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広報の目
          
風間眞一広報リスクマネジメント
広報アドバイザー 風間 眞一  

第6回 トップ退陣、試される広報“引き際”の演出

『フジサンケイ広報フォーラム』会報 No.324 2014年 2月号 広報の目Vol.11 より転載

 今年は弘法大師が弘仁六年(815年)に開いたと伝えられる四国八十八カ所霊場開創1200年に当たる。88ケ寺の多くで御本尊の開帳や秘宝の公開などが催され、大勢のお遍路さんで賑わうに相違ない。
 
 遍路というと元祖とされる衛門三郎の伝説が名高い。昔、伊予国に衛門三郎という欲深く意地の悪い長者がいた。ある日、三郎は托鉢に来た修行僧の鉢を叩き割り追い払うが、僧は弘法大師だった。

 その後、三郎は8人の子を次々亡くす。それまでの悪行を悔い、三郎は許しを請おうと大師を探して四国を巡る。21回廻ったところで病に倒れる。この時大師が現れ、「衛門三郎」と書いた小石を手に握らせると三郎は安らかに息を引き取った。

 数年後、伊予国主河野家に男子が誕生するがその子の手が開かない。菩提寺で 祈願したところ、手が開き「衛門三郎」と書かれた小石が出て来たという。これに因み、寺号は石手寺と改められた。石は今も51番石手寺で見ることができる。

 因果応報の仏教観、不祥事の責任を取り心ならずも退任に追い込まれるトップにも通ずる話かもしれない。突然頂点から滑り落ちる訳で、「寸前暗黒」胸中察するに余りある。昨年も公益法人や事業会社、自治体の長など事例に事欠かない。

 筆者もかつて広報部長時代に商法違反による社長退陣に関わった。事象は重く、企業の信頼回復にはトップの1日も早い決断が必須だった。辛くとも広報にとっては組織やブランドを守る立場に徹しなければならなかったのは言うまでもない。

 せめて広報がやれることは退陣会見での配慮。引き際をどう演出するか。テレビカメラを意識した服装や表情・しぐさ、言葉遣いやQ&A、禁句のチェックなどトップへの的確なアドバイスは不可欠。混乱して恥をかかせることはできない。

 誰しも欲はある。人は得てして地位や目先の利益に惑わされるもの。ただ自らを見失わないためにも時に“内なる衛門三郎”と向き合う心の余裕を持ちたいものだ。いかなる局面でも動じない姿勢が求められる広報としても肝に銘じたい。



執筆者:風間 眞一(かざま しんいち)
 広報アドバイザー 1973年日本信販(現三菱UFJニコス)入社。 広報部長などを経て2009年退社。広報業務に18年携わる。07年 経済広報センター第23回企業広報功労・奨励賞受賞。