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ISO15489に準拠した記録管理の基本とリスクマネジメントの基礎を学ぶ
レコード・リスクマネジメント研修コース」開催中

渡邊 健  

7回

その記録は何のために残すのか
1月から理事を務めるNPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(以下、RMCA)の総会が2月に開催されました。理事会はNPOのマネジメント・チームとして、総会で会員の皆さんにご承認頂くべき事項、報告すべき事項について議論を重ね、議案という形で提示しました。また、総会の議事録は事務局がきちんと記録し、会員の皆さんにも閲覧して頂けるようになっています。我々理事の任期は2年と割と短いため、マネジメントの継続性を担保するためには、どうしても過去の意思決定や議論のプロセスを遡って踏まえなければならない状況に遭遇します。RMCAには総会、理事会、各種委員会等の機関がありますが、そこでの活動記録は概ね適切に残されており、資料を紐とけば過去の経緯は把握できるようになっています。

他方、ビジネスの世界で日常頻繁にやりとりされている報告書や稟議書を読んで思うこと。「起案者はこの書類を作成する意義がわかっているのだろうか」という疑問です。報告書や稟議書は、ただ単に上位者に決裁を求める目的でのみ作成するものではありません。当該案件に当事者として関わっていない人、将来その組織で過去の経緯を知らなければならなくなった人が、その報告書や稟議書を読んで、当時の意思決定のプロセスを知るために、記録を残すという重要な目的があるのです。その案件に取り組む目的や意義、内容や問題点、最終的な判断の拠り所等が記載されていない書類があまりに多いのではないかと危惧しています。

記録が備えているもの
毎度おなじみのISO15489では、適切に管理されている記録の特性として以下の4点を挙げています。

1.真正性(Authenticity)

記録の真正性とは、当該記録について以下のことが言える時に成立します。

  ・記録されている内容が正しい場合
  ・記録を作成又は発信したと主張する者が、本当に作成又は発信している場合
  ・記録が作成又は発信されたとされている時間に、本当にそうされている場合

要するに、「いつ」「誰が」その記録を作成、発信し、「その内容が作成者の意図する正しい内容であること」が真正性の要件と言えます。

2.信頼性(Reliability)

記録の信頼性とは、記録の事実性が完全で、関連する業務処理のプロセスを証明するに足るものである時に確保されます。記録は、関連する業務処理が発生した正にその時点ないしその直後に、その事実を知っている本人ないし日常的に使われている機器によって作成されるべきです。

3.完全性(Integrity)

記録の完全性とは、その内容が完結していて変更されていないことを意味します。仮に変更があった場合は、どのような追加、削除が行われたのか明示されると共に、その変更の履歴が追跡可能となっていなければなりません。

4.利用性(Usability)

記録の利用性とは、記録の所在場所がわかり、検索、表示でき、その内容が判読、解釈できる場合に確保されます。

記録の特性を意識する
報告書や稟議書を書く時、上記の4点を意識して欲しいのです。

  ・そこに押印或いは署名している起案者が本当に起案した内容ですか?
  ・起案者は当該案件の当事者として適切な人ですか?
  ・案件が起案されるまでに議論された主要な内容が記載してありますか?
  ・後から当事者ではない人が読んでもわかりますか?
  ・何故、その案件に組織として取り組むのか、意見や結論は明確になっていますか?

等々。

何年か前に、ある専門商社の上級管理職に、「社内の記録・情報管理で懸念されていることはありませんか」というヒアリングを実施したことがあります。その回答の中で印象的だったのは、「最近は社内決裁が電子的なワークフローで流れるようになったが、ワークフローで流れてくる内容は非常に形式的なもので、それだけ見ても案件の内容がさっぱりわからない。むしろ、ワークフローに乗せる前に関係者でやりとりしている電子メールの中に主要な議論が入っている。書面の稟議だった時は、添付書類も含め一式にセットされていたのだけれど…」ということでした。

電子的なツールが普及し、確かに便利になりましたが、そのために必要な記録が残らなくなったり、直接会話する機会が減少してしまっては残念です。正式な記録に必要な特性を意識することは、組織内の業務運営上、効果があるだけではありません。例えば、何か事件に巻き込まれた時、不祥事が起きてしまった時、そこに至るプロセス、判断がきちんと記録として残っていれば、少なくとも何が行われたのか、どこがターニングポイントだったのか、対外的に説明することが可能です。「説明責任」という言葉は既に一般的に使われておりますが、私は意識して「挙証説明責任」という言葉を使います。記録を参照或いは提示した上で説明することが重要だと考えるからです。そういう意識があれば、ちょろっと記者会見だけ開いて、「説明責任は果たした」などという無責任な政治家は登場しないと思いませんか?

ビジネス文書は難しい?
文章を書くのが苦手な人が結構多いと思います。仕事で必要な報告書や稟議書が億劫で仕方ない人もいるでしょう。その上、上司からあーでもないこーでもないと赤ペンを入れられ…。でもビジネス文書を書くのに、小説等の創作物を書くような特殊な才能が必要なわけではありません。ポイントは、

  1.何がしたいのか最初に明示する
  2.どうしてそれがしたいのか理由を書く
  3.あたかもその話を知らない人に説明するように書く

といったところでしょう。あなたの大切な人にどうしてもわかって欲しい時、その人が理解しやすいように考えて説明するのではないですか?要するに、相手の立場に立ってその仕事をしているか、相手に理解してもらおうと思っているか、ということなのです。

論文でも随筆でもビジネス文書でも、対象と読み手に対する思いやりや愛情が込められた文章、記録は有用なものとして後世に伝わっていくものです。皆さんも自分がその時、その現場で当事者として頑張っていたんだという証を是非残して頂きたいと思います。

『月刊ISOマネジメント』(日刊工業新聞出版社刊)/RMCAリレー連載「企業経営を強化する実践リスクマネジメント講座」/2011年5月号掲載


執筆者:渡邊 健(わたなべ つよし)
 http://records0517.blog9.fc2.com/
 twitter : records0517
 RMCA-J®上級リスクコンサルタント 公認内部監査人(CIA)
 日本NPO学会、日本アーカイブズ学会、日本オーラル・ヒストリー学会、ARMA会員
 山口大学 産学公連携・イノベーション推進機構 客員研究員
 株式会社データ・キーピング・サービス 常務執行役員
 http://www.dks.co.jp/
 レコード・リスクマネジメント研修コース講師