Home > リスクマネジメント・ラボ > ビジネスパーソンにこそ必用な財務知識とリスクマネジメント

リスクマネジメントの専門知識・事例を学ぶ

リスクマネジメント・ラボ


第4回 2006年1月
「事業部門・製造部門担当者編」

第3回 2005年12月
「販売・営業担当者編」

第2回 2005年11月
「会社内のポジションによる財務知識とリスクマネジメントのポイント」

第1回 2005年10月
「ビジネスパーソンが財務とリスクマネジメントを学ぶことの重要性」

著者プロフィール

 杉原 浩章  


第2回 会社内のポジションによる財務知識とリスクマネジメントのポイント
はじめに

前回はビジネスパーソンが財務とリスクマネジメントを学ぶことの重要性についてのポイントを指摘しました。
そこで、今回からは各論的に会社内のポジションによる財務知識とリスクマネジメントのポイントについて解説します。


なぜ、役員が財務リスクマネジメントを学ぶべきなのか?

私は「経営=財務リスクマネジメント」だと考えています。これは役員が財務やリスクマネジメントを参考とするといった曖昧な意味ではありません。「財務リスクマネジメントそのものが経営」なのです。「財務リスクマネジメント経営」といえると思います。

この、「財務リスクマネジメント経営」こそが、企業の収益性、成長性、安定性を決定します。収益性は「儲け」です。成長性はこれだけ利益を上げたらその次は1.1倍に上げていくまたその次に1.2倍に挙げていくように将来に向けて利益をだんだん大きくしていくことです。そして安定性は企業が財テクなどで失敗しないような財産保全のためのリスクマネジメントをしていく考え方です。

いまや、いわゆる中小企業も世界を視野に入れた競争をしていかざるを得ません。たとえ町の小さなお豆腐屋さんや納豆屋さんでも世界経済と無関係とはいえないからです。なぜなら大豆自身が輸入品ですし、容器などは石油が使われています。製造機械についても外国製が安い場合は、そちらを導入するでしょうし、従業員も外国人の方の人件費が安い場合はそうするでしょう。

ですから、事業を世界展開する大企業だけではなく、中小中堅企業も全ての企業が国際化の荒波にさらされ、猛烈な競争社会に投げ出されているのが現状です。原材料の調達にしろ、製品の販路にしろ、もはや世界を相手にしなければ企業は生き残れません。さらに人件費の安い中国のような労働市場まで現れています。そうした複雑で厳しい環境の中で、自分の企業、自分の仕事を的確に把握して将来を見据えた正しい判断を下すために、ビジネスマネジメントの数字をいかに読み込むかが大切なファクターとなってきています。だからこそ、財務リスクマネジメントを学ぶ必要があるのです。


役員・財務担当者は「全体感を持つ」事が重要

役員・財務担当者の皆様は、企業の中にある様々部門の中でどの部門を最も重視してらっしゃるでしょうか?

私は、「販売・製造・研究」部門すなわち、事業部門こそが経営の要であると考えています。研究部門は競争に打ち勝つための商品開発・技術開発の要であり、製造部門は「モノ(商品)」を作るところ。そして販売は、ユーザーつまり「会社の外」からお金を頂いてくるところです。企業経営体としてはこの3部門が最前線で企業競争力を高める源泉であるといえます。経理、財務部門はこれら3部門のバックアップ部門であると考えています。

少々横道にそれますが「会社の効率化」といいますと、最初に交際費をカットするとか、経費を削減するといった方法が浮かんできますが私は売り上げ(利益)に直結する部門を最初に効率化すべきではなく、最初に経理・財務部門や人事部門から手を付けるべきであると考えます。

経理・財務部門、人事部門の力が強すぎることはあまり良くないことだと私は考えています。経理・財務部門の重要な役割は販売・製造・研究部門のバックアップです。

その為には、「現場を知ること」が重要です。営業の現場で、製造、研究の現場へ体を動かして参画していくことが重要で、企業全体で何が起こっているのかを「体感」することが重要です。
経理・財務部門が現場の実態を把握せずに、予算を与えないとか、交際費を削減するとか、そのようなことばかりしていれば会社はおかしくなります。人事部か権力を持ちすぎて人を動かし続けていることもよくありません。

