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ISO15489に準拠した記録管理の基本とリスクマネジメントの基礎を学ぶ
レコード・リスクマネジメント研修コース」開催中

渡邊 健  

1回

レコード・マネジメントとは
 レコード・マネジメント(Records Management)は、日本では“情報管理”とか“文書管理”といった呼ばれ方をすることが多いようです。直訳すれば“記録管理”というのが最も近いと思いますが、日本で“記録管理”というと、歴史的な史料や公文書の管理を指すイメージがあるかもしれません。“情報”はヒト、モノ、カネに次ぐ第4の資源であると言われ、その有効活用は企業や官公庁の組織活動を活性化することに役立ちます。他方、“情報”や“記録”を適切に管理することは、リスクマネジメントの根幹に関わると言っても過言ではありません。別の言い方をすれば、レコード・マネジメントについての知識は、マーケティング、財務、法務、IT等と同様、ビジネス・パーソンが基本的に身に付けておかなければならないものです。本連載では、かかるレコード・マネジメントの重要性を、できるだけ皆さんにわかりやすくご説明したいと思います。

ISO15489
 ISOの規格にもレコード・マネジメントに関するものがあります。ISO15489です。こちらはJIS化(JIS X 0902)されていることもあり、皆さん既にご存知かもしれません。ISO15489では、レコード・マネジメントを「記録の作成、取得、維持、利用、及び処分の効率的で体系的な統制に責任をもつ管理の分野であって、記録の形で業務活動及び処理に関する証拠及び情報を取り込み、維持するためのプロセスを含む」と定義されています。記録の作成(生成)から活用、保管、処分に至るプロセスをライフサイクル(図1)といいます。一般的に、情報や記録は生まれてから間もない期間に最も参照頻度を高くなります。言い換えれば、時間が経過するに従って参照頻度は低下するわけですから、管理方法も、最初は活用することを重視し、最終的には永久に保存しておくか、捨ててしまうか決めなければなりません。

 また、日本ではオフィスの整理・整頓や省スペース化を主たる目的として、ファイリング技術を駆使した“文書管理”が注目を集めてきましたが、最近では単なるファイリングではなく、以下の3つの理由から本格的なレコード・マネジメントの必要性が高まっています。まず、ファイリングに割と近い考え方として、情報の共有、ナレッジ・マネジメントを推進するという理由です。インターネットの普及が進み、さらに便利な検索エンジンも多く開発されています。個々人が日々の業務で情報を収集することは非常に簡単になりました。他方、それらの情報を組織内に取り込んだ後、必要に応じて加工し、効率的に共有することは容易ではないでしょう。次に情報セキュリティの観点です。日本は地震大国と言われるように、世界有数の自然災害発生エリアです。地震の他にも台風や水害等、常に自然の脅威と向き合ってきました。レコード・マネジメントにもその影響は大きく影響しており、例えば、オフィスのコンピュータ化が進んだ60年代から70年代にかけて、企業や官公庁の業務データを遠隔地に疎開させることが行われてきました。さらに、最近では個人情報や知的財産の保護、情報のデジタル化の進展といった要素が加わり、重要な記録や情報を“守る”という意識が高まっています。3つ目は、記録の証拠性を確保し、組織内外に対する説明責任を果たす必要性が生じてきたという理由です。生産者の時代から消費者の時代へ展開したと言われている一方で、事業活動の権利関係は複雑化する傾向にあり、企業が訴訟沙汰に巻き込まれるリスクも高まっています。裁判になった時、判決を大きく左右するのは証拠の有無でしょう。そして、重要な意思決定プロセスを含む企業活動全般について第三者への説明責任を果たしうるような証拠を提供するのは、原本性を確保し、高い証拠能力を備えた記録ということになります。
 さらに、主にナレッジ・マネジメントからつながる概念として、アーカイブというものがあります。歴史的に価値のある史料や、広く関係者の用に供する価値のある記録を永久保存する考え方です。保存資料は一定のルールの下、公開・利用できることが原則です。アーカイブはISO15489において規格適用外の概念とされていますが、広義の記録・情報管理に含まれるものとして覚えておいて下さい。

身近なところにレコード・マネジメント
 社会保険庁の年金記録問題。同庁の杜撰な年金記録管理が明るみになり、連日いろいろなメディアで大きく報道されました。現在も問題が収束するメドは感じられません。我々にも個別に「ねんきん特別便」なるものが郵送されてきましたね。「ねんきん特別便」を受け取った我々は、自分でそこに記載されている年金記録が正しいかどうか確認しなければなりません。例えば、特別便で送られてきた記録に空白期間があった場合、その空白が本当に正しいのか、それとも間違いなのか、我々自身が確認しなければなりませんでした。若い時に本人はあまり認識しないまま、親が代わりに保険料を支払っていたかもしれません。転職が多い人はいつ頃どこで働いていたのか、或いは働いていなかったのか。ほとんどの人は自分の頭の中にある記憶を頼りに照合作業を進めていったことでしょう。しかし、本当にその記憶が正しいかどうか、裏付けとなるのは、例えば自分が働いていた時の給与明細といった記録になりますね。
 年金記録問題は、重要な国民福祉制度である年金の拠り所となる記録管理、レコード・マネジメントについて、事業主体である社会保険庁、厚生労働省の認識が相当に甘かったということに尽きるわけですが、他方、我々国民もあまりにも行政を信じすぎていたのかも…というのは酷でしょうか。我々も重要な“自分活動”の記録を残していくことが必要なのかもしれません。自己責任の時代とも言われています。自分の活動は責任を持って管理する、自分の権利が不当に侵害されていないか、例え相手が行政や大企業であったとしても自らチェックする。少し寂しい気もしますが、そういったことが必要な時代なのかもしれません。別の観点では、平成に元号が代わって既に20年。この連載の読者はほとんどが昭和生まれだと思いますが、昭和の記憶のみならず記録も失われていないでしょうか。「団塊の世代」のノウハウは受け継がれているでしょうか。

  次回以降、主にビジネスにおけるレコード・マネジメントの要諦を説明していきますが、皆さんの身近なところでも、“記録を残し、管理する”ということを意識して頂けるようになれば幸いです。

『月刊ISOマネジメント』(日刊工業新聞出版社刊)/RMCAリレー連載③「企業経営を強化する 実践リスクマネジメント講座」/2009年8月号掲載


執筆者:渡邊 健(わたなべ つよし)
 公認内部監査人(CIA)/シニアリスクコンサルタント®
 山口大学 産学公連携・イノベーション推進機構 客員研究員
 株式会社データ・キーピング・サービス 顧問
 http://www.dks.co.jp/
 レコード・リスクマネジメント研修コース講師