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第96回 脳裏に宿る記憶の術(聞く)

文字のない時代からどのように文化が発展し、今の世界の情勢が形成されてきたか?このことを追いかけると、ふと我に返ることがあります。私が小中学校の時は何か物事を調べるにも図書館に出向いて百科事典を紐解いて調べる、大学・大学院時代になると、より専門分野を追求しようものなら査読済の論文を追いかけ、出典根拠を明確にしながら研究テーマの妥当性を自分なりに評価していく、こういうプロセスが当たり前でした。

今や、簡単にインターネットのキーワード検索だけで、瞬時に世界各地の情報源から収集され、手元にインデックス情報が集まります。ましてや、YouTubeなど、動画において得られる情報まで出てきました。文字や絵の世界だけでは伝えられない、さらなるインパクトを残すため、ストーリー立てた仕掛けまで登場しました。しかし、これら動画も含めたインターネット検索においてもその出所までは保証されません。その得られた情報を採用するもしないも、すべて自己責任となります。

もちろん、このようにさらなる視覚に訴え、目から入る情報も含めて情報洪水の状態に変わりはありませんが、果たしてこれらの情報はあなたの記憶として定着しているでしょうか?時として視覚から入る情報は雑念として処理され、集中力や記憶の妨げとなります。

記憶というプロセスは、単なる暗記だけではなく、その対象となるプロセスを理解する、腑に落とすという自分独自の解釈方法を経れば、単なる記録ではなく使える記憶として脳裏に定着します。

人は昔から口伝という形で、それほど識字率が高くない時代からでも代々、昔話や経典の内容など、語り継がれてきました。いわば、人の記憶から次世代の人への記憶です。その伝え聞くプロセスの中に、その記憶に施す納得性のステップがあって、記憶への定着が図られてきました。今風に言えば情報セキュリティ対策を施したアーカイブ伝承とでも云えるでしょうか。

今、活字離れも長く叫ばれ、大手本屋でも電子図書の普及に力を入れるようになってきました。そのような中、出版されている本を読み聞かせるサービスが登場してきました。これは一つの革命の序章になるのではないかと考えています。冒頭申し述べた口伝の下りです。私も受験時代、深夜ラジオを聞きながら勉強すると心落ち着き、集中できた時代を生きてきました。耳から入る情報は何となく聞いていながらもきっちり脳は働いている、時には目覚め、新たな気づきを呼び起こすスイッチを持っています。歴史の様々な事象が口伝という形で実現できたことがそれを証明しています。聞くという行為は、その目にする対象が目の前になくても想像力を働かせます。その耳にする言葉で理解し、想像できるイメージ(偶像でも構いません)があると記憶の定着だけではなく、その理解し、納得したプロセスまでセットで記憶されます。それが他の事象の理解を手助けするだけでなく、目の前に降りかかる数多くの難問を自力で解決していくための頭の使い方のベースになっていくものと考えます。

聞くだけ、という行為は単純な記憶定着としてのプロセスだけを提供するだけではなく、機会の平等を提供することもできます。例えば、東京大学という学びの場で勉強する接点も環境も発想もない環境で育ってきた子供が、格安の聞くだけのインフラを活用することで自由に想像し、自分だけの世界を構築し、未来を作り上げることを可能にします。いわば教育機会の平等、というものです。スキルを追いかけるだけの時代は過ぎました。何のためにそのスキルを学ぶのか、本質を見極めるIssueを追いかける教育、それがリカレント教育の原型と言っても過言ではありません。

法科大学院設立以降で、18歳という史上最年少で司法試験をパスした人も実際の法廷の傍聴やWeb講義内容の録音再生という「聞く」というプロセスで司法試験の勉強をしたと言われています。

人手不足や技術進化の対応に、AIやDXなど、テクノロジーを駆使すれば乗り切れる、確かにそういう未来像は描けますし、そういう時代はそう遠くないタイミングで到来するでしょう。しかし、その時代になった時、AIやDXをどういう形であなたは利用する立場になっているか?ということが大事です。AIやDXの提案された形態を何となく受入れ、これらのツールに踊り踊らされるリスクに気づくことなく、一方で何かしら満たされずに悶々と過ごしている自分の姿は想像できますか?

情報洪水の時代、不透明・不確実な時代だからこそ、求められる自分なりの判断基準。「聞くだけ」というプロセスは有用です。便利な時代となった今のテクノロジーと「聞くだけ」というプロセスを掛け合わせることで、この混迷の時代を生き抜いていく力が必要となります。そういう時だからこそ今一度シンプルに「聞くだけ」というプロセスに立ち返ってみては如何でしょうか。

株式会社シー・クレド
代表取締役 乙守 栄一

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