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リスクマネジメント・ラボ


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ISO15489に準拠した記録管理の基本とリスクマネジメントの基礎を学ぶ
レコード・リスクマネジメント研修コース」開催中

渡邊 健  

5回

“平凡がいい時代”
それが掲載されて以来、私の周りの何人ものビジネス・パーソンが、「あれ、読まれましたか?」と話題にしようとされた記事がありました。2010年6月28日(月)付の日本経済新聞、『現代日本 若者の人生観「偉くなりたくない」顕著』という寄稿です。(財)日本青少年研究所の千石保理事長によるもので、同研究所が2007年にまとめた「高校生の意欲に関する調査」についての、考えさせられる内容でした。

日本の高校生に関して、クラス委員のなり手がいない、「暮らしていける収入があればのんびりと暮していきたい」と答えた割合が42.9%、「偉くなりたい」と答えた割合が40%強。他方、韓国、中国、米国ではともに“のんびり派”は15%~20%前後、「偉くなりたい」と答えた割合が60%~90%近くに達する、とのこと。

当該寄稿は、“平凡がいい時代”が到来し、「頑張らなくてもいい、目立たなくてもいい社会になった」と分析。その反面、「未来が不透明さを増す中で、どんな目標を立てていくのか、今の若者たちに問われている」と結んでいます。

私は一時期、仕事でアジア諸国の若手ビジネス・パーソンと接する機会に恵まれましたが、確かに彼ら彼女達の迫力には日本人にはないものがありました。認められたい、学びたい(というよりも習得したい)というオーラ。シンガポールから香港まであたかも隣町に行くように転勤していく女性マネジャー。アジアは世界で最も期待されている成長セクターの一つです。しかし残念ながらその成長を牽引していく迫力は今の日本にはありませんね。現在成長軌道の真っただ中にいるアジア諸国と同じような志向は必要ないと思いますが、いち早く経済的な成功を実現した先輩として、今の現役日本人に見るべきものがあるのかどうか。これは何も経済的な面に限ったことではありません。政治的にも日本の地盤沈下が心配です。

持続可能な社会とは
先輩日本人が日本人としての誇りを持ち、且つ世界の強豪と切磋琢磨して築き上げてきた豊かな社会。しかし、それは「頑張らなくてもいい社会」とイコールであっていいのかどうか。若者が「(私は)頑張らなくても(何とかしてもらえそうな)いい社会」を期待しているとしたら…。我々には自分達が享受している豊かさやその背景にある経験、ノウハウを次世代に脈々と受け継いでいく必要があるのではないでしょうか。もっと言えば、現実問題として世界における日本のポジションが低下している中、今後も今日のように弛緩した生活が可能である保証はありません。

持続可能な社会を築くためには、世代を繋ぐインフラやソフトが必要でしょう。例えば、来年4月に施行される公文書管理法は、従来、立ち遅れていた行政文書を適切に残し、国民の資産として管理していくために必要なインフラと言えるでしょう。

本誌上講座の1回目で、レコード・マネジメントの意義として、1)情報の共有、ナレッジ・マネジメント 2)情報セキュリティ 3)記録の証拠性、アカウンタビリティの確保 さらに4)歴史的に意義のある史料のアーカイブ を挙げました。公文書館は正にアーカイブズです。そして、官の世界のみならず教育やビジネスの現場でも、ナレッジを共有し、先輩の足跡に学び、世代を繋げていくことは非常に重要な取り組みではないでしょうか。そのためにもレコード・マネジメントを是非推進して頂きたいと思います。

適切な記録・情報管理の実現に向けて
ISO15489では、有効で効率的な記録・情報管理の仕組みを構築するための基本的な要求事項について述べられています。基本事項ですので、一つ一つの項目はやや抽象的です。例えば、各業務処理でどのような記録が生成されシステムに取り込まれるのが望ましいか、記録がどの程度の期間保有されるべきか、正式な記録を保持しないとした場合にどのようなリスクが生じるか、法規制はどうなっているのか、といったことを考慮すべし、となっています。その中でも私が特に重要であろうと思うものについて説明します。

まず一つは、メタデータと呼ばれるものです。メタデータとは、管理される記録・情報の属性情報のことです。例えば、ある契約書を管理するのに、契約日や契約期限、契約の当事者、契約書のタイトル、契約の種類、契約番号等の情報を台帳に記載しておくでしょう。これらの属性がメタデータです。複数の記録や情報に横串を差す際に、キーとなる項目と言うこともできるでしょう。どのようなメタデータを管理するか、言い換えれば、一つの記録・情報にどのようなメタデータを持たせるか、という点について考慮が必要です。

もう一つは、BCP対策です。BCPに関しては、本誌上講座で前田さんが専門的にご説明されているので、ここでは細かい解説は致しません。BCP(Business Continuity Plan)、事業継続計画は、事故やトラブルでシステムや組織・体制の正常稼働が脅かされた場合でも、組織活動そのものが止まってしまわないように、或いは短時間で復旧できるように、事前の備えをしておくための計画です。記録・情報管理は、BCPの一環としても非常に重要です。何故なら、生産や販売等の情報の流れやそれを支えるITシステム、手順書やルールの記録は、組織活動の正常稼働に不可欠なものだからです。従って、適切な記録・情報管理の実現には、組織として重要なバイタル・レコードの特定が重要となるのです。

再び、持続可能な社会とは
冒頭でご紹介した高校生の意欲に関する調査。「若者に意欲が感じられない」と嘆いていても仕方がありません(そもそも、意欲がないのは本当に若者だけかどうか、甚だ怪しいのでは)。“のんびり平凡”がいい、という時代が長く続かないであろうということが容易に想定できる中、多くの人達が“のんびり平凡”モードに落ち着いてしまえば、逆に幸せな生活を早々に手放さざるを得ない状況に追い込まれるのではないでしょうか。先輩達が築いたものを食い潰し、持続不可能な社会、経済的にも文化的にも破綻或いは見るべきものが無い国になってしまうかもしれません。

社会全体の持続性を考える際、考慮しなければならないことはたくさんあるでしょう。それは十分に承知した上で、最後に、敢えてBCPやレコード・マネジメントの考え方を使って、シンプルに議論しておきたいと思います。

まず、我々の社会、日本の豊かさや付加価値を持続させていくために、必要不可欠な要素、優先して守らなければならないことは何かを考えましょう。BCPで言えば、BIA(Business Impact Analysis)、ビジネス影響度分析を経て、コア業務を抽出するプロセスです。

次に、その優先事項が少々の環境変化(BCPが想定する災害やトラブル)にも耐えられるように、社会の仕組みを支えている情報の流れ、さらにはいつでも参照できるように備えておくべき記録にはどのようなものがあるのか。

私が上記優先事項に該当すると考えるのは、教育、世代間の意識共有、技術、誇りやホスピタリティといった事柄です。そして、これらを支える情報の流れや残すべき記録とは…。現在、模索中です。

『月刊ISOマネジメント』(日刊工業新聞出版社刊)/RMCAリレー連載⑮「企業経営を強化する実践リスクマネジメント講座」/2010年10月号掲載


執筆者:渡邊 健(わたなべ つよし)
 http://records0517.blog9.fc2.com/
 シニアリスクコンサルタント® 公認内部監査人(CIA)
 日本アーカイブズ学会、日本オーラル・ヒストリー学会、ARMA会員
 山口大学 産学公連携・イノベーション推進機構 客員研究員
 株式会社データ・キーピング・サービス 常務執行役員
 http://www.dks.co.jp/
 レコード・リスクマネジメント研修コース講師