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リスクマネジメントの専門知識・事例を学ぶ

リスクマネジメント・ラボ


第4回 2006年1月
「事業部門・製造部門担当者編」

第3回 2005年12月
「販売・営業担当者編」

第2回 2005年11月
「会社内のポジションによる財務知識とリスクマネジメントのポイント」

第1回 2005年10月
「ビジネスパーソンが財務とリスクマネジメントを学ぶことの重要性」

著者プロフィール

 杉原 浩章  


第4回 事業部門・製造部門担当者編
事業の最前線にこそ必用な財務センス・リスクセンス

財務リスクマネジメントに関するスキルは事業の最前線、つまり事業部門・製造部門にとって「正確さ・迅速さ・誠実さ」をベースにした財務会計とリスクマネジメントのスキルやセンスが必用とされる場面が多くなっています。言い換えると、ビジネスに関する数字、会社に関する数字を現場で活用する必用があるのです。

製造部門は、決められた納期に間に合うように商品を製造すれば良かったのですが「歩留まりの改善」「製造プロセスの見直しによるコスト管理」なども考えて製造現場をマネジメントしていく必要性があります。特に財務改善に直結する手法として有名なのが、モトローラ社で提唱され、GEの採用で有名となった「シックスシグマ」とトヨタの「カイゼン」が具体例として上げられるでしょう。


シックスシグマとは・・・・・

◇バラツキに着目した手法です
たとえばA社とB社という二つの企業。どちらもお客様への製品の平均納品日数が「受注後3日」だったとします。しかし、A社の場合は「常に3日」、かたやB社の場合は平均でこそ3 日ですが、即日納品のときもあれば、1週間、10日と遅れることも。この場合、どちらの企業のサービスレベルが高いと言えるでしょうか? シックスシグマでは、これまで平均だけが重視されがちだった経営や事業目標の中に、バラツキ(標準偏差)の概念を取り込み、より高い経営品質の実現を目指す手法です。

◇プロセスの改善を行う手法です
すべての物事は、プロセスで成り立っています。ゆで卵ひとつ作る場合でも、まず卵や水、塩と言った材料の準備をし、お鍋やコンロなどの設備の用意が必要です。次に調理にとりかかりますが、ここでも鍋に水を入れて火にかけ、タイミングを見て卵を入れ、時間を計る・・・といったさまざまな「作業」があり、これらはすべて最終的なゆで卵の出来映え(品質)に影響を与える「要因」となります。事業や業務の成果、不良品やサービスのミスといった現象を引き起こしているのは、複数のプロセスです。シックスシグマでは、プロセスの改善を行うことで、品質のバラツキを抑えていきます。

◇経営に対するインパクトとお客様の声を重視する手法です
こうしたプロセス改善を行うにしても、無限にお金や時間があるわけではありません。そこで、「どこから手をつけていくか」の優先順位を決める必要があります。シックスシグマでは、その拠り所を経営に対するインパクトとVOC(Voice of Customer:お客様の声)においています。また、その効果を金額に換算することで、「どこから手をつけていくか」が、誰が見ても明らかにわかるようになります。お客様が満足し、金額的な効果の大きいプロセス改善に注力するのです。


シックスシグマの導入の効果

◇短期的な導入効果は?  売上に直結する改善効果です
シックスシグマのプロセス改善活動は、必ず経営戦略に則って実施されます。そしてお客様の声を起点とし、部門をまたがったプロジェクト活動の結果、顧客対応スピードが向上し、不良品の削減などの効果があらわれます。もちろん、これらのほとんどは、売上の拡大、コストの削減に直結しています。

◇さらに、人材育成効果も
また、数値的な効果に加えて、プロジェクト活動での「経営戦略から課題を切り出し、合理的に解決・実行し、着実に成果を上げる」という行為を通じ、変革の担い手となる人材が育っていくことも、期待できる効果のひとつです。彼らは経営の視点と高度な問題解決力を身につけ、自律的に行動できる変革のリーダーとなります。

◇長期的な導入効果は?   企業の競争力が格段に向上します
変革のリーダーが組織のあらゆるところで育つことにより、組織全体の問題解決能力が向上します。そして、経営課題を解決した効果である「財務効果の拡大」、財務効果を原資とした「顧客や株主、従業員にとっての価値の拡大」、変革活動における基盤である「運営体制の透明化」を通じて、組織全体の価値が向上します。
結果として、シックスシグマは、総合的な企業の競争力の強化とリスクマネジメントを実現できる改革手法と言うことができます。


トヨタの「カイゼン」の考え方

トヨタ生産方式のかなめである「ジャスト・イン・タイム」は,必要なものを必要なときに必要な分だけ提供する考え方です。それは金融機関が顧客の望むタイミングで商品を提案したり,サービス業者が店舗に必要な量だけ商品を配送したりといった場面に応用できるというわけです。

顧客起点でモノと情報の流れを見直せば,自ずとジャスト・イン・タイムの発想に近づくということになります。


「見える化」で現場の情報開示を進める

もう1つ,トヨタ流企業改革を語るうえで欠かせないキーワードを紹介しましょう。それは「見える化」です。

トヨタの強さの秘密は,常に「カイゼン」していくことにあることは,誰もがよく知っています。ただ,どうしてトヨタはそんなにも問題点がよく分かるのかということに疑問を感じた人は,意外に少ないかもしれません。

数あるトヨタ用語のなかでも,「ジャスト・イン・タイム」や「カイゼン」ほど有名ではありませんが,「見える化」も極めて重要なキーワードになっている言葉です。見える化は一言で言えば,問題点が常に「見える」ようにしておく工夫のことです。正常と異常の違いがすぐに分かる仕事場とか,仕事するうえであれこれ迷わずに済む現場のことを指すと言ってもいいかもしれません。

「見える化」を始める第一歩は,非常に基本的なことなのですが,仕事場を整理整とんすることです。非常に地味なことですが,これがトヨタ流企業改革の根底にあります。

人の動きを邪魔したり,視界をさえぎったりする余計な在庫や荷物を撤去して,働きやすい職場を作る。複雑に入り組んだ工程はやめて一直線のラインを敷く。無駄に長いコンベヤーの利用をやめたり、コンベヤーを短くしたりする。こうしたことはすべて,仕事の様子が見えやすくなる「見える化」に通じることになります。

これだけでも現場の作業が楽になるし,作業の進ちょくが見えやすくなる。いま,どの工程やラインに異常や停滞が起きているのかが,一目で分かるようになるため、在庫のたまり具合もよく分かる。

だからトヨタはカイゼンすべきポイントが分かるのです。現場の管理者や上司も作業員や部下たちに指示を出しやすい。これが,ぐちゃぐちゃに散らかった現場だと,さっぱり分からないということになりかねません。

もっと言えば,問題点が見えにくいと,誰もが見て見ぬ振りできてしまう。声に出して,問題点を指摘しようとする人が出てこない。これではカイゼンは進まないことになります。

また、作業の進ちょくボードを用意して,「見える化」を推進している。上司と部下だけでなく,同僚同士も互いの進ちょくが分かり,アドバイスし合える。これが「見える化」による情報開示の効果となります。


まとめ

4回にわたり、ビジネスパーソンに必要な財務知識とリスクマネジメントについて解説してきました。

役員・経理財務担当者編でも申し上げましたが、「全体感を持つ」ことが財務リスクマネジメント経営のキーワードです。リスクマネジメント経営の最初のフェーズは、会社組織内でのセクショナリズムを排除し、あらゆる問題点を抽出しうる「見える化」から、「カイゼン」「ジャスト・イン・タイム」そしてシックスシグマによる、より高いレベルでの経営改善・財務改善が継続することにより、リスクに強い企業へ生まれ変わらせることが目標となります。

全ての部門において「数字に強くなる」「的確な企業の現状把握」が最も重要です。事業・製造部門も企業を成長に導くための財務リスクマネジメント・スキルを十分に獲得していることを前提として、「会社全体のマネジメント」を充分理解しなければなりません。

財務リスクマネジメントのスキルを獲得することは「全体感」をもってマネジメントするためには必要不可欠なスキルであるといえます。

財務リスクマネジメントが会社組織内の共通言語となり、より高いレベルへイノベーションを起こし続ける企業を目指す皆様へ少しでも今回の連載が参考になれば幸いです。

4ヶ月間、おつきあい頂き、ありがとうございました。