本、手元流動性の充実にとって絶対的に必用なことは利益(売上)を挙げることです。

たとえば、資本金1000万円の会社が1000万円の利益を挙げ、400万円の税金を払って600万円余るとします。その600万円は利益剰余金となり、資本の部が1600万円となります。考え方としては、資本の部が増えた分、自己資本が充実し企業価値が高まりその分株価も上昇したといえます。

つまり、利益を大事にすると同時に、利益を挙げ続けていくことによって資本が増え、リスクに対して強い経営体質を作り上げていくことを経営者の方々がいつも考えていく。そして従業員もそれを一緒になって考えていくような会社にすることがますます重要になってきます。


なぜ、財務とリスクマネジメントを学ぶべきなのか?

まず、社長及び役員が財務リスクに関して知識がなければ経営はできません。以前ならば、財務、会計の専門家が会社の数字をみて気づいたことをアドバイスし、役員が「経理・財務がこういっているからそれでいいと思います。」と社長に伝えて、社長も「わかった、それでよろしい」といってそれで事が運んできましたが、現在そんなことをしている会社があったら、その会社はかなり危ないといわざるを得ません。社長も役員も他人任せにせず、自ら数字を分析して自らの頭で財務やリスクマネジメントを考えなければならない時代です。

これは会社の大小を問いません。今風にいえばCEO(最高経営責任者)が販売・製造、研究部門を統括する力に加えて、CFO(最高財務責任者)CRO(最高リスク管理責任者)の力も持たなければなりません。
CEOは社長、CFOは経理・財務担当役員、そしてCROはリスク管理に関する全社的観点でのコーディネート機能を担う。一方、全社的なリスク管理の司令塔としての責任を負うとともに、リスクの性質に応じて、直接的にリスク管理に責任を負うこととなる立場となります。

つまり、社長(CEO)がCFO・CRO以上に財務・会計・リスクに関する力を付けなければ、いずれその会社は立ちゆかなくなると私は考えています。


経営と財務リスクマネジメントの鍵は 「正確さ・迅速さ・誠実さ」

現代は経営トップが自ら陣頭指揮をとって、製品、商品を売るべき時代です。また、原材料などを購入するときも、どの様なものを世界中のどこから手に入れたらよいか、その判断は経営トップが下すべき時代です。資金を借りるときも、経理、財務の担当者ではなく、経営トップが陣頭指揮をすべき時代です。

なぜならば、最近のビジネスマネジメントは昔と比較にならないほどのスピードがある判断が要求されます。
経営・財務・会計もその鍵は3つあると考えています。言い換えれば財務リスクマネジメントの鍵は3つあるのです。

一つめは「正確さ=accuracy」、二つめは「迅速さ=speed」三つめは「誠実さ=integrity」です。

一つめの「正確さ」には「透明性」と「比較性」の2つの要素が含まれてきます。「透明性」は、隠し事などなく、会社の経営実体が決算書で明らかになること。比較性は経営分析のために他の会社と比較分析ができること。つまり同一の会計基準の下、他の会社と経営実態を比較し合うことによって経営・財務の問題点を明らかにできること。二つめの「迅速さ」は瞬時の状況判断、対応策を実行できるための重要な要素です。三つめの「誠実さ」のintegrityは、「どこで話しても、だれと話しても、いつ話してもいうことは同じである誠実さ」という意味です。2001年のエンロンやワールドコム、大手会計事務所アンダーセンがあっという間にアメリカで破綻してしまった事件、日本ではカネボウの粉飾決算の問題などはまさしくこの3つの鍵をないがしろにしてしまったことが大きな原因でしょう。

経営トップにこそ「正確さ・迅速さ・誠実さ」をベースにした財務会計とリスクマネジメントのスキルは必要不可欠と断言できます。


事業の最前線にこそ必用な財務センス・リスクセンス

財務リスクマネジメントに関するスキルは経営・財務の方々だけではなく事業の最前線、つまり事業部門・製造部門や・営業部門の方々にとっても「正確さ・迅速さ・誠実さ」をベースにした財務会計とリスクマネジメントのスキルやセンスが必用とされる場面が多くなっています。
言い換えると、ビジネスに関する数字、会社に関する数字を現場で活用する必用があるのです。

たとえば、これまでは営業スタッフは製品を売ればそれで任務はすみました。肝心の入金、回収は財務経理のスタッフに任せて売るだけ売って次のお客様に向かえば良かったのです。商品を売ることで「適切な利益を得ることができているか?」「確実に入金回収され、キャッシュフローや資金繰りに悪影響を及ぼしていないか?」。現在では営業部門は売掛金の確実な回収が重要な業務です。

取引先の財務内容の善し悪し、支払い能力までも目配りしなければなりません。製造部門は、決められた納期に間に合うように商品を製造すれば良かったのですが「仕入れ先の再検討による製造原価の見直し」「歩留まりの改善」「製造プロセスの見直しによるコスト管理」なども考えて製造現場をマネジメントしていく必要性があります。


財務リスクマネジメントを会社の共通言語に

これらのことを考えると、現在はやっかいな時代だと思います。経営者や財務・経理担当者、事業・製造・営業部門の責任者が商品の開発・企画・営業・回収まで全て目配りし、さらに、取引先の決算書は当然分析できなくてはなりません。現代のマネジメントでは、現場の営業社員だけではなく、その上で決断を下す営業担当・事業・製造担当、経営担当役員の全てが財務リスクマネジメントに明るくなり、強いて言えば、「会社の共通言語」にすべきです。

これらのことを推し進めていくためには財務会計の「正確さ・迅速さ・誠実さ」が求められ、また、開示の必要性に迫られます。

中小企業の中では、自社の決算書すら見たことのない事業・製造担当・営業担当が多く見受けられます。一段と企業間の競争が激化すると予想される今日において、デスクロージャーについて曖昧な企業は競争から取り残されることは確実です。

自社が他社からどの様な評価がされているのか。自社がビジネスすべきマーケット・企業はどこか?といった経営判断を確実に行っていくためには、経営陣のみならす、社内幹部の全てに財務とリスクマネジメントに関するスキルの獲得とセンスを磨く必用があります。

そこで、今回のテーマのターゲットですが。「役員・経理財務担当者」「事業・製造部門担当」「営業担当」にそれぞれ必用な財務・マネジメントのキーポイントを明らかにしていくことにあります。

次回以降で、ビジネスパーソンそれぞれの立場に必用とされる財務リスクマネジメントに関するスキルとセンスのキーポイントを解説していきます。ご期待ください。