人生の出会いは、回数や時間の長さではなく、その濃度によって決まるのではないでしょうか。
「一期一会」や「知音」という言葉が示すように、人は必ずしも長い時間を共にしなくとも、その瞬間に人生の方向性を決定づけるような縁に巡り合うことがあります。今回は、私自身の人生の岐路において、その意味を深く実感した出来事について触れてみたいと思います。
前職在籍の終盤、今後の進路について模索していた時期に、あるセミナーをきっかけとして一人の人物と出会いました。関西におけるベンチャー支援の草分け的存在でもあった公認会計士のH先生です。
「ワンコイン診療、日本の医療制度を輸出産業に」という医療改革の構想をテーマとしたセミナーに参加した際、その発想の斬新さに強い印象を受けたことを記憶しています。そして翌日、別の会合の場で偶然にも再びH先生とお会いする機会を得ました。懇親の時間に思い切って、自身の独立に関する迷いや考えを率直にお伝えしたところ、非常に真摯に耳を傾けてくださいました。
当時、先生は体調を崩されており、携帯型の呼吸補助装置を身につけながら活動されていました。そしてさらに翌日、突然先生から電話をいただき、「今から会えないか」とのお声がけをいただきました。指定された場所は芦屋川河口の河原でした。御座を敷き、これまで勉強会を行ってきたというその場所で、晩秋の冷たい空気の中、手持ちの柿を分けていただきながら、静かにお話を伺う機会を得ました。
その際にいただいた言葉が、今でも強く印象に残っています。
「独立という心構えは中途半端ではできない。何を軸に切り開いていくべきか、その指針を持って歩むことで、応援者も現れ、道が拓けていくものだ。」
結果として、当時相談を受けていた医療分野の事業そのものには直接関わることはありませんでしたが、その後まもなく、志半ばで先生はこの世を去られました。
あれから13年が経過しましたが、振り返ってみると、この偶然でありながら必然とも思える3日間の出会いが、現在の自分の方向性を形作ったと言っても過言ではありません。
一期一会とは「一生に一度の出会いと思って、その瞬間を大切にせよ」という意味であり、知音とは「本当に理解し合える相手は多くないが、出会えばすぐに分かる」という意味を持ちます。まさにこの二つの意味を同時に実感した出来事であったように思います。
現在の専門分野は医療とは直接関係しているわけではありませんが、数年前には医大においてITに関する助言を行う機会をいただくこともありました。当時の経験を振り返ると、自身の専門領域そのものよりも、「何を軸として判断するか」という姿勢が、その後の選択に影響を与え続けていることに気づきます。
リスクという分野に携わる中で感じるのは、本質的な課題に気づくためには、一定の準備が必要であるということです。直感というものは突発的に生まれるもののように思われがちですが、その背景には、日頃からの問題意識の整理や思考の蓄積が存在しています。
自身の考えや悩みを言語化し、経験を重ね、その上に新たな視点を積み上げていく。その積層的なプロセスを経てはじめて、本質的な示唆に対して感度が高まるのではないでしょうか。
リスク対応においても同様に、望ましくない事象に対して事前に備えを講じることにより、不確実性への対応力を高めることが可能になります。複数の対策を重ねていくことで、想定外の事象にも柔軟に対処できる状態が生まれます。
理屈だけでは捉えきれない「知音」や「一期一会」の世界観は、偶然に任せるだけでは十分に活かすことができません。自身の価値観や判断軸を磨き続けることで、初めてその意味に気づくことができるのではないでしょうか。
日々の忙しさの中で、つい流されてしまいがちな時間の使い方を見直すことも、直感を研ぎ澄ます一つの契機となります。本流を捉えるための試行錯誤は容易ではありませんが、その積み重ねが将来の選択の質を高めることにつながると考えています。
皆様にとっての「三日の出会い」は、どのような形で訪れるでしょうか。一度立ち止まり、自身の判断軸について考えてみることも有益かもしれません。
株式会社シー・クレド
代表取締役 乙守 栄一