物語や小説などのストーリーでは筋書きがあり、ついつい引き込まれてしまうことはだれしもが一度は経験することでしょう。なぜ、引き込まれてしまうのでしょうか?引き込まれるということは、そのストーリーに対して感情移入してしまっていることになります。ストーリーへの没入です。
一方で、ストーリーは真実でしょうか?時にフィクションであり、作り上げられたものであり、ストーリーを考える人の「意図」がしっかりと入っています。すなわち、これは極端な言い方をすると、読者や見る人を気持ち良くさせるだけではなく、逆の言い方をするならば「罠」に嵌めてしまうことになります。しっかり仕掛けた罠に嵌った人の数が多ければ多いほど、そのストーリーに対して良いも悪いも「ファン」化することになります。
真実ではないことに嵌まってしまう、小説や物語など、書籍上の世界(枠)の中だけで影響されることは趣味の延長線上で大して影響はありません。しかし、真実ではないことに嵌められてしまう場合はそう簡単には問屋は卸しません。
世のメディアは挙ってある決まった一方向への偏向報道を行ないます。また、メディアはストーリー建てのプロですから、起承転結、人の感情を揺さぶるためのストーリー作りを行なって、人をそのストーリーにどっぷり嵌めてしまいます。脳科学でいうところの大脳辺縁系がメディアによって刺激され、人の思考をコントロールしてしまいます。感情に流されやすい人という表現もよく使われます。まさにこのコントロールされてしまっていることと大きく関係しています。
感情的になってしまうと、物事の判断を誤るともいいます。まさにこの感情というものが脳の表面(大脳辺縁系)にあるが故に、本来、しっかりと考えるために人が持つべき脳の奥にある各種機能を使うための働きを狂わせてしまっているのでしょう。また、感情移入してしまうとその脳内ホルモンであるオキシトシンが分泌され、記憶に深く残ってしまう科学的なデータも出てきています。また、厄介なことに、まったく関係のない他の経験と結びつけて考えやすい、ということからも冷静な判断を過たせてしまう脅威がここには存在します。
では、どのように対処すればよいのでしょうか?これまでのコラムにおいても、繰り返し考える癖を付けることについて、角度を変えた観点でもって述べてきました。これはこれとして重要なことに変わりはありませんが、それよりも先に「自分自身」がどういうタイプの人間であるかを正確に知ることが重要です。
現在、ユンク、フロイト等の時代から発展しない古典心理学を活用した五因子理論、MBTIを用いて人そのものを診断しています。これらの手法の評価軸は主観的要素に偏っていることと、荒い分析しかできない性格占いと同じ手法になっているため、誤診断も多く、その都度誤った方向に自分自身を導いてしまうという悪循環に陥れています。
では何が優れたものが出てきているか?これまで話してきた内容から、脳を起点とした認知プロセス(脳認知科学※)にて「自分」を知ることができます。人が育ってきた環境は十人十色です。育ってきた家庭環境も違えば、育ってきた土地風土、教育環境、人との縁も様々です。このような人生、日月を積み重ねてきた人はその人なりの固有の認知プロセスが出来上がっているため、独自のタイプが形成されています。
人は目や耳など、五感を通じて何かしらの情報を得ます。まず、①入ってきた状態を認識して、②その後考察というプロセスに入り、③その判断結果として行動を起こすことになります。瞬時に起こる認知プロセスですが、分解するとこのように「認識」「考察」「行動」という3つのプロセスとなります。脳認知科学をベースとした診断ロジックで構成された診断項目を通じて、8192パターンのタイプから自分に合致したタイプが浮き彫りにされます。
自分とはどんな人間で、どういう未知の力があり、どういう適性があって、どんなタイプの人と合うのか、これらが正確にわかります。まず、自分自身の特性が理解できれば、ストーリーに振り回されない確固たる“己”を確立していただくことができるのではないでしょうか。本質を見極めるための自分自身のベースライン(土壌)を構築し、そのうえで考えることができれば、どのように世情が変化しようとも、下手なストーリーに嵌められることはありません。このリスク対策として、脳認知科学というサイエンスを活用してみるのも、きっとあなたにとって有意義かつ納得性のあるものになるでしょう。
※ロジャー・スペリが脳の構造や機能に着目し、神経科学の分野を発展させた理論。
同氏は左脳右脳分離論で1982年ノーベル生理医学賞を受賞。アインシュタインやゲーデルなどの碩学者らが、プリンストン高等研究所で脳認知科学の基盤作りに関与。
株式会社シー・クレド 代表取締役
元 京都府立医科大学特任教授
乙守 栄一