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第92回 『意志の否定』から見る現代を生きる術

日本人は、人生思うとおりにならないことを受け入れ、辛いことを我慢し、耐え忍びながら生きることを美徳とする文化があります。なぜ、辛いことを辛いと感じてしまうのでしょうか?それは、思い通りにならない人生を当たり前という前提で生きていることへの諦めと言えなくもありません。

日本においては、感情を表に出さず、言っても仕方のないことを敢えて言わないことを品性と定義し、独自の文化として育んできました。その中で釈迦の教えにもある、涅槃の境地(智慧を磨き、修行を積み、迷いや煩悩や拘りを断ち切り、そこから悟りに到達して、いっさいの苦労や束縛、輪廻から解放された最高の境地のこと)に達することこそ、究極の人生の目指すべき最高のステージと言われます。

ドイツの哲学者、ショーペンハウアーは『意志の否定』という、我々を死ぬまで操り続ける「生きようとする意志」から自由を求める哲学(生きる道)を打ち出しました。ある意味、西洋思想と東洋思想の融合をも併せ持つこの『意志の否定』。物事を肯定ではなく、否定として捉え、ウソにまみれた現実社会の中から「本当」を見つけることを突き詰める。その解決策として、釈迦の教えに辿り着き、「生きようとする意志」からの解脱を解きました。

いま、目の前に見えている現象なり物は、表象として捉えるとそれ自体、意志を持ちません。それ自体、言い換えると「目的を持たない意志」に仕える自分自身、このような環境下に置かれていること自体が本来の人間として生きている価値があるのか?という疑問を持たざるを得ません。

いまの社会、雇用の身に置く人は必ずや組織の中に身を置くことを余儀なくされます。その組織自体が「目的を持たない意志」に動かされているとした場合、そこで働く皆さんはどう感じるでしょうか?やるせなさを必然的に感じることにはならないでしょうか?

人は、その「目的を持たない意志」のなかの「生きようとする意志」に奉仕するために、さらに際限のない欲望に満ちた社会システムを増やし続けることに寄与してしまっているのが現状です。このような社会システムの中で生きていくこと自体、それこそ修行と言わざるを得ません。

苦しみを感じるからこそ、自分自身がわかる他人の苦労、これを共苦といいますが、この共苦の感性があることで、人の苦しみを見て見ぬ振りができない、損得勘定を抜きにした自発的行動に結びつくことがあります。溺れている人を見かけたとき、我先に飛び込み助けに行くなどのニュースは典型例です。この共苦を持ち合わせた人は、辛い経験をしたことから、人間味があるなどと言われる所以です。

現在は世界の垣根を超え、インターネット等から情報が満ち溢れています。その中に渦巻く欲望に満ちた情報が散乱し、人の思考状態をますます錯乱させていっています。人は数ある欲望に満たされることを願い、その欲望を追いかけ続けるものの、満足いく結果が得られず、苦しむ想いに苛まれています。

一方、欲望を追いかけるのではなく、そもそも欲望を満たすことを行なわなければ苦しみに至ることはなくなる。欲望に満たされる世界にわざわざ飛び込むことをしない、特に老齢期に入ってきた人はこの境地に達すると言われます。言い換えると、このような苦しみになる局面に敢えて飛び込まず、苦しまないことを選ぶようになります。

幸せとは長時間、比較的心地よい状態が続くことをいいます。嬉しい、楽しいなどは瞬間的かつ突発的な感情的な移入を伴う心地良さであり、長く続くことはありません。この嬉しい、楽しいという状態を幸せと勘違いし、ある種中毒性とでも言える状態を追い続けてしまうことから、嬉しさ、楽しさを実感できないことへの苦しみに至るともいえます。

いつも歩く道の脇にきれいな花が咲いている、今日は暖かな日和で散歩するには打ってつけの日である、肌寒いと思われる日にウグイスの声がどこからとなく聞こえるなど、身の回りにちょっとした“良い”変化に気づくように心がけることが心地よい状態に導きます。事物、表象に捉われないために、ひと時の心の解放にはクラシックのような音楽を聴くと良いとも言われます。ショーペンハウアーによると意志そのものの模写を表すと言うクラシック音楽は、高音域から低音域まで幅広く響く音響に、ひと時耳を澄ませる、そのこと自体が我々の意志を鎮静化させるとも言われます。

皆さんもこのような「意志からの自由」になる境地、味わってみませんか?

株式会社シー・クレド
代表取締役 乙守栄一

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