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  1. 普遍的リスク対策 乙守栄一
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第83回 バッファにより可能なリスク対策

バッファというとどういうことが連想できるでしょうか。余裕、糊しろ、幅、色々な概念的な意味合いが含まれてきます。現在のウクライナを地政学的に見ると、NATOと共産圏であるロシアとの狭間に広大な面積を有する国家の位置づけとなっています。また、ウクライナは豊富な食料や資源を有する宝の地ともいえる立地条件からも、その存在がどう傾くかによって、NATO、ロシアにとって脅威となり得る地と言えます。

今回、ウクライナがNATO側に傾くことでロシアとしては長い国境線がNATOとダイレクトに接することからバッファが無くなる、そういう脅威が差し迫ったことによる侵攻であると言えなくもありません。(決してロシア侵攻に対して肯定的であるということではないことは付け加えておきます。)

朝鮮半島の38度線においても、非武装地帯(DMZ)というバッファが設けられているため、均衡を保っていられます。他にも幅の広い川や収斂な山脈などは天然の要害として設けられた国境もあります。この幅がある意味バッファであり、人の立ち入りを困難にしていることの軋轢を生まない緩衝地帯となっています。日本としてみれば、国境として広大な海そのものがバッファとなっています。

事ここで家庭に目を向けるとどうでしょうか。マンションであれば、個々の部屋が存在し、隣近所に行くにも共用廊下や階段というバッファを通って訪ねていくことになります。バッファがあることで区切られたテリトリー、自分だけの空間が形作られることで心の安寧が保たれることに繋がります。片や地震や大雨といったときに利用される避難所はひとまず安全のために退避してくる人で溢れかえります。簡単なマットや毛布レベルで一人当たり、もしくは一家族あたりの空間を維持しますが、隣近所は丸見え状態で、ちょっとした物音そのものでも気になるストレスフルな空間になりがちです。動物でさえ、テリトリーを侵す敵は容赦なく追い払う行動はよく目にする話です。

バッファとは空間だけとは限りません。時間そのものをバッファと捉える考え方もあります。よくトラブルがあったとき、時間が解決するという表現も用いられます。個人レベルに置き換えると、家族との一家団欒もあるものの、常に顔を突き合わせているとストレスを感じる夫婦もいます。そうならないように趣味など、一人の時間を作ることでうまくバランスを取ってストレスフルにならない個々人レベルでリスク対策の手を打っています。

このように空間、時間というバッファは余裕を創出し、心の安寧をも産み出すことになります。落ち着き、疲れを癒すタイミングは次なる行動へ備えるための英気を養う縁(よすが)ともなります。

私も過去に余裕のないスケジュールのPMの仕事をしたことがありました。当然遅れがみるみるメンバーの焦りを産み、ミスを誘発し、やがてその仕事はスケジュールのまとまった遅延を産み出し、予定を完遂することができませんでした。その後、仕事としては大損を出し、土日祝日まで反省とリベンジのための具体策の検討に費やされる1,2カ月間を過ごしました。当時、プロジェクト全体のPMを行なっていた身として、バッファの意味を次の通り定義しました。プロジェクトの完遂目標を8割にする提案です。2割は完遂すればラッキーと捉え、最低限8割さえクリアできれば成功したものと位置づけ、リスケジュール案を作成しました。その命名をJターン計画と名付けました。結果、リトライは成功し、残った完遂出来なかったものは別スケジュールでゆっくりと安全に遂行でき、100%成功を治めました。この場合は仕事量というバッファを設けたことによるリスク対策です。この経験は私にとって今に活きています。

平和の概念は日本と世界とでは全く異なります。平和とは日本では全く何も起きていない無風状態のことを指しますが、世界は戦争と戦争の起きていない隙間のタイミングのことをいいます。したがって、世界は常に戦争の危機に晒され、何かしら争いが起きている状態を歴史上も常態として位置付けてきた過去がありました。一方日本は、世界大戦の一時期を除き、戦争という時期が常態化してきていることはここ400年というタームで見たときはやはり無風状態の方が長かったと言わざるを得ません。このような背景から一切のバッファを省き、必要最低限で物事を進めても大丈夫と判断する傾向の強い日本人の性向を産み出したと言えなくもないと考えます。

バッファは無駄ではなく、必要とされる余裕度合です。このバッファをどう設けるか、皆さんもリスク対策の必要な因子として捉えてみませんか。

株式会社シー・クレド 代表取締役
京都府立医科大学 特任教授
乙守 栄一

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