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第77回 スカラーのもつ意味とその大事さ

スカラーという言葉を耳にされたことはあるでしょうか?遠くは高校数学の幾何学において出てきた言葉が最初かもしれません。ベクトルとスカラーの組み合わせ。ベクトルとは向きと数的な大きさを持ったものです。しかし、スカラーには向きはありません。数の大きさだけを持った場であり、空間という概念、さらには無次元の場と表現しても良いかもしれません。

何故、ここでスカラーという言葉を出してきたか?この語源の本質には自由という概念が含まれています。遠くギリシャ哲学において、スカラーの語源はスコレ(schole)から来たと言われ、閑暇、ひまという、日本語にすると誤解を与えそうな意味で記載されていますが、要するに「時間的ゆとり」のことを指します。

元々、11世紀頃の一大翻訳作業に端を発し、ギリシャ・ローマ古典の復活に合わせて、ヨーロッパで盛んになったのがスコラ学という学問でした。スコラ学はロジックの学習と質疑応答を中心に据えられた方式でした。この学習の場所(教場)のことをスコラと言い、現在のスクール(School)の語源となっていると言われています。

このスコラ学の発展が後の大学の誕生に繋がり、現にボローニャ大学、パリ大学など11~12世紀にかけて誕生してきました。ローマ時代に自由な学芸と言われていたリベラルアーツ(教養学科)も加わってきました。

スコラ、スカラーともにその語源の本質には、自由、時間的ゆとり、場、空間、学びといった概念が含まれています。

言葉の一人歩きは恐ろしいという反面、ものすごく多様な意味を含むこの「スコラ」という言葉の奥深さを少しはご理解いただけたかと思われます。

今のこのご時世、スコラの概念からを見たとき、どう映るでしょうか。

時間的ゆとり、確かに働き方改革という半ば強制的な意味合いであらゆる組織で日本国内は一丸となって取り組んできています。その結果、時間的ゆとりの土壌はできつつあります。しかし、それを自由と解釈できますか?自由とは責任を伴います。自己中心的になんでも行なってよいという、現在の他責意識満載に行動することを自由という言葉の範疇には入りません。自己責任を伴う、それが自由です。真の意味で今のご時世は自由ではないと解釈できませんでしょうか。

さて、場という概念に移ってみましょう。皆さんにとっての場はどうでしょうか。学びの空間になっていますか?議論し合う、楽しく同じ同志として学び合う場はありますか?コロナ渦でリアルな場からバーチャルな場に一挙にシフトしました。時代と共に技術も大きく進歩し、学びの場も方式も大きく変わろうとして来ています。情報も正しいもの、フェイクと混在したものの洪水状態となっています。一種のカオスというどこに向かおうとしているのか誰も説明できない事象が発生しているといっても過言ではありません。

ここ最近のニュースでも、ゆるい会社に不安を持つ若者が多くなっているという実態が明らかになったそうです。ハラスメント、少し厳しく言われたことをすぐにハラスメントに置き換え訴える、世間も報道もやり過ぎたハラスメントの助長の反動といえなくもないでしょう。時間的、心的ゆとりのあるスカラー(場)の無さが今の個人にとって、極端に心の栄養失調状態になっているのではないでしょうか。

場のあり方は時代と共に変わっていくでしょうし、変わらざるを得ない外的動向もあります。ただ、場そのものを作ることは何も機械が作ることではありません、人が作るモノです。

場は全方位に向いています。何の縛りもありません。しかし、行き過ぎた管理社会の締め付けのせいで、人は本来いる場の解釈を誤ってしまいました。暗中模索しながら日々不安を抱えています。リカレント教育、多様性といった本来“場(スカラー)”が持つ一端の意味の言葉も出始めていることもこのあたりの不安から自主的に出てきた動きと解釈できます。

DX、メタバースといった最新の考え方、技術の導入によって、新たな場が構築されようとしています。とはいいながら、旧来の “スカラー(場)”の持つ、個人個人が活き活きとした活気をもたらす意味をどう、DX、メタバースに取り込む動きが今、主となっているでしょうか?ここが大きな分かれ目です。構想は私の中では既に出来上がっています。

しかしながら、旧態依然の管理社会の産み出してきた負の遺産、疲弊、拘りに対する断捨離がどの程度できるか、ここに対して我々は個人個人が気付く機会を与えることしかできません。個人の価値観を他人が強制的に変えることができないからです。一見、勘違いしている自由という捉え方も、実は奪われた自由、統制社会の中でしか機能していないこと、早く気付くべきです。この気付かない一人ひとりの一挙手一投足が国難の大きな要因となっているのです。

もう茹でガエルの“場”からそろそろ脱しませんか?きっと古代ローマ時代の頃のような雰囲気を持つ、心の栄養満載な“次世代版スカラー”ができることでしょう。

株式会社シー・クレド 代表取締役
京都府立医科大学特任教授 乙守栄一

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