事業部門と経理・財務・人事部門の信用関係が壊れてしまうからです。
結果として企業内でそれぞれの立場での利益・権利を主張し合い、猛烈な競争社会の中で企業一丸となって戦わなければならならないとき、セクショナリズム的な状態に陥ってしまうことが最も危険な状態といえます。

事業部門と経理・財務部門が良い関係を保つためには、全ての部門において「数字に強くなる」「的確な企業の現状把握」が最も重要です。事業部門も企業を成長に導くための財務リスクマネジメントスキルを十分に獲得していることを前提として、「会社全体のマネジメント」を充分理解しなければなりません。

財務リスクマネジメントのスキルを獲得することは「全体感」もってマネジメントするためには必要不可欠なスキルであるといえます。


数字の背景を分析する力が役員・財務担当者には不可欠

経理・財務には設備投資の採算計算とか銀行からの借り入れ交渉業務など、さまざま業務がありますが、極端にいえば、入金と支払いの2つの業務を「正確」に処理できていればそれで充分です。しかしながら、「正確」の意味をきっちりと把握しることが必要です。入金のもとは売り上げです。支払いのもとは、原材料の購入費だったり、税金であったり様々です。いずれにせよこれらの費用の金額は決算書に載ってきます。この「金額」が重要です。
これらの金額の裏には必ず「数量」と「単価」が隠されています。
「金額=数量×単価」です。「金額」と聞けば、すぐにこの式を思い起こす力が強いことは役員・財務担当者にとって大きな力が備わったといえるくらい大切です。

売上高の競争は単に売り上げの総額を競っているのではなく、数量と単価の競争をしているのです。数量の競争は単に製造能力の事だけではありません。どの量ならば他社より速い納期で納められるか。クレームに迅速に対応できるか。量によって運賃コストはどう変化するか。回収に抜かりはないか。つまり数量によって影響を受ける全てのことを含んでいます。

一方、単価の競争では、まず、売り上げ単価を常に上げることを目指します。しかしながら、製品、商品が売れない場合は値引き販売をしたり、小売店へのバックマージンなどを増やしたりすることもあるかもしれません。そうすると入金の単価は下がります。また売り上げ競争の背後には製造原価の競争もあります。たとえば、自社製品が製造原価の安い外国製の製品と競争していた場合、売り上げ単価をどんどん下げざるを得なくなります。そうすると、それら全ての事柄は利益を押し下げる要因となるわけです。販売先、原材料の調達先が海外にある場合は「為替リスク」も売り上げ・利益を左右する重要な要因であるといえます。

では、支払いの項目ですが、支払いの項目には大きく分けて、原材料費、人件費、設備費(減価償却)があります。これら全てが「金額=数量×単価」で説明ができます。支払いを減らそうとすれば、それぞれの費用項目での狩猟と単価を別々に見ていくべきです。

決算書の数字の裏に目を向けて考え、実行を!
私がここで申し上げている、財務リスクマネジメントのスキルはいわゆる学問としての会計とは違います。

「利益を上げるための経営」をベースとしての考え方です。決算書を表面的に流してみるのではなく、その奥底にある現象に入り込んで分析してみてください。大切なのは売り上げ、経費の総額だけではなく、企業全般について数字の裏に隠されている現象を分析する考え方を普遍化させていくことが大切です。
そして、それを考えるだけではなく、監督することだけではなく、利益を挙げるためへの「実行する」ことが最も重要です。

もっと、数多くのことをご紹介したいのですが、残念ながら限られた紙面の中では、限界があり、その一部しかご紹介できませんが、利益を上げ続ける強い財務体質獲得を実行するため、ぜひ財務リスクマネジメントのスキルを獲得するための機会を継続的に社内・社外に設けることを忘れないでください。