【さまざまなICカード決済に対応】
クレジットカード業界が進めるカードのIC化。狙いは、セキュリティー性能に優れて偽造されにくいICカードの特長を生かし、カードの不正利用やカード犯罪の防止を図ろうというところにある。その一方で、ICカードが持つ本人認証・決済機能や磁気カードをはるかに上回る記憶容量に着目した多様な活用法も検討された。例えば、JCBは1997年7月に東京・三鷹で、1枚で後払いのICクレジットカードと前払いのプリペイド型電子マネー機能を併せ持つカードの実用実験を実施。また、VISAが中心となり、97年から99年にかけ、神戸や渋谷でICカードを使った電子マネー実験も行われた。
2001年11月に一般利用が始まった自動料金収受システム(ETC)では、カード会社が有料道路会社と組み、高速道路などの通行料金を後払いで精算するETCカードを発行。なかには、ETC機能とクレジット機能を1枚に取り込んだ多機能ICカードの発行例もあった。
ICカードには、ICチップと接続された端子がカード表面に埋め込まれ、ICカード対応端末(リーダーライター)に差し込みデータのやりとりを行う「接触型」と、カード内部でICチップとアンテナが接続され、端末側と無線交信し情報を交換する「非接触型」がある。
安全・安心な取引が求められるクレジットカードでは接触型が主流だが、使い勝手の良さから少額決済マーケットの開拓を主眼に非接触型ICカードを用いたポストペイ(後払い)サービスも開発された。代表例としては、04年8月に関西地区の交通事業者らが発行した「ピタパ」や05年4月にスタートしたJCBの「クイックペイ」、同年12月開始のNTTドコモと三井住友カードが組んだ「iD」などがある(注1)。
非接触型IC決済のウリは“決済スピードの速さ”。このため、導入店は食品スーパーやガソリンスタンド、ファストフードなどレジ前の混雑解消を望む業態が多いようだ。
クイックペイやiDなどで採用された非接触型IC技術はいずれもソニーが開発した「フェリカ」。本技術は国際標準規格「ISO/IEC14443」(タイプA・タイプB)に準拠しない独自仕様の決済スキームであり、海外では利用できない(注2)。
なお、フェリカはプリペイド型の電子マネー決済にも使われた。利用者は非接触型ICカードに前もって現金をチャージ(入金)しておき、カードをリーダーライターに近づけると代金が自動的に引かれる仕組みだ。01年11月に始まったJR東日本の「スイカ」やビットワレット(現楽天エディ)の「エディ」、07年4月開始のセブン&アイホールディングスの「ナナコ」、イオンの「ワオン」などが主な例。クレジットカードと一体化してオートチャージ機能が付いたものもある。
【ネット通販でも活躍するクレジットカード】
一方、インターネットを通じて商品・サービスの売買ができる電子商取引(EC)でも、クレジットカードは便利な支払い手段として重宝されている。総務省「平成30年通信利用動向調査」によれば、「インターネットで購入する際の決済方法」はクレジットカード払い74.7%、コンビニでの支払い43.0%、代金引換32.7%、銀行などでの振り込み・振替27.5%、ネットバンキングなどによる振り込み16.7%、電子マネーによる支払い9.5%などとなる。ネット通販でカード決済の割合がほかを大きく引き離しているのが明らかだ。
カード業界はネット上でのカード決済の安全性を確保するため、情報セキュリティーの強化にも積極的に取り組み、00年代初めからは「3Dセキュア」の推進に注力。3Dセキュアはネット通販でクレジットカードを利用する際、カード番号や有効期限のほかに本人しか分からないパスワード(事前に登録)を入力し、利用者を認証する方法。カード情報の盗用による成り済ましなどの不正利用をブロックできる。VISA、マスターカード、JCB、アメックスの4国際ブランドが採用する本人認証サービスとなっている(注3)。
さて、対面・非対面を問わずクレジットカードの使える場が広がる一方、前払いや即時払いのさまざまなキャッシュレス手段も増加。交通系や流通系のICカード、タッチ型決済、QRコード決済、デビットカードなど多岐にわたる。19年10月にキャッシュレス決済でのポイント還元事業が始まり、店先で「〇〇使えます」といったキャッシュレス普及促進のポスターもよく見掛けるようになった。
いろいろなキャッシュレス払いの登場はカード業界にとっても歓迎すべきことだ。クレジットカードの後払いのメリットを強くアピールできるほか、他のキャッシュレス手段との連係で相乗効果を発揮できる。クレジットカードの役割はますます大きくなっていくに違いない。
【次代につないでほしいカードの歴史】
10回にわたりつづってきたが、60年に及ぶわが国クレジットカードの歴史に学ぶことは多い。国の法整備や積み重ねたインフラ、高いセキュリティー性はもちろんだが、何より先人たちの汗と涙の結晶が今日のカード業界の礎となっている。
業界の歩みは、消費者のより豊かな生活を実現するために、物心両面でどう対応したらよいのか、自問自答の連続だった。その精神は脈々と受け継がれ、種々のシステムや商品・サービスとなって具体化されている。
いつの時代にも消費者に寄り添い、消費者のニーズに応えてきたカード業界。個人消費の下支えとしてわが国経済の発展にも貢献してきた。後進の皆さんには、こうした業界の歴史や社会的意義を次代に伝えるとともに、これからも、わが国社会のキャッシュレス化の進展を主導的立場でリードしてほしい。クレジットカードのさらなる発展に期待する。
(注)
1 VISAやマスターカード、アメックスなども、2000年代初頭から国際標準規格に準拠した非接触型ICカードによる決済サービスを提供。クレジットカードやデビットカード、プリペイドカードに対応するが、わが国で使える場所は限られる。
2 国際標準規格タイプA/Bと日本仕様フェリカの互換性を有する無線通信技術NFCが開発され、わが国でも近年運用が始まっている。
3 カード業界は「PCI DSS」の導入も推進。PCI DSSはカード会員の情報を保護する目的で定められたセキュリティー基準。アメックス、ディスカバー、JCB、マスターカード、VISAの5社によって策定された。
掲載号 / 週刊金融財政事情 2020年3月30日